RED ORCA(金子ノブアキ×草間 敬)〜あり得ない情報量を3分半くらいの曲にバーっと入れたら“今のは何だったんだ?”というリアクションが起こせるかな

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RIZEのドラマーとしてデビューし、近年は俳優業の傍らソロ名義での作品制作やライブも勢力的に行ってきた金子ノブアキ(写真右上)が新プロジェクト、RED ORCAを始動。ソロでも金子をサポートしてきたPay money To my PainのPABLO(g/同右下)と、草間 敬(prog/同左下)に加え、smorgas/ROSの来門(rap、vo/同左上)と若手ベーシストの葛城京太郎(同中央下)を結集したバンド形態での活動をスタートさせた。ラウド・ロックをベースにしながら、エレクトロ・ファンクやアンビエントなどをラップ・チューンに昇華。さらには1曲にこうした要素を複数入れ込んでいる。金子と草間に、制作の背景を語ってもらった。

Text:iori matsumoto

 

来門と京太郎のような“点取り屋”が2人いると
圧倒的に抜け方が違うんですよ

ーRED ORCAでは、金子さんがRIZE、ソロやサポートなどで見せてきた要素をぐっと凝縮していますね。

金子 そうだと思います。ミクスチャーと呼ばれるジャンルで生まれ育ってきたところもあるんですけど、少し前まで自分の中でバンド然としたサウンドやラウドなものを出すことがちょっと足りなくなっていた。あとは音楽と時代の流れも含めて、“今鳴っているもの”があるなと思ったんです。


ー草間さんやPABLOさんは金子さんのソロでも一緒に活動されてきましたが、ラップ&ボーカルの来門さんと、ベースの葛城京太郎さんに関しては?

金子 自然の流れで、人の縁ですけどね。来門も京太郎も、その時期会うことが多かったんです。かかわっている人が増えてきたし、バンドのような形になりつつあったので、自分のソロ名義でやるべきことではないと思ったのもあります。ソロ名義の活動も、最初はパーソナルにやってたものが、だんだんとPABLOと草間さんと3人で密接にかかわって音を作っていく形になっていきましたし。


ーソロも、途中からは“金子ノブアキ&PABLO&草間 敬” feat. SKY-HI、みたいなことだったんですね。

金子 まさに「illusions feat. SKY-HI」(2018年10月リリース)辺りからだんだんとそうなっていったんです。日高(光啓)君(SKY-HI)のライブにゲストで出て「illusions」をやったときに、ロック・バンド的な盛り上がりになって、そこですごく腑に落ちちゃった……俺はこっちに今行こうとしてるんだなっていうのを教えてもらったというか。ただ、10年前とは全然違う自分も居るので、あり得ない情報量を3分半くらいの曲にバーっと入れたら、“今のは何だったんだ?”というリアクションが起こせるかなと。

 

ー例えば「Phantom Skate」は、ラウド・ロックで始まるのに、後半で急にエレクトロ・ファンクになって、いつの間にか次の曲にスキップしたのかと思ってしまいました。

金子 来門にこのトラックを送り付けたら、“何考えてるんだ!?”みたいな返事が来ましたね(笑)。面白がってやってる感じっていうのかな。不意打ちに次ぐ不意打ちみたいな。このメンバーがいるから絶対大丈夫っていう確信もあったので。


ー草間さんも長らく金子さんと一緒に活動してきてますが、RED ORCAへの流れは自然に感じました?

草間 そうですね。今回のアルバムに入っている曲はあっくん(金子)が1人で制作したベーシックがしっかりあるんですけど、ソロ作品よりももっと攻めているところがあるし、よりいろいろな表現ができそうで、面白そうだなと思いました。

金子 来門と京太郎に関しては、ああいう“点取り屋”が2人いると、圧倒的に抜け方が違うんですよ。僕は彼らにパスを送って、バランスをステージ上で取る。それはRIZEでもずっとやってきたことだから得意だし。僕とPABLOと草間さんで作って来た土台の上にその2人が入ってくるのがイメージできた瞬間に、作り始めることができた。

 

グリルを外したSHURE SM58で
パワフルなラップを録ると本当に良い

ー曲作りは金子さん主導で?

