松隈ケンタ率いるスクランブルズが手掛けたライブ・スペースBAD KNee LAB.を現地取材!

松隈ケンタ率いるスクランブルズが手掛けたライブ・スペースBAD KNee LAB.を現地取材!

BAD KNee LAB.は松隈ケンタがプロデュースする、西鉄福岡駅から徒歩1分のカルチャー・スポット。バーを併設し、スタンディングで70名を収容するライブ・ハウスであり、松隈が手掛ける映像作品の撮影やアパレル販売の拠点にもなっている。実際に訪問して、松隈ケンタ、音響担当の仲西将太氏に話を聞いた。

Texi:Mizuki Sikano Photo:Sakura Takeuchi

僕はライブ・ハウスを作るのが夢だった(松隈)

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松隈ケンタ【Profile】福岡と東京の2都市を拠点に活動する音楽プロデューサーでBAD KNee LAB.のオーナー。音楽制作集団スクランブルズの代表を務め、BiSHやBiSなどの楽曲を手掛けている。そのほかTシャツのデザイン、映像監督/撮影、日本経済大学特命教授など活動は多岐にわたる。

 BAD KNee LAB.は2021年10月15日にライブ・ハウス“徒楽夢”の跡地に看板を上げた。まずはこのライブ・スペースを作った経緯を松隈ケンタに聞く。

 「コロナ・ウィルス蔓延の影響で、この場所がライブ・ハウスとしての営業を終えるかもしれないという話を耳にして……潰しちゃうのはもったいない!って思いました。徒楽夢には学生のころに出演した経験もあって強い思い入れがあったんです。もともとバンドマンなので、心の中ではいつかライブ・ハウスを持ちたいなっていうのは当然夢ではありました。だから居抜きで元からあるものを受け継ぐことなら僕にもできるかな、と思ってBAD KNee LAB.を作ることにしたんです」

 BAD KNee LAB.をライブ・ハウスではなくカルチャー・スポットと銘打つのは、松隈のこだわりだと話を続ける。

 「東京と比べると、福岡には100人以下のサイズのハコで本格的なロック・サウンドを気軽に出せる会場って少ないんです。だから福岡の若手バンドマンが初めてライブできる場所を作りたかったんですよね。僕はアーティスト育成もするので、その拠点を作るのも使命かなって。だからバンドのブッキングでスケジュールを埋めるよりかは、イベントやDJパーティー、映像作品の撮影、スクランブルズに所属するクリエイターの活動拠点、普通にバー営業だけの日もあったり、単純に人が自由に集まる場所になってほしいと思っています。ファッション・ブランドも立ち上げてTシャツを作ったりと、いろいろなことに手を出しているように見えて、ちゃんと全部音楽につながっている。音楽を中心に、飲食、ファッション、映像配信を統合したものを、今泉エリアからどんどん発信していきたいんです」

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松隈が手掛けるファッション・ブランドBAD KNeeのTシャツが販売されている

 そんな文化の発信地を盛り上げるべく、内装についてもスクランブルズのスタッフや所属アーティストとともに構想を練ったという。空間で何より目を引く巨大シャンデリアも松隈のこだわりだそう。

 「バーのような雰囲気にしたかったのでシャンデリアを注文したら、想定よりも3倍デカイのが届いてびっくりしました(笑)。パンク・バンドが騒いだら手が届いてしまって真っ先に破損するかもしれないですが、インパクトがあっていいのかなと。キッチンとバー・カウンターは、もともと1970年代にスナックだったときのまま残していて、あまり手を入れ過ぎず、懐かしんでもらうことも大事にしました。ステージ背景とドラムのペイントは、BAD KNee LAB.のシンボルです。ステージ背景は、カーテンを閉めればシンプルにもなります。ライブ・ハウスの名前を掲げると主張が激しくてライブ映像などに支障が出るので、デザインで表現しようかなと。このためにペンキを買ってきて“皆で塗るぞー!”って人を集めたのに、皆ドラムにペンキをかけることに罪悪感を覚えたらしく、蓋を開けたらほぼ僕と音響の仲西(将太)さんの娘しか塗ってなかったんですけどね(笑)」

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1970年代にスナックだったときのまま残っているというバー・カウンター

SI Impactはデジタルだが柔らかく丸い音質(仲西)

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取材に協力いただいたスクランブルズの薮下直実氏(左)、音響担当の仲西将太氏(中央)、スクランブルズの高浜信太郎氏

