ミッキー吉野 × 亀田誠治【後編】~戦友タケカワユキヒデとの「ガンダーラ」制作背景&グルーブの極意

ミッキー吉野 × 亀田誠治【後編】~戦友タケカワユキヒデとの「ガンダーラ」制作背景&グルーブの極意

「君は薔薇より美しい」「銀河鉄道999」「銀色のグラス」などミッキー吉野の代表曲に新たな息を吹き込んだアルバム『Keep On Kickin' It』。プロデュースを手掛けた亀田誠治との対談後編では、ミッキー吉野のピアノに乗せてタケカワユキヒデが歌う「ガンダーラ」の制作背景やゴダイゴのメンバーへの思い、EXILE SHOKICHIが感嘆したミッキー吉野の“グルーブ”を生み出す極意まで語ってもらった。

Text:Kanako Iida Photo:Takashi Yashima

インタビュー前編はこちら:

「ガンダーラ」の新しいエッセンスは音を抜くこと

その中でなぜ「ガンダーラ」はタケカワさんと?

ミッキー 彼とは大変な時代を生き抜いてきた戦友みたいなものだから。「ガンダーラ」は奈良橋陽子の詞の中で一番好きなんです。

亀田 ミッキーさんが“タケに歌わせたいんだ“と言ってくださったので、絶対にほかの楽器を入れずに2人でやってほしい、リズムのようなものが欲しくなっても、それはピアノと歌だけで出してくださいとお願いしました。

 

ピアノでの弾き語りで表現された「ガンダーラ」は、これまでのものと別の景色が浮かぶように思いました。

ミッキー これは帰りのガンダーラなのかなと。40歳になったとき、同じ景色を逆から行く気がしたんだよね。「ガンダーラ」で一番言っていることは“Seeking soul”なんです。僕はそういう魂を見つける旅をしたんだろうなと思うし、それをタケカワも亀田さんも理解してくれるだろうなと。

亀田 今回、「ガンダーラ」に対する新しいエッセンスは、今の音を入れることじゃなくて、音を抜くことだと考えました。しかも数百年前からあるピアノと、人の肉声による歌という究極の楽器のコラボレーション。そこから40年前に大ヒットした曲の魂の部分が見えるんじゃないかと思ったんです。さまざまなジャンルに言えることですが、最後に何が残るかをイメージしてサウンド・デザインをすることは、すごく重要だと思います。

 

タケカワさんとアレンジに関するやり取りはしたのでしょうか?

ミッキー 無いんですよ。皆さんが知っているイントロの三千世界のようなものには最後に行きたくて、最初は単純にメロディを弾き出したんです。そこで恥ずかしい話があるんですけど、“どんな夢も”の“め”の音が違ったことに今回気付いたの。僕がアレンジしていて、当然ここはDだろうと思って弾いていたら“1個メロディが違うんだけど”ってタケカワから電話がかかってきて、D♯だって。「銀河鉄道999」もいろんなバンドがやるけど、どこも正しいメロディではないですよね。

亀田 僕もそう思ってタケカワさんに正解の楽譜を書いてもらったんですけど、それはそれで難し過ぎちゃって。

ミッキー タケカワのメロディは独特だね。あいつは本当に音符人間だから。どこかでメロディが思い付くと五線紙に書いていくんですよ。僕は忘れるようなメロディならいいやと思うから、覚えているもので作るんです。

 

ゴダイゴの皆さんから影響を受けた部分はありますか?

ミッキー 僕はほとんどの曲をアレンジしているけど、演奏が良くなければ良いアレンジに聴こえないから、みんなに感謝していますね。本当に厳しいことをよく言っていました。特に「ガンダーラ」は、歌い出しに必ずスネアが一発入ってタタンって行くようにとか、ベースの長さをきっちり決めたりとか。よくやってくれたと思うんですよね。みんなから得たことは、“説明してちゃんとやっていけば良いものはできる”ということかな。発想が自由な人たちだからあそこまで行けたのかなと。

亀田 当時からゴダイゴだけは全く居場所が違いますよ。日本のミュージック・シーンにいろいろなものが生まれていく豊かな土壌がゴダイゴによって開拓されたような気がしますね。

