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坂東祐大 × STUTS インタビュー【前編】〜TVドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」劇伴&主題歌「Presence」の制作秘話を語る

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このドラマは国内だけで終わる作品ではないと思うので
音楽に関してユニバーサルなものにしないといけない

4~6月放映のTVドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』が、音楽面で異例の展開を見せた。挿入歌にグラミー賞アーティストのグレッチェン・パーラトやBIGYUKIらが参加し、劇伴は毎週書き下ろしで追加。主題歌「Presence」は作品に出演する松たか子、岡田将生、角田晃広、松田龍平とラッパーのKID FRESINO、BIM、NENE、Daichi Yamamoto、T-Pablowらが週替わりでタッグを組み、トラックは劇伴のサンプリングによる制作と、注目すべきトピックは枚挙にいとまがない。このプロジェクトに攻めの姿勢で挑み続けたのが、作曲家の坂東祐大(写真右)とトラック・メイカー/プロデューサーのSTUTS(同左)だ。ここでは2人の対談が実現。その制作を振り返りつつ、それぞれが軸とする音楽シーンへの思いを語る。

Text:Kanako Iida Photo:Hiroki Obara(対談)

 

『とわ子』を10幕のオペラだととらえて
序曲では出てくる全テーマをメドレー式で入れた

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今回、『大豆田とわ子と三人の元夫』(以下『とわ子』)の音楽関連の動きは、どのように進められたのでしょうか?

坂東 脚本の坂元裕二さんがオーケストラの音楽を用いたいということで、作曲家の岩崎太整さんを経由して、ドラマ・プロデューサーの佐野亜裕美さんからオファーをいただきました。普通、ドラマの現場では、どういう曲を作るかというメニューは選曲家の方が書くんですけど、今回はそこからアイディアを出したかったので、お願いして全部任せていただいたんです。オーケストラをやるのはもちろん、リッチなものにしたかったので、時間をかけて楽しく作らせていただきました。その中の「#まめ夫 序曲~「大豆田とわ子と三人の元夫」」(以下「まめ夫序曲」)が、STUTSさんの主題歌にもサンプリングされています。それから、歌モノの挿入歌も入れたいと思っていました。洋楽を劇中でどんどん使うのが海外ドラマのトレンドでもありますし、松たか子さん演じる大豆田とわ子が劇中で「ロマンティックあげるよ」などを歌うことや、主題歌が日本語のラップということもあり、英詞の歌にしたらセリフともかぶらない、というところから発展して、座組みがとんでもないことに(笑)。

 

主題歌「Presence」はどのように作られたのですか?

STUTS 僕は最初、佐野さんと親交のあるTVディレクターの藤井健太郎さんからお話を伺いました。劇伴をサンプリングして、俳優の皆さんがラッパーと組んで週替わりでラップをするということで、どのラッパーにお願いするかということや、どういうバランスで俳優さんにラップをしてもらうかなどを相談しながら決めて。トラックは4パターンくらい作って、その中から選んだのが、自分が原曲で一番印象的だと感じたフレーズを使った今のパターンです。松さんが歌うメロディや歌詞はシンガー・ソングライターのbutajiさんと共作して、松さんをはじめとする俳優のラップ部分は各バージョンのラッパーに考えてもらいました。

坂東 そもそも、オペラの“序曲”とはこれから展開されるテーマを全部入れ込むもので、僕は全10話の『とわ子』を10幕のオペラだととらえているところがあって。「まめ夫序曲」には全部のテーマをメドレー式で入れました。さらにそれをサンプリングしていただいたので、作品全体で統一感が出せたのかもしれないです。

STUTS ここまでがっつりいろいろサンプリングできる機会はあまり無くて。音像や質感などサンプリングならではの表現ができたと思います。歌に関しても、よりグルーブが出るような言葉を提案したり、松さんの持つニュアンスが生きるようにいろいろ考えました。歌の魅力はニュアンスや声質、感情などその人自身なんだなとあらためて勉強になりましたね。松さんのボーカルは本当に素晴らしかったです。以前からいろいろな感情を歌で表現される方だと思っていましたが、また今までに無い感じを出していただき感動しました。