 コンソールはリア・パネルに32chのマイク/ライン入力端子を装備する、デジタルのSOUNDCRAFT SI Impactを導入している。音響担当の仲西氏は「配信システムを組むのにデジタル・コンソールは必要不可欠でした」と語る。松隈は「若手がアナログ卓でPAの勉強するのは可哀想なのでデジタルにした」とも語った。ではなぜSI Impactが選ばれたのか、松隈に理由を尋ねた。

 「僕はロックを主軸に音楽活動をしているので、音抜けに作用する1kHzとか以上に、200Hz~400Hz辺りの“スネアの下っつら”にガッツやパンチがあることを大事にしているんです。高域は上げれば奇麗になるけれど、中低域のコシは後からEQで足すと音像がぼやけてしまうので、元音や機材がしっかりしていないと出せないんですよ。以前SOUNDCRAFTのアナログ・ミキサーに入力した音声の中低域を聴いた際に、ガッツがあってほかの楽器に埋もれない立体感がすごく良いと思いました。SI Impactはシンプルに音がダイレクトに飛び出してくる感じで、良い意味でデジタル臭くないのが魅力です」

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デジタル・コンソールのSOUNDCRAFT SI Impact。32系統のマイク/ライン入力、16系統のアナログ出力とAES/EBUデジタル出力を1系統装備し、MADIやUSB入出力も備える

 実際の使用感については、音響担当の仲西氏に話を聞く。

 「デジタル・ミキサーにしては、全体的にウォームな丸い音で優しいのが特徴です。デジタルなのでアナログ卓よりかはキュッとまとまった音がします。低域の音の立ち上がりが独特で、緩やかに入ってくる感じはすごく好きですね。内蔵のエフェクトで、コンプは柔らかくかかるイメージ。パラメトリックEQはほかの現場で使う機会の多いミキサーと比較すると、かかり方がなだらかな感じがします。かなり楽器を扱っているような気分になるんですよね。今はステージ上に置いているマルチボックスのPEAVEY 20PR 100 AudiolinkからSI Impactにケーブルで送っているので、MADI対応のステージ・ボックスを導入したいと考えているところです」

 メイン・スピーカーは以前からこの空間に置かれていたCERWIN-VEGA T-250にJBLのサブウーファー(18インチのドライバーを2基搭載)を追加していると仲西氏は言う。

 「JBLのサブウーファーは、AC/DCのワールド・ツアーのために特注で作られたもので、それがライブ・スペースのDRUM LOGOSから流れてきたらしいです」

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メイン・スピーカーは、CERWIN-VEGA T-250(上)に18インチのドライバー2基を搭載するJBLのサブウーファー(下)を追加した構成

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メイン・スピーカー用のパワー・アンプはCREST AUDIO CA6を使用しているという

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ステージ上のモニター・スピーカーJBL PROFESSIONAL JRX112Mについて音響担当の仲西氏は「ハイが飛ばず、ピーキーにならない音」と話す

 松隈もスピーカーについて「歴史を受け継ぐこともコンセプトだから、今後も使いたい」と話し「新しいものと古いものをミックスしたいんです。例えば照明もLEDを追加しつつ以前の照明を残しています」と付け加えた。

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ステージにはもともと導入していた照明に加えてLEDを追加し、輝き方の異なる2つの光をミックスしているという

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新しく導入したというプロジェクター。トーク・ショーやセミナーでの使用を想定して映像を流せるようにしているという

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ステージ上には松隈の所有するギター・アンプVOX AC30を設置

 最後に仲西氏にサウンド面での今後の展望を聞いた。

 「これからは一回の演奏で、ライブ、配信、録音まで成り立たせることができたら素晴らしいと思っています。BAD KNee LAB.もさらに入力音の質を上げて、ライブ・ハウスに来る方はスピーカーから、配信を見ていただくお客さんにはネットを通して良い音を楽しんでいただきたいです」

 松隈もBAD KNee LAB.を通して、新たな音楽表現の可能性を追求しているという。

 「僕は今、自分が若いころに福岡に居たらよかったって思ってもらえるおじさんを目指してるんですよ。現役音楽プロデューサーとして、東京で苦労した経験もレコーディングの方法なども教えられる。若者たちが福岡に居ながら新鮮な情報を得て、音楽を続けられる仕組みを作りたいんです。最近はアマチュア・バンドのライブ映像を配信したり、“リアルを切り取る”をテーマに僕が脚本を書いて映像を撮影してドラマを作ったりもしていて、すごく面白いです!」

 最後の最後にBAD KNee LAB.の名の由来を聞くと、松隈は「数年前に草野球でこけて膝が痛かったから」と語った。

culture spot BAD KNee LAB.