ミッキー吉野 × 亀田誠治【前編】~『Keep On Kickin' It』で見せたミッキー吉野のアレンジ術

ミッキー吉野 × 亀田誠治【前編】~『Keep On Kickin' It』で見せたミッキー吉野のアレンジ術

ザ・ゴールデン・カップスやゴダイゴでキーボーディストとして活動し、数々の名曲、名アレンジを生み出してきたミッキー吉野。古希を記念した“ミッキー吉野"ラッキー70祭"【KoKi】”プロジェクトの一貫として、代表曲に新たな息を吹き込んだアルバム『Keep On Kickin' It』をリリースした。ここでは、全曲のプロデュースを手掛けた亀田誠治との対談が実現。前編では、巧みなアレンジ術や書き下ろし曲「NEVER GONE feat.岡村靖幸」に込められた思い、ミッキー吉野が制作中何度も口にした“エナジー”の正体について紐解いていく。

Text:Kanako Iida Photo:Takashi Yashima(except*)

閉塞感を蹴散らすようなパワーのある音楽

今回のプロジェクトはどのように始まったのですか?

ミッキー コロナ禍で閉塞感がいっぱいだったので、自分から元気になるために音楽を作ろうと。でも1人じゃ作れないから相棒を見つけようと思って、亀田さんに電話したんです。

亀田 “オリジナルのアルバムを作りたい。もしかしたらミュージシャンとしてのキャリアで最後になるかもしれなくて、アドバイスをくれないかな?”とすごく控えめなんです。だったら一緒に作りませんか?と即決しました。

 

どのような作品を作ろうと考えていたのでしょうか?

ミッキー 最初は閉塞感を蹴散らすようなパワーのある音楽をやりたいなと。1曲決めていたのがゴダイゴの「DEAD END ~ LOVE FLOWERS PROPHECY」。当時は、今とは違う閉塞感で世の中が行き詰まっている時代で、そういう世の中をぶち破ろうとして作ったのがアルバム『DEAD END』だったんです。ゴダイゴとしてはポップとは逆の社会派でした。

 

今回あらためて入れようと思ったきっかけは?

ミッキー 友達のアラン・メリルがコロナで亡くなって、中国の友達からもどんどんそういう聞きたくない話が入ってくる。でも落ち込んでいても仕方ないから、勇気を持ってやっていこうと。見えない敵と戦うには、やるもやらないも自分で決めなきゃいけなくて、歌詞にある“It’s all in your decision”というワンセンテンスが大事だと思ったんだよね。

 

代表曲のセルフ・カバーを中心とした選曲の中、「NEVER GONE feat. 岡村靖幸」は唯一の書き下ろし曲ですね。

ミッキー 2020年5月に、ゴダイゴのギターの浅野(孝已)が亡くなって、その数日前から書き始めた曲なんです。彼のために書いたわけじゃないけど、たまたま“居なくなっても必ず心の中には生きている”という詞で。ブラッシュアップするうちに今度はザ・ゴールデン・カップスの仲間が突然亡くなっていった。そこでこの曲はすごく大事な曲になるだろうと思いましたね。岡村(靖幸)さんなら人の悲しみを歌えると思って。

亀田 「NEVER GONE」は素敵な英語詞で、日本語詞を誰に付けてもらおうか岡村さんに相談したら、リリー・フランキーさんはどうだろうということで、ベスト・マッチングになりました。歌詞はリリーさんの手書きで来て、一言も修正していません。ミッキーさんにはアレンジやサウンド、歌詞などあらゆるものに対する基準があるんです。その判断は本当に天才的な精度の高さで、基準から上に行くと自由にやれよ、という感じ。到達していないものはそこまで上げる努力をなさる方だなと。

ミッキー 曇りがあると、音が届かないんじゃないかと気になって、それで良しとはならないんです。

Private Studio of Mickie Yoshino

ミッキー吉野のプライベート·スタジオ

ミッキー吉野のプライベート・スタジオ。デスク左には、KORG NautilusとROLAND RD-700NXが並ぶ。DAWはAPPLE Logic Proを使用。モニター・スピーカーはPRESONUS Spectre S6、ミキサーStudioLive 16.0.2 USBが設置されている。また、卓上にはUSBマイクのサンワダイレクト 400-MC015PROも見て取れる

どの曲を聴いてもサウンドが“バンド”

今作で、特に気に入っているアレンジはありますか?

