塩塚モエカ(羊文学)のハンドヘルド・マイク自由研究|NEUMANN KMS105

塩塚モエカがハンドヘルド・マイクを試して語る連載、第5回目!

塩塚モエカ(羊文学)のハンドヘルド・マイク自由研究|NEUMANN KMS105

Text:Mizuki Sikano Photo:Chika Suzuki Illustration:Hiromi Mizoguchi Hair & Make:kika

マイク界の天女

 塩塚モエカです。冬も大本番、暖かく過ごせてますか〜。

 今回研究するのは、NEUMANN KMS105。赤のブランド・ロゴがシックでかわいい、ステージ用コンデンサー・マイクです。NEUMANNのコンデンサー・マイクは、U47などスタジオ用のものを羊文学のレコーディングでも使用していて、その芯がある温かいサウンドが気に入っています。NEUMANNのハンドヘルド型マイクを使うのはこれが初めてですが、このマイクはどんな音なのでしょうか!

 

 KMS105の指向性はスーパー・カーディオイド。カーディオイド(単一指向性)のマイクに比べて、ギュッとした近さのある感じが好きで、KMS105も例外なくそのポイントを押さえています。今回も恒例の「マヨイガ」を歌ってみると、全体的に過不足の無い感じで鳴っていて、中音域の芯は特にしっかりしている印象を受けました。高音域はきらびやかながらとげとげしくならず、歌っていて気持ちが良かったです。身体から声を出すときに頭でイメージしている音が、KMS105を通して再現されていくようで、楽器的な美しいサウンドだと思いました。近付いて歌ってもポップ・ノイズが乗りにくく、ささやくような声もしっかり収音することができます。一方でギラギラ感はうすく、エンジニアのナンシーさんいわく激しめのロック・サウンドで使うと、声が前に出てきづらい可能性があるそうです。逆に繊細な音楽にはぴったりだと思うので、例えば、弾き語りライブがメインの方にはお薦めです。

 

 それから、やはり宅録にも良いと思います。NEUMANNサウンドの良いところがしっかりと詰まっていながらもステージ用なので、防音処理がされていない部屋でもある程度ノイズが抑えられた良い音で録れるのではないでしょうか! 録り音が良ければ、処理もしやすいですからね。そんな、美があふれているKMS105のことを“マイク界の天女”と呼びたいです。

エンジニア溝口紘美と塩塚モエカ

塩塚モエカ:3人組オルタナティブ・ロック・バンド=羊文学のボーカル/ギター。同バンドの作詞/作曲を担当。

 今回のエンジニア 
溝口紘美(ナンシー)
羊文学、シャムキャッツ、DEERHOOF、DMBQのツアーPAや、DOMMUNEやBLACK OPERA、Asian Meeting Festival、MultipleTapの音響など国内外で幅広く活動中。2020年からはオウンド・レーベルkazakami recordsをスタート!

SHURE SM58とはどう違うの?

✔ コンデンサー・マイク

✔ 周波数特性が20Hz〜20kHz

✔ 指向性がスーパー・カーディオイド

✔ ポップ・フィルターが二重

KMS105はさらっとしたビューティーな質感

 取材日は12月24日。今回もライブ現場のスタンダードなSHURE SM58とNEUMANNのハンドヘルド型マイクKMS105の歌唱比較を行った。歌い終えた直後に塩塚モエカは「もう結構ハマっちゃってる。KMS105が一番好き。握った感じも良い」と心を奪われた様子。それに対してエンジニアの溝口紘美氏は「KMS105のシルキーで気持ち良い音は、今日(クリスマス・イブ)のムードにぴったりじゃないかなと思うんですよね」とコメントした。

