塩塚モエカ(羊文学)のハンドヘルド・マイク自由研究|TELEFUNKEN M80

塩塚モエカがハンドヘルド・マイクを試して語る連載、第4回目!

塩塚モエカ(羊文学)のハンドヘルド・マイク自由研究|TELEFUNKEN M80

Text:Mizuki Sikano Photo:Chika Suzuki Illustration:Hiromi Mizoguchi Hair & Make:kika

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 2022年が始まりましたね。新年の目標は、筋肉を付けて、タフな女になることです。バンドではアルバムを完成させられたらいいな〜と思っています。今年もよろしくお願いします!

 

 さて、この連載も4回目で、折り返し地点となりました。今回研究するのは、TELEFUNKEN M80です。まず、箱がかわいい! カラフルでポテト・チップスの筒の箱が大きくなった感じです。そして、マイクそのものも丸くて重量感のある見た目が愛らしい。推せます〜。カラー・バリエーションも豊富で、グリルとボディの色をカスタマイズすることができます。ポップなピンクから、渋めの木目調まであり、組み合わせを考えるだけでもとっても楽しいです。

 

 かわいい見た目に反して、音は大真面目。特徴的なのは高音域の伸びと、中音域のリッチさです。優しく歌う部分はしっかり聴こえるのに、声を張っても耳が痛くならないバランスで歌いやすかったです。一方で低音域はスッキリ。パワーはあまり大きくないですが、音圧があるオケに対してしっかりと抜ける感じになりそうです。前に出てくるというよりも、少し遠くで奇麗に鳴っているような印象でした。

 

 さらにこのM80、ダイナミック・マイクでありながらコンデンサー・マイク並みのパフォーマンスで有名。録り音の情報量が多いためEQ次第でいろいろな表情を見せることができそうです。PAのナンシー(溝口紘美)さんが簡単にEQした音も聴かせてもらったのですが、一気に高域も低域もソリッドな音を引き出すことができていました。まだまだ奥が深い一本です!

 

 そんなM80は、私的に“優秀なピエロみたいなマイク”。派手な見た目とは裏腹に、中身は真面目で遊び 心にあふれている一本です。

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塩塚モエカ:3人組オルタナティブ・ロック・バンド=羊文学のボーカル/ギター。同バンドの作詞/作曲を担当。

 今回のエンジニア 
溝口紘美(ナンシー)
羊文学、シャムキャッツ、DEERHOOF、DMBQのツアーPAや、DOMMUNEやBLACK OPERA、Asian Meeting Festival、MultipleTapの音響など国内外で幅広く活動中。2020年からはオウンド・レーベルkazakami recordsをスタート!

SHURE SM58とはどう違うの?

✔ 周波数特性がSM58よりも広い

✔ 10kHz辺りの高域がよく伸びる

✔ 子音(3〜5kHz)が強い

✔ スーパー・カーディオイド

M80はレスポンスが速くて高域がよく伸びる

 今回SHURE SM58と歌唱比較を行うのは、TELEFUNKENのダイナミック・マイクM80。両マイクで歌ってみたのち、塩塚モエカは「クリアな音」と評す。これまでもM80を現場で使ってきたエンジニアの溝口紘美氏によると「M80は430gとSM58よりもやや重いものの、サウンドにもマイク・ブランドとしての重みを感じます。長い間レコーディング現場でおなじみのブランドの機材がライブ現場に登場したのは、当時衝撃的でした」とのこと。さらに「M80の最大の魅力は、大きな声で張り上げて歌っても高域が奇麗で、透明感が崩れないところ」だという。

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SHURE SM58で歌唱する塩塚モエカ。比較には「マヨイガ」のワンコーラスを用いた。AメロとBメロでの優しい歌唱方法から、サビではダイナミクスが大きく変化する

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TELEFUNKEN M80のマイク・チェック中。モニター・ヘッドフォンはSONY MDR-M1STを使用

 周波数特性は、SM58が50Hz〜15kHzに対し、M80は50Hz〜18kHzで、高域の収音範囲に違いがあるようだ。SM58との音質的な違いを溝口氏に聞いていく。

 「SM58はフラットな音質で、M80はサラッとした少し個性的な音です。その理由として、M80の10kHz辺りのチューニングに特徴があるんです。これが、SM58との音の違いを生んでいる大きな理由だと思います。高域がよく伸びていて、ダイナミック・マイクなのにコンデンサー・マイクのような広がりがあり、音のレスポンスも比較的速いです。なおかつ、大きな声を張り上げたときのピーク感はコンデンサー・マイクよりもナチュラルなので、ピークを不必要にコンプで潰したりする必要もなく、扱いやすいのが魅力だと思います」

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M80で歌唱する塩塚。今回は、M80そのままの音と少しEQで調整した音と、2通りの音質を確認した

 さらにM80は、3〜5kHzの子音の響きにも特徴があると溝口氏は続ける。

 「M80は子音の響きにも特徴があります。以前海外アーティストのライブ現場でメイン・ボーカル用にM80を使った際に、息遣いや子音の響きがとても奇麗に聴こえて感動したのを覚えています。英語の歌はアクセントによって子音の響きが強いので、普段日本人ボーカルで行うセッティングよりも子音を調節する機会が多いです。しかしM80ではその必要がなくなったので、それ以降、英詞の歌とM80の組み合わせをお勧めしています」

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エンジニアの溝口紘美氏。収音した歌声はミキサーのALLEN&HEATH SQ-5を通り、溝口氏のAPPLE MacBook Proに入ったAVID Pro Toolsに録音

M80はポップスやサラッとした雰囲気の音楽と合う

 試聴を続けていると溝口氏は「これはボーカリストとの相性の問題ですが、M80を塩塚さんの歌唱に使うと、少し遠めに感じる部分があります」とのこと。M80の抜けのある音質特性をより感じられるように、試しにミキサーのALLEN&HEATH SQ-5のEQを使って調整してみてもらった。そのバージョンも試聴してみると塩塚は「中域が十分に聴こえるようになったことで、よりモニターしやすくなった印象です。M80の高域についても、耳がキンとしない、抜けのある音であることが確認できたと思います」と感想を述べた。

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録音したボーカル・テイクは、御茶ノ水RITTOR BASEのメイン・スピーカーGENELEC S360Aから出力して確認

 最後に、M80と相性がいいと思える音楽について溝口氏に教えてもらった。

 「ポップスにはもちろん合いますし、全体的にサラッとしたアコースティックなどにも合うと思います。一方で、ボーカルの声と相性が良ければ、いわゆる音圧が高いロックなどにも相性の良いマイクです。ハイトーン・ボイスの男性ボーカリストの方もよく使ってらっしゃいますよ」

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 SPECIFICATIONS 

SM58-LCE  14,080円(参考価格)
■指向性:カーディオイド ■周波数特性:50Hz~15kHz ■出力インピーダンス:300Ω(実効値) ■感度:−54.5dBV/Pa@1kHz(1.85mV) ■質量:298g

M80 オープン・プライス(市場予想価格:26,950円前後)
■指向性:スーパー・カーディオイド ■周波数特性:50Hz~18kHz ■出力インピーダンス:325Ω ■感度:1.54 mV/Pa ■質量:430g

製品情報