ミッキー吉野

ミッキー吉野【Profile】キーボーディスト/アレンジャー/ソングライター。1951年12月13日生まれ、神奈川県横浜市出身。ザ・ゴールデン・カップス、ゴダイゴとしての活動のほか、音楽学校創設やスタジオ活動、映画音楽など広く活躍。2004年には映画『スウィング・ガールズ』のサウンドトラックが日本アカデミー賞最優秀音楽賞を受賞。ジャンルにとらわれず幅広く活躍を続けている。

MC-8で1分打ち込むのにほぼ1日かかった

その豊かさが今の時代の空気を響かせるとどうなるかが『Keep On Kickin' It』に詰まっているように思います。

ミッキー そうだろうなと思う。コンピューターを使っていても迫力があるものはあるんですよね。

亀田 「君は薔薇より美しい feat. EXILE SHOKICHI」はドラムが打ち込みなんですが、SHOKICHI君が“どうしたらこんなにグルーブが出るんだろう”って。AVID Pro Toolsのセッションを1trずつ裸にして、“こんなに一個一個の楽器がグルーブを出しているんですね”と感動していました。

「君は薔薇より美しい feat. EXILE SHOKICHI」Session

「君は薔薇より美しい feat. EXILE SHOKICHI」のPro Tools最終セッション・データ

ミックス前の最終セッション・データ。上から、freedom studio infinityで録音したブラス類、打ち込みのドラム、亀田誠治のベース(上段がLINE 6 Bass Pod経由、下段がライン録り)、ミッキー吉野によるピアノとオルガンのオーディオ・データ、亀田と誠屋のマニピュレーター豊田泰孝が打ち込んだチェレスタとシンセ・ストリングスで構成。ブラスの上にはprime sound studio formで録音した石成正人のギター、画面下にはエフェクト類が並ぶ

各曲の打ち込みはミッキーさんがしているのですか?

ミッキー デモは僕がAPPLE Logic Proで打ち込みますけど、それを亀田さんのところでどんどん変えてもらうんです。

亀田 僕が基本的な構造を曲の構成に合わせて、マニピュレーターの豊田(泰孝)君に音を調整してもらったり、工藤さんにリズムを足してもらったりしつつブラッシュアップします。

ミッキー 僕が打ち込みで大事にするのはベースなんです。最もグルーブを作れるし壊せるのがベースなんですよ。

亀田 手弾きのすごいシンセ・ベースが来るので、ベーシストとしてすごくやりがいがありました。ミッキーさんはとても音符の長さに気を付けていて、フル・クオンタイズのシンベのような感じではなく、本当に手弾きの生ベースみたいなんです。

ミッキー ピアノ・プレイヤーだからドラムは全部片手で打ち込んじゃうんです。そこでダイナミクスも決めています。

亀田 ガイドで入っているリズム・トラックもミッキーさんのグルーブで来るから、プレイヤーがグルービーなのもあるけど、誘い水をミッキーさんが出してくれているんですよね。

ミッキー でもプレイヤーは1人でもビートを出せないとダメなんですよ。手拍子一つでもいいからビートを出してくれと。

亀田 僕もよく、リズムは自分で出すもので、自分で出したリズム同士が心地良く合わさるとグルーブになると言いますね。

ミッキー 合わせなきゃいけないと思うとそこでグルーブが無くなっちゃう。相手のビートに呼応したり反発したり、引いたり押したりという世界だよね。

亀田誠治

亀田誠治【Profile】音楽プロデューサー/ベーシスト。これまでに椎名林檎、平井堅、スピッツ、GLAY、いきものがかり、 JUJU、石川さゆり、ミッキー吉野、関ジャニ∞、Creepy Nuts、アイナ・ジ・エンド、yonawoなど数多くのサウンド・プロデュース、アレンジを手掛ける。東京事変のベーシストとしても活動。松本隆作詞家生活50周年記念『風街に連れてって!』制作総指揮やフリー・イベント『日比谷音楽祭』実行委員長など、さまざまな形で音楽の素晴らしさを伝える。

今回、この人のグルーブが面白いなどは感じましたか?

ミッキー 「歓びの歌」でMummy-Dさんが僕の弾いたものにラップで呼応してくるのは気持ち良かったですね。それを聴いて弾き直したら、そこにまたハマってくるみたいなのを2~3回行き来して。

亀田 Dさんのラップに触発されて入れた音色もありました。

ミッキー エレピは完全にそうだった。

 

エレピの音色や鍵盤は何を使っているのですか?

