塩塚モエカ(羊文学)のハンドヘルド・マイク自由研究|SHURE Beta 57A

塩塚モエカがハンドヘルド・マイクを試して語る連載、第2回目!

塩塚モエカ(羊文学)のハンドヘルド・マイク自由研究|SHURE Beta 57A

Text:Mizuki Sikano Photo:Chika Suzuki Illustration:Hiromi Mizoguchi

胸板厚めの格闘家的なマイク

 こんにちは。羊文学の塩塚モエカです。寒くなるとどうしてものどが乾燥しやすくなってしまうので、私は毎年、森川健康堂のプロポリスキャンディーを大量に買って、ずっとなめています。冷え性なので暖かくして、風邪に気を付けたいです。

 

 第2回はSHURE Beta 57Aを研究します! Beta 57Aの説明書には“楽器用マイクロフォン”と書いてあって、基本的にはギター/ベース・アンプやドラムなどの打楽器、管楽器などの音を拾うマイクのようです。羊文学ではドラムのフクダ(ヒロア)がコーラスで使っています。スタジオでその音を聴きながら、フクダの低くて優しい声を、バンド・サウンドの中でもしっかり聴かせるマイクだと感じていました。私自身は初めてBeta 57Aで歌いましたが、今回向き合ってみて、その印象を裏付ける特徴を発見できました。

 

 Beta 57Aの特徴は、芯のある強いサウンドだと思います。比較的フラットに聴こえるSHURE SM58に比べて中音域がどすんと前に出てくる感じがしました。今回は羊文学の「マヨイガ」を歌ったのですが、この曲のAメロのように、優しい声を臨場感を持って聴かせたい部分にはぴったりでした。

 

 一方で前回紹介したSHURE Beta 58Aの方が、広がりやきらめきのある音に聴こえました。この部分に関しては、Beta 57Aは楽器の収音がメインなので、もともとあまり色付けされていないのかも。ただ、その分芯の強さは際立つので、歌声がパワフルに抜けてほしい無骨なサウンドを目指すときにBeta 57Aを試してみたいと思いました。楽器の録り音も聴いてみたいです! そんなBeta 57Aは言うなれば“胸板厚めの格闘家的なマイク”。小さな声でもしっかり支え、張り上げた声は芯をもって聴かせてくれる、頼れる一本だと思います。

 

 今回も羊文学の敏腕ライブPAナンシーこと溝口紘美さんと、マイク自由研究、お送りします!

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塩塚モエカ:3人組オルタナティブ・ロック・バンド=羊文学のボーカル/ギター。同バンドの作詞/作曲を担当。

 今回のエンジニア 
溝口紘美(ナンシー)
羊文学、シャムキャッツ、DEERHOOF、DMBQのツアーPAや、DOMMUNEやBLACK OPERA、Asian Meeting Festival、MultipleTapの音響など国内外で幅広く活動中。2020年からはオウンド・レーベルkazakami recordsをスタート!

SHURE SM58とはどう違うの?

✔ 楽器用途を想定して作られた

✔ グリルの形が異なる

✔ 指向角がSM58よりも鋭い

✔ 10kHz辺りに音質の特徴がある

Beta 57Aは楽器用を想定した特殊なチューニング

 前回に引き続き、スタンダードと名高いSHURE SM58と同じくライブ・ハウスなどでコーラスや楽器録音でよく使用されるBeta 57Aの歌唱比較を行った。塩塚モエカは、録音したボーカルの試聴を行うと「Aメロの優しく歌うところはすごく好きだった。中音域が少し強い感じがして、モニターしていてもSM58やBeta 58Aより近くに聴こえてきて臨場感もあるなって思う。サビで声を張るところでは結構パンチが出てくる」と語る。

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SHURE Beta 57Aで歌唱する塩塚モエカ。比較には「マヨイガ」のワンコーラスを用いた。AメロとBメロでの優しい歌唱方法から、サビではダイナミクスが大きく変化する