 

「Presence」は土台のトラックは共通しつつも、Ⅰ~Ⅴの各バージョンで、ビートなどに違いが見られますね。

STUTS 今回ラップを乗せてからトラックをいじった部分もあり、少しずつアレンジが違うんです。「Presence III (feat. NENE、角田晃広)」では、2バース目を4つ打ちのビートに変えたり、ラップに合わせてトラックにフィルターをかけたりしました。「Presence II (feat. BIM、岡田将生)」では、BIM君と一緒に作った「Veranda」の歌詞を引用した部分があって、トラックもサンプリングしたら?とBIM君が提案してくれたので入れています。歌詞で言及した作品をサンプリングでオマージュするのはヒップホップでよくある手法なのですが、それを自分の作った曲でできてうれしかったです。

 

今っぽいインディー・ロック感を出すために
クラシックでハイブリッドなテクスチャーを作る

一方で、劇伴はどのように作っていくのでしょうか?

坂東 今回のスケジュールだと、録音の時点では脚本のみある状態で、映像は出来上がっておらず、映像を脚本から推察して、という感じでした。何度か撮影現場に足を運ばせていただいて、松さんをはじめとした皆さんの演技を見て、少しずつバランスを考えたり……ただ大きなテーマとして、今回は上質なクラシック・シネマのような質感が必要だと思ったのと同時に、主題歌がヒップホップなのでどういう質感に持って行くか苦心した結果、クラシックでありつつも“今っぽいインディー・ロック感”を出すのにこだわりました。そのためには質感で語るのが必須条件で、どうしたらクラシックでハイブリッドなテクスチャーが作れるかをいろいろトライしてみました。

 

デモはどのような方法で制作するのですか?

坂東 僕はABLETON Live、AVID Pro Tools、Sibelius、APPLE Logic Proの4つと譜面の手書きを曲によって使い分けることが多いです。リズムや全体のシーケンスをLiveで作ってからSibeliusでスコアを書いて、Liveに戻して。それをPro Toolsに移して、スタジオでリズムを録ってエディットし、オーケストラを生に差し替えてテイクを選ぶ。足りなかったらLiveに戻って足して……というのを10周くらいします。

 

今回劇伴は全体で何曲くらい作ったのですか?

坂東 普通1クールのドラマだと30曲くらいですが……短い曲も入れると60曲はあるかな。1回使い切りの曲が異常に多い、アメリカのドラマ式を採ったので(笑)。例えばアメリカの『ワンダヴィジョン』は『アナと雪の女王』と同じロペス夫妻が音楽を手掛けていて、毎週オープニングのアレンジが変わるんです。同じテーマを今週は60's風、次は70's風、みたいに年代を変えてやっていて。坂元さんと佐野さんの作るドラマは国内だけで終わらない作品だと思うので、海外の人にもすごいと思ってもらうには、演奏もユニバーサルなものにしないといけない。ヨーロッパやアメリカ基準で考えないと今っぽくない感じになるなと。

 

今作の劇伴は感情が揺さぶられるような曲が多いですが、感情の表現に合わせて使う楽器や音域は変えますか?

坂東 坂元さんがおっしゃったのは、『とわ子』はプリンセスのお話で、オーケストラはそこにつながっているんですよね。ただ、ヨーロッパのお城などではなくあくまで奥渋谷で展開するとてもロマンティックな話なので、すべてをオーケストラでくるむのは違うと思い、アコースティックな楽器に焦点を当てました。基本的にクラシックの演奏はEnsemble FOVEで担当したのですが、奏者の当て書きをしています。例えばビオラの安達真理さんの音色には、中村慎森(岡田将生)の心情を吐露する切なさと共感する部分もあるかなと思って書くとか、奏者のパーソナリティと楽器をマッチングする感じです。楽器は、高域が出るほどキラキラして非現実感が出るんです。今回はキラキラした成分をなるべく避けつつもロマンティックに聴かせたかったので、チェロ、ビオラ、クラリネットなど中音域の大人な楽器が多めです。逆に超低域のコントラバスや、キラキラしたサックスやフルートなどは少なめですね。

STUTS それもあって、たまにコントラバスが入ってきたりすると心をつかまれるんでしょうか?