ミッキー KORG Nautilusの音色を、ROLAND RD-700NXの鍵盤で弾いていますね。それが一番ダイナミクスとかが思い通りにきっちり出る。RDは開発のときに僕が一生懸命やったから一番弾きやすいんですよ。今回はリモート・レコーディングだったのでHAMMONDオルガンは一切使っていません。でも、HAMMONDを弾いてきた僕だからHAMMONDのように聴こえさせることはできるんです。

 

電子音楽の発展にもミッキーさんの存在は不可欠です。

ミッキー 一番大変だったのが、初めてコンピューター・ミュージックで録音した「The birth of the odyssey」。当時はROLAND MC-8で、1分打ち込むのにほぼ1日かかったんですよ。僕と浅野が交代で数値を読んで、ノートの長さとかを全部入れていく。しかもチューニングがどんどん変わっちゃうから、合ったときにパッと録らないといけなかったんです。

 

打ち込みと対照的とも言える「銀色のグラス feat. Char」はCharさん(vo、g)、金子ノブアキさん(ds)、ハマ・オカモトさん(b)、さらにザ・ゴールデン・カップスからエディ藩さん(cho)と、各世代のロック・アーティストがそろいましたね。

ミッキー 1960年代の音とか雰囲気が出ていて、でも新しい音で面白いですよね。歌謡曲を歌って売れている時代のCharの歌なんだよね。ギターを弾けばピンククラウドだし。

亀田 金子君やハマ君が居る中で1960年代にロック・サウンドでいろいろなものを切り開いた人たちの話をいっぱいしてくれて、すごく良いセッションでした。

ミッキー ザ・ゴールデン・カップスは、歌謡曲に対してこんなのできるかというのを演奏に表した本当のロックなんだよね。

亀田 でも数年後にはその歌謡界もゴダイゴで席巻する。ミッキーさんの音楽はボーダーが無いんですよ。否定するんじゃなくて、そうじゃないことを自分たちで切り開いていく強さが何十年経っても楽曲の中に残っていくのかなと思うし、だから若いアーティストたちがこんなにも賛同するんです。

 

作品を作り終わって、今どのような思いでいますか?

亀田 一点の曇りも無い会心の一撃ができました。ミッキーさんにも感謝ですし、自分の仲間やスタッフを含めて、今この時代にこの音楽が作れたのが誇らしいです。

ミッキー 自分で長くやってきたご褒美だと思います。亀田さんにも、参加してくれる方々にも感謝しかないです。リリーさんの詞にもあるけど“最後に笑えれば良い”という感じだね。

 

エンジニア工藤雅史氏が制作環境やミッキー吉野とのエピソードを語るエンジニア・インタビュー(会員限定)はこちらから:

 

ミッキー吉野 × 亀田誠治 インタビュー前編では、 今回のプロジェクトが始まったきっかけや、ミッキー吉野が本作に込めた思いについて話を聞きました。

Release

『Keep On Kickin' It』
Kisshouten:KOKI-1213
2月2日発売(各配信サービスにて配信中)

Musician:ミッキー吉野(k)、亀田誠治(b)、JUJU(vo) 、SHOKICHI(vo)、Campanella(Rap)、MIYAVI(vo、g)、Char(vo、g)、エディ藩(cho)、タケカワユキヒデ(vo)、Mummy-D(rap)、サッシャ(vo)、岡村靖幸(vo)、佐橋佳幸(g)、石成正人(g)、小倉博和(g)、ハマ・オカモト(b)、高水健司(b)、河村カースケ智康(ds)、金子ノブアキ(ds)、山木秀夫(ds)、斎藤有太(p)、皆川真人(syn)、西村浩二(tp)、 山本拓夫(sax)、村田陽一(trombone)、金原千恵子ストリングス(strings)、STUTS(MPC、prog)、豊田泰孝(prog、manipulator)、Lenny Skolnik(prog)
Producer:亀田誠治
Engineer:工藤雅史、太田敦志、米田浩徳、Rey "Reynolds” Maeda
Studio:Landmark、Sony Music Studios tokyo、prime sound studio form、freedom studio infinity、Tokyo School of Music Shibuya、HeartBeat Recording、Nasoundra Palace 

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