金子 既にメンバーが新曲を提案してきてくれていますが、アルバム分は僕がみんなを口説いてプレゼンするところから始まっています。コード展開などは、PABLOと草間さんが空間を作ってくれたりもして。そこに猛獣を2匹解き放ってみる(笑)。やっぱり人物のキャラクターをイメージしてやると本当に作りやすい。

草間 僕はコード的にちょっと広げてみたいなと思ったものをちょっと付け足したり。でも全然指定は無く、僕が自由にやったものを取捨選択してもらいました。

金子 PABLOも結構シンセを入れていて、例えば「ORCA FORCE」のサビの部分も、僕が入れたシーケンスはほとんど出していなくて、草間さんとPABLOのシンセ。

草間 PABLO君に、ギターを入れてって言ったらシンセが返ってきた(笑)。彼も“ギタリストというパート”以上にかかわる感じですね。

 

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金子の自宅スタジオのデスク周り。APPLE MacBook Proに立ち上がっているのはABLETON Liveで、左手側に持ち出し用オーディオ・インターフェースを兼ねたIK MULTIMEDIA IRig Keys I/O 25をセット。右手側にはMACKIE. Big KnobとSONY MDR-CD900STが置かれる。モニター・スピーカーはYAMAHA MSP5 Studio


ー主な使用音源は?

草間 NORD Nord Lead 3は慣れているだけあって、こうしようという音がすぐパッと出せる。シンセ然とした感じの音にはこれを使っていますね。ソフトは、ABLETON Live以外ではSPECTRASONICS OmnisphereとREFX Nexus 3。


ー声っぽいパッドが多用されていますが、これは?

草間 Omnisphereかな。PABLO君も入れてきました。

金子 僕もNexus 3のクワイアと、Live PackのSOUNDIRON Olympusで入れたりしましたね。すごく便利で、母音や男女の割合も変えられる。

 

ー録音はどのように?

草間 ボーカルはあっくんの自宅スタジオで僕が、ドラムとベースは細井(智史)君と、中瀬公大君が録っています。来門君のボーカルは、SHURE SM58のグリルを外して録りました。SM58でパワフルなラップとかを録ると本当に良くて。吹かれちゃうので普通のポップ・フィルターを付けています。マイクプリは、最初はCHAMELEON LABS 7502 MKIIを使っていたんですが、これが故障してからはMACKIE. 1642VLZ4のヘッド・アンプ。そこからコンプのFMR AUDIO RNC1773をSuper Nice Modeでインサートしました。こんなにシンプルで大丈夫かなって思ったんですが、問題無かったですね。

金子 あと増えたものはIK MULTIMEDIA IRig Keys I/O 25かな。オーディオ・インターフェースにもなるので、SM58を持っていって、映画やドラマの撮影に出掛けているときもノート・パソコンとそれで事足りてしまう。例えば、「ORCA FORCE」のサビっぽいところに入っている僕のファルセットがそうで、“仮歌として入れてみたんですけど、こんな感じで録りたい”って細井さんに言ったら、“これ、十分録れてますよ”“本当ですか?”って(笑)。

 

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ボーカル・ブースにはグリルを外したSHURE SM58をラップ録り用マイクとしてセット。金子のコーラスはコンデンサー・マイクのAUDIO-TECHNICA AT4047/SVで録音したそう


ー音質的にはもっと詰められるとしても、一定以上のクオリティならテイクを優先したい?

草間 全くその通りで。来門君も、最初にテスト録音したテイクが結構そのまま生きています。彼自身がちゃんとラップを作ってくるので。そのファースト・テイクに僕らが感動しちゃうから、“ああ、もうこれでいいじゃん”となってしまう。

金子 来門のそのスタンスには感銘を受けましたね。「Saturn」ではアンビエントなトラックにラップがただひたすら乗っていますが、散文詩的に聴こえるんだけど、何テイクやっても同じところにハマるんです。彼自身の時計がある。

 

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マイクプリとしてヘッド・アンプを活用したMACKIE.のミキサー1642VLZ4。右にはFMR AUDIOのコンプRNC1776もセッティング

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DIのAVALON DESIGN U5の下には、オーディオ・インターフェースのFOCUSRITE 18I20 G2やBEHRINGERのマイクプリ/AD/DAのADA8200 Ultragain Digitalが収められている