坂東 うれしいです(笑)。実は計算していて。エモーションのアクセルがかかるときは編成が大きくなるので、それをなるべく取っておく。あと、会話劇を考えて音数をなるべく少なくしていて、音域は中低域辺りでなるべく進めるようにしました。

 

挿入歌「All The Same feat. グレッチェン・パーラト, BIGYUKI」はどのようにレコーディングされたのですか?

坂東 グレッチェンさんのボーカルだけ遠隔で、BIGYUKIさんのピアノなどはSTUDIO Dedeで録りました。Ensemble FOVEのレコーディングは横浜のランドマークスタジオです。BIGYUKIさんは、日本にいらっしゃるとDedeの吉川昭仁さんから伺ってお願いしました。池袋のDedeが、BIGYUKIさんが居る瞬間はニューヨークのようでした(笑)。グルーブの感覚が根本的に違うというか、これが世界か……と。

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ランドマークスタジオでのオーケストラ・レコーディング。坂東主宰のアンサンブルEnsemble FOVEのメンバーを中心とした管楽器、弦楽器の収録は、大半がランドマークスタジオで行われた。奏者のパーソナリティで当て書きをする坂東は、「当て書きを奏者が汲み取ってくださり、奏者からもアイディアをいただいて作るのが理想的」と語った

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この日は鈴木舞(vln)、町田匡(vln)、安達真理(viola)、小畠幸法(cello)による弦楽四重奏と東紗衣(cl)によるレコーディングがprime sound studio formで敢行された。毎週書き下ろし楽曲を追加していたため、放送期間中も並行してレコーディングが行われた

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prime sound studio formのコントロール・ルームで作業をする坂東(写真左)

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左から、町田匡、坂東祐大、安達真理、鈴木

後編に続く(会員限定)

 

インタビュー後編(会員限定)では、 劇伴「#まめ夫 序曲~「大豆田とわ子と三人の元夫」」と主題歌「Presence」のDAWプロジェクト・ウィンドウや使用プラグインを公開!

 

坂東祐大
【Profile】作曲家/音楽家。1991年生まれ、大阪府出身。作品はオーケストラ、室内楽からトラック・メイキング、立体音響を駆使したサウンド・デザイン、シアター・パフォーマンスなど多岐にわたる。2016年、Ensemble FOVEを創立。米津玄師や宇多田ヒカル、嵐などの編曲などジャンルを横断した活動も多方面に展開する

STUTS
【Profile】1989年生まれのトラック・メイカー/MPCプレイヤー。自身の作品制作やライブと並行して、数多くのプロデュース、コラボレーションやTV、CMへの楽曲提供など活躍の場を広げている。2020年9月には最新作となるミニ・アルバム『Contrast』を発表し、バンド・セットでの単独公演を成功させた

 

Release

『Towako’s Diary – from “大豆田とわ子と三人の元夫”』
坂東祐大
日本コロムビア:COCQ-85525

Musician:坂東祐大(k、melodica、prog)、グレッチェン・パーラト(vo)、マイカ・ルブテ(vo)、LEO今井(vo)、須川崇志(b)、林正樹(p)、石若駿(ds)、BIGYUKI(k)、鈴木大介(g)、Ensemble FOVE(orch)、他
Producer:坂東祐大、横田悠生
Engineer:涌井良昌、吉川昭仁、トッド・カーダー、塩澤利安
Studio:Dede、The Bunker、ランドマーク、サウンドクルー、A-tone

 

『Presence』
STUTS & 松たか子 with 3exes
ソニー:BVCL-1129

Musician:STUTS(MPC、k、g、prog)、松たか子(vo)、KID FRESINO(vo)、BIM(vo)、岡田将生(vo)、NENE(vo)、角田晃広(vo)、Daichi Yamamoto(vo)、松田龍平(vo)、T-Pablow(vo)、butaji(vo)
Producer:STUTS
Engineer:D.O.I.、前田洋佑、STUTS
Studio:Freedom Studio INFINITY、プライベート