ミッキー 「歓びの歌 feat. Mummy-D」かな。コード・ワークやベース・ラインで変拍子を作ることはあっても、完全にメロディで変拍子にするのは初めてだと思う。“12341234”ではなく、“12312345”みたいに割っていくとメロディが自然に増えて弾んでいくんです。そうやってアレンジするのが好きですね。4/4拍子の曲を6/8拍子に変えたりするとタケカワ(ユキヒデ)とかがすごく喜ぶんだよね。

亀田 実際ベースを弾くと、変拍子だと意識しないくらい自然なんです。これはミッキーさんのアレンジのマジックですよね。音楽の数学的な部分を小難しく聴かせるんじゃなくて、やさしくノリの良いものに聴かせる錬金術師みたいな。

 

なぜナチュラルにできるのですか?

ミッキー しゃべっているときの“~でさあ、それで、それで”というパターンと同じですよ。変拍子だと思って弾こうとすると難しいんですけど、言葉だと思えば全然。

 

リズムを言葉に置き換えるという発想があるからラップとの相性も良いのでしょうか?

ミッキー それは考えたことないけど……。

亀田 ミッキーさんのサウンドには踊れ踊れの精神が含まれていて、コード進行やリフがキャッチーなので、ラップはすごく相性が良い。あと、美しい曲と美しいアレンジを、若い世代の身近に寄せるにはヒップホップ、ラップという手法はすごく有効だと思ったんです。

ミッキー 基本、自然に体が動くような感じで楽しんで聴いてもらいたい。そうすると演奏が難しくなる場合があるんですけど、難しいものをいかにやさしく聴かせるかというのは基本で、やさしく聴こえればそれはポップなんだよね。

亀田 ミッキーさんは“エナジー”という言葉をよく使われますね。“もっとエナジーがあっていいんじゃないか”とか。

ミッキー エネルギーが無いものはそこら辺で落ちちゃうけど、エネルギーがあるものは音が遠くへ飛んで行くから、演奏する人とか歌う人みんなが持ってなきゃいけないんだよね。エンジニアもそうで“あなたから彼方まで”見ていなきゃいけない。今回は、マスタリングも含め本当に良かったんですよ。

 

レコーディング、ミックスはほぼ全曲工藤雅史さんが手掛けられていますね。

亀田 工藤さんとはずっと一緒にやってきて、迷わずお声掛けしました。しかもブラスバンド出身で、人生で一番ドラムをたたいた曲は「銀河鉄道999」だと。相性の良い人を選ぶと、必ずゴダイゴのかけらのようなものが出てくるんです。

ミッキー 亀田さんとやって良かったなと思うのは、どの曲を聴いてもサウンドが“バンド”なんだよね。僕は本当にバンドが好きだから、自分のピアノ・ソロもバンドを感じる演奏をしているし、そこが楽しいところじゃないかな。

 

 

インタビュー後編(会員限定)では、 今作での「ガンダーラ」制作背景、EXILEのSHOKICHIが感嘆したというミッキー吉野の”グルーブ“の秘密に迫ります。

レコーディング、ミックスを手掛けた工藤雅史氏によるエンジニア・インタビュー(会員限定)も公開中。

Release

『Keep On Kickin' It』
Kisshouten:KOKI-1213
2月2日発売(各配信サービスにて配信中)

Musician:ミッキー吉野(k)、亀田誠治(b)、JUJU(vo) 、SHOKICHI(vo)、Campanella(Rap)、MIYAVI(vo、g)、Char(vo、g)、エディ藩(cho)、タケカワユキヒデ(vo)、Mummy-D(rap)、サッシャ(vo)、岡村靖幸(vo)、佐橋佳幸(g)、石成正人(g)、小倉博和(g)、ハマ・オカモト(b)、高水健司(b)、河村カースケ智康(ds)、金子ノブアキ(ds)、山木秀夫(ds)、斎藤有太(p)、皆川真人(syn)、西村浩二(tp)、 山本拓夫(sax)、村田陽一(trombone)、金原千恵子ストリングス(strings)、STUTS(MPC、prog)、豊田泰孝(prog、manipulator)、Lenny Skolnik(prog)
Producer:亀田誠治
Engineer:工藤雅史、太田敦志、米田浩徳、Rey "Reynolds” Maeda
Studio:Landmark、Sony Music Studios tokyo、prime sound studio form、freedom studio infinity、Tokyo School of Music Shibuya、HeartBeat Recording、Nasoundra Palace