SHURE SM58で羊文学の「マヨイガ」を歌唱する塩塚モエカ

SHURE SM58で羊文学の「マヨイガ」を歌唱する塩塚モエカ。オケとともに歌もダイナミクスの変化が多い楽曲

NEUMANN KMS105のマイクをセッティングしているナンシーこと溝口紘美氏。塩塚のモニター・ヘッドフォンはSONY MDR-M1ST

NEUMANN KMS105のマイクをセッティングしているナンシーこと溝口紘美氏。塩塚のモニター・ヘッドフォンはSONY MDR-M1ST

NEUMANN KMS105を試す塩塚モエカ

NEUMANN KMS105を試している様子。歌い終えた直後からかなり気に入っており“結構ハマっちゃってる、欲しい”とのこと

 録音後、スピーカーで試聴を行う。SM58がダイナミック型で、KMS105はコンデンサー型ということで、2機種のマイク・タイプは異なる。両機は周波数特性にも違いがあり、SM58は50Hz〜15kHzで、KMS105は20Hz〜20kHzだ。塩塚は「KMS105はSM58と全然違って、クリアな感じがします。どこかの帯域が増幅もされることもないし、自然っぽいさらっとした質感はビューティーって感じ」と言う。溝口氏はKMS105のサウンドをこう評する。

 「歌ったときに感動するマイクですよね。7万円以上支払う価値のある良質なマイクです。すごく良い生地の服を着たときに“あ~とても気持ちが良いな”と感じるあの気持ちになります。KMS105は抜けが良くて広がりのある音像ですが、湿っぽくてエモーショナルというよりも、ストレートにグッと来る印象的な音です。チューニングが自然なので、声の生々しさは残しつつ美しさが際立つ印象です。ある程度高音域はコントロールされていると思いますが、それが絶妙になじんだ仕上がりになっているので、比較的フラットに感じられます。ピークでさえも奇麗に聴こえてきますね。ライブで使うときも、この肌触りを生かすようなミックスが適していると思います」

 さらに溝口氏は「SM58よりもKMS105の方が低域が少なく聴こえる場合もありますが、シリーズの単一指向性型、KMS104には“Plus”と名付けられた低域を生かしたモデルもあり、私はそれを持っています。適宜使い分けできますね」と付け加えた。

SM58でオペレーションを行う溝口氏。収音した歌声はミキサーのALLEN&HEATH SQ-5を通り、AVID Pro Toolsに録音

SM58でオペレーションを行う溝口氏。収音した歌声はミキサーのALLEN&HEATH SQ-5を通り、AVID Pro Toolsに録音

KMS105はアコースティック向き

 指向性がカーディオイドのSM58に対して、KMS105はスーパー・カーディオイドなのもポイント。最後に両機種を手で持って歌いながら聴き比べを行なった。

 溝口氏は「指向性も狭いので、塩塚さんが最近参加している蓮沼執太フィルのような、生楽器の演奏者が多いライブでも魅力を発揮できると思います」と言う。

録音したボーカル・テイクは、御茶ノ水RITTOR BASEのメイン・スピーカーGENELEC S360Aから出力して確認

録音したボーカル・テイクは、御茶ノ水RITTOR BASEのメイン・スピーカーGENELEC S360Aから出力して確認

 塩塚に総評を問うと「サウンドとしてはラブ!」と一言。溝口氏も「私も!」と答えた上で、こう付け加える。

 「ラウドなバンド・サウンドよりもアコースティック寄りの音楽の方が得意なマイクですね。R&Bやソウルなどウォームな雰囲気とも相性が良いです。実際に海外のライブ配信などを見ていても、アコースティックはNEUMANNで、バンドはSENNHEISERという組み合わせをよく目にします。アコギなども奇麗に録れそうなので宅録用としてもお薦めしたいですが、KMS105のグリル部分はポップ・フィルターが二重になっていたりするので、メインテナンスに気を配る必要はありそうです」

 

SHURE SM58(左)とNEUMANN KMS105

 SPECIFICATIONS 

SM58-LCE  14,080円(参考価格)
■指向性:カーディオイド ■周波数特性:50Hz~15kHz ■出力インピーダンス:300Ω(実効値) ■感度:−54.5dBV/Pa@1kHz(1.85mV) ■質量:298g

KMS105 オープン・プライス(市場予想価格:100,430円前後)
■指向性:スーパー・カーディオイド ■周波数特性:20Hz~20kHz ■出力インピーダンス:50Ω ■感度:4.5mV/Pa@1kHz ■質量:約300g
問合せ:ゼンハイザージャパン プロオーディオ事業部

製品情報