 

トータル・コンプで干渉しないように
クラッシュ・シンバルをあまりたたかない

葛城さんのTwitterを見たら、“レコーディングです”と書いてある動画で一人で演奏していて、バンド同録ではなくダビングなんだ!?と驚きました。

金子 レコーディング前にライブもしていたので、どうやって録ってもあの感じには到達できるなっていう自信があったんです。この1年くらいでリハやライブを通じてグルーブ感が出来上がっていたので、不安は無かった。

草間 一発録りにはロマンを感じますが、作品を作るならダビングの方がより極められる感じはあります。シーケンスもあるから、そのグリッドに対してどう合わせていくかは、ダビングの方がやりやすい部分もありますね。でも、あっくんのドラムはクリックがあっても無くても全く同じテンポで進んでいくから、あまり関係ない。

金子 あまり関係ないです(笑)。


ーそれはすごい……。

金子 僕がずっとやってきたブレイクビーツ感というか、基本はキック、スネア、ハイハットの3点。ビートとラップのすべてのフローが当てはまっていくようにとか、一瞬だけ言葉と合ってたりとか……そういうプレイに今は慣れてるし、楽しいですよ。クリックがあるからその中でビートを伸縮させる。


ー全体的にスネアの抜け方が良いと感じました。

金子 12インチの小口径スネアを使っているのもありますが、詰まったパコーンという音やゴースト・ノートをしっかり出すのは得意なやり方なんですよね。シンバル・ワークも、レコーディングとミックスで一番気にするのは金モノなんです。もっと下げてくれと。トータル・コンプをかけたときに、ほかのものに干渉しちゃいけないので。

 

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PEARLドラム・セット&SABIANシンバルも常設。トップ・マイクとしてRODE NT4が用意されている


ーだからスネアが立って聴こえるのかもしれませんね。

金子 最近は右手側に15インチのリモート・オープン・ハイハットを置いたりして、いわゆるクラッシュ・シンバルをあまりたたかない。トップのクラッシュにいくと、アンビを上げると音が遠く、暗くなる。ハイハットはやっぱり、ズバッとくるいい帯域に来るんですよね。


ー口径の大きなハイハットを入れることで、クラッシュ・シンバルよりも開放的になると。ある意味、周波数デザインをシンバル・レイアウトで考えている?

金子 そうですね。今回、ミックスではドラムはやっぱりちゃんとコンプをがっつりかけましょうというところに落ち着いたんですが、それこそまさに周波数のバランス。ハイハットの偉大さをあらためて感じました。EQで削ってくとちょっと耳が詰まったような聴こえになってくるので、そこが全部開いた状態になっていたら、ある種の気持ち良い音になる。

草間 ミックスをしてくれた細井君も、ほとんどプラグインをかけていなくて、音はアウトボードで作って、AVID Pro Toolsではバランスを決めているだけという感じでした。


ー冒頭でお話しいただきましたが、まだどんどん曲ができているわけですよね?

金子 そうですね。ワンマン・ライブにはこのアルバムだけだと尺が足りないので、新曲も用意しています。ある意味ゾーンに入ってるところもあるし、アルバムを2枚、3枚出すまでは、駆け抜けないと。経験上、そこから本当に始まるみたいなところもあるので。次の作品も、何の問題もなくいけるという確信が持てたという意味でも、『WILD TOKYO』の制作はトピックでしたね。

 

Wild Tokyo

Wild Tokyo

  • RED ORCA
  • ロック
  • ¥1833

 
『WILD TOKYO』
RED ORCA
Paradox(配信限定)

1.ORCA FORCE
2.beast test
3.Night hawk
4.Phantom Skate
5.Octopus
6.LOBO~howl in twilight~
7.ILLUSIONS~Jump over dimension~
8.MANRIKI
9.Saturn
10.Rainbow

Musicians: 金子ノブアキ(ds、prog、cho)、来門(vo、rap)、PABLO(g、prog)、葛城京太郎(b)、草間 敬(prog、syn)
Producer:RED ORCA
Engineer:細井智史、草間 敬、中瀬公大 
Studio:バーニッシュ、SEEZE、プライベート

 

RED ORCA Official Web

redorca.tokyo