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SHURE SM58とBeta 57Aを横に並べて交互に歌いながら試すこともした

 両機では、まず周波数特性に違いがある。SM58は50Hz〜15kHzで、Beta 57Aは50Hz〜16kHzだ。エンジニアの溝口紘美氏は「Betaシリーズは基本的に中音域がちょっと強いんです。さらにBeta 57Aは10kHz辺りが少し上がっているという特徴があります。もともとは楽器用途を想定しているマイクなので、少し特殊なチューニングがされているのかなって思うんです。(河西)ゆりかちゃんのコーラスで使っているときにも、歌い方によってはピークが出るときがあります。あまり張り上げたりしなくて、淡々と歌うタイプのボーカリストとかを録るときに向いているマイクなんだと思います」と言う。

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Beta 57Aを試した感想をエンジニアの溝口紘美氏に報告するなど。モニター・ヘッドフォンはSONY MDR-M1STを使用

 SM58とBeta 57Aは指向性が異なり、前者がカーディオイド、後者がスーパー・カーディオイドだ。楽器ではなくボーカルに使う際には、このスペックの違いを考慮する必要があると溝口氏は語る。

 

 「SM58は先月もお話しした通りフラットなマイクで、Betaシリーズよりかは単調に響くと感じる人も居るけれど、全体の帯域がまんべんなく録れているマイクと言えます。さらにBeta 57AはSM58よりも指向角が鋭いですし、ボーカルならば子音の響きに影響すると思われる高域に特徴があるんですよね。そのため、SM58よりもレスポンスが速く聴こえます。グリル構造の違いもあり、近接効果(編注:マイクに声を近付けるにつれて低域が膨らむ現象)にも特徴があって、近付いた分だけ中低域が膨らむ印象です。その点で言えばSM58は近接効果が自然なので、どんな歌い方をするボーカリストにもフィットすると思います」

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マイクの違いをメモしている溝口氏。収音した歌声はミキサーのALLEN&HEATH SQ-5を通り、溝口氏のAPPLE MacBook Proに入ったAVID Pro Toolsに録音

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録音したボーカル・テイクは、ヘッドフォンと御茶ノ水RITTOR BASEのメイン・スピーカーGENELEC S360Aから出力して確認した

Beta 57Aは硬質に響かせたい人に向いている

 塩塚に総評を問うと「熱い男前系オルタナティブ・ロックにはBeta 57Aが良いと思う!」と一言。溝口氏はそれに対してこう付け加える。

 

 「羊文学の楽曲はリバーブなども多めにかかっているので、塩塚さんには広がりのあるBeta 58Aを選んでいます。「マヨイガ」のようにほかの楽器とのアンサンブルを考える必要があるバンドの曲では、SM58よりもBetaシリーズのように少し出ている方が抜けも良く、全体のミックス・バランスを取りやすいです。個人的にBeta 57Aは、たくさん並ぶ太鼓など、複数の楽器をライブ・ミックスするときに役立ちます。指向性が鋭くギュッとしているので、それぞれの音がくっきり聴こえて収まりが良いんです。私の肌感覚では、パンク系のバンドで硬質に響かせたい人にも向いています。分離も良くて、エネルギー・バランスをガッと固めたい人にお薦めです」

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 SPECIFICATIONS 

Beta 57A-X  18,480円(参考価格)
■指向性:スーパー・カーディオイド ■周波数特性:50Hz~16kHz ■出力インピーダンス:290Ω(実効値) ■感度:-51dBV/Pa@1kHz(2.8mV) ■質量:0.275kg

SM58-LCE 14,080円(参考価格)
■指向性:カーディオイド ■周波数特性:50Hz~15kHz ■出力インピーダンス:300Ω(実効値) ■感度:-54.5dBV/Pa@1kHz(1.85mV) ■質量:0.298kg

製品情報

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