山木秀夫のプライベート・スタジオ|Private Studio 2022

山木秀夫のプライベート・スタジオ|Private Studio 2022

リラックスした中でミュージシャン同士が音を楽しみ、個性あるサウンドを追い求められる場所

 ロックやポップス、ジャズを中心にさまざまなジャンルを横断するドラマーの山木秀夫。長年音楽界の第一線で活動し続けるだけでなく、ドラム・スクールを主宰して後世の育成にも尽力している。彼が創造と育成の中心地として構えたプライベート・スタジオ、GROOVERS STUDIOを紹介しよう。

Text:Yusuke Imai Photo:Takashi Yashima

ドラム録りに適したマイキングができるようにライブ/デッドを組み合わせてチューニング

 GROOVERS STUDIOがあるのは山木の自宅の地下。山木が引っ越してくる前はバーだったという。

 

 「小さなステージがあるバーで、今ドラムを置いている場所がステージ、機材などを置いているところも酒棚だったんです。コントロール・ルームにしている部屋はボックス席だったので、鏡も置かれていますよ。大掛かりな壁の調音や床の仕上げは業者に頼みましたが、ドラムの鳴り方を確認しながら幾度となく相談を重ねて仕上げてもらいました。それ以外の部分……壁を塗ったり、吸音材を張ったり、機材を組み込むラックを作ったりということは妻と2人で徐々に行っていったんです」

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スタジオにあるSONARを中心としたドラム・セット。ここがバーだったころからあった、一段高いステージ上へ設置している。モニター用のスピーカーにはBOSE 802IIIを用意

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こちらもSONARを中心としたセット。ドラマー同士のセッションもGROOVERS STUDIOで行える。写真右側にあるのはドラム・レッスン時に生徒が使うパッド。ドラム・セットの奥には、PAエンジニアに譲ってもらったというPAスピーカーのJBL PROFESSIONAL JRX125がある

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ドラムの手前側には、もともと酒棚だった場所を活用した収納スペースがある。YAMAHA NS-10Mを設置しており、録音したものをミュージシャンたちで確認する際のモニターとして使っているそうだ。ROLAND RD-2000やDIEZELのギター・アンプなど、ミュージシャンが集まって演奏できる環境も用意している

 DIYで作り上げられたこの空間は、もともとはレッスンを行える場所として作られた。しかし、新型コロナ・ウィルスの流行によって活動の制限が生まれたことで、レコーディングがしっかりとできる環境を構築し始めたそうだ。

 

 「録音は簡易的なシステムからスタートしました。最初は星野源さんの「うちで踊ろう」の流れに参加して、それからAVID Pro Toolsを導入するなどさらにシステムを掘り下げていくうち、海外ミュージシャンとのレコーディングもするようになって。お互いに自宅スタジオで録ったものを送り合って、それぞれが音を乗せて作品ができていく……。直接会えない中でも充実した音楽を作れるという手応えを得られました」

 

 メインのスペースにはドラム・セットが2つ用意されている。ドラムが置かれている場所はデッドめに、その手前側はライブめになるよう、部屋のチューニングをしたとのことだ。

 

 「手前にスペースに響きを残したことで、そこへオフマイクを立てると広い空間で録ったようなサウンドで録ることができるんです。最近ではエンジニアもドラム録りを経験する機会が少なくなっているようで、“ここでマイキングを試せる”と喜んでもらえています」

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ドラム録りに使うマイク。SOLOMON MICSやAKG、SENNHEISER、AUDIX、ELECTRO-VOICE、SHURE、AUDIO-TECHNICA、MXLといったマイクをそろえている。写真中央下、SENNHEISER E901の右側に並ぶEARTHWORKS SR30とQTC50は、個性あるサウンド作りのために用意されたもの。非常にクリアで、シンバルの高域も伸び良く録れるとのことだ

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こちらもドラムに使うマイク。NEUMANN U87AIやTLM103のほか、リボン・マイクのROYER LABS R-122とドラムのために開発されたJOSEPHSON E22Sといったマイクもそろえている

 ドラムでは床の響き方もサウンドに大きく影響してくる。スタジオでの演奏を繰り返し、調整を行っていったという。

 

 「もともと床には砂が埋まっていました。最初は驚きましたが、スタジオ作りの技術として床に砂を使うことはあるようで、実際にドラムを演奏したときの音も良かったんです。でも、老朽化と湿気の影響で良い状態ではなかったので、最終的には砂を全部取り出しました。硬いスポンジ素材を敷き、その上にモルタルを流し込んでいます。単にモルタルだけ流し込むと硬過ぎて低音が出ないんですが、スポンジ素材を使ったことで程良く響いてくれるようになりました」

 

 コントロール・ルームの音響もDIYで調整。壁に吸音材、天井には自作の音響パネルが設置されている。

 

 「スタジオができた当初は、ドラムの真横にエンジニアの作業場所がありました。さすがに音が作りづらいということで、楽器庫として使っていた部屋をコントロール・ルームにしたんです。防音がしっかりできていて、ドラムをたたいてもキックが少し響いてくる程度になっています」

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コントロール・ルーム。壁のペンキ塗りや吸音材の張り付けは自身で行ったとのこと。天井には吸音パネルがつるされており、そちらも木の枠から自作したそうだ

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コントロール・ルームのデスク。AVID Pro Tools|HDシステムで録音を行っている。デスクの手前下段にあるコントローラーはEUPHONIX MC ControlとMC Mixだ

演奏が個性的であるだけでなく作っていく音も個性的であるべき

 コントロール・ルームの機材は、山木と長年制作を共にしてきたプロデューサー、石原忍氏(shiosai)と相談しつつ決めていったという。“プライベート・スタジオの利便性とハイクオリティな録音システムの両立”を目指したそうだ。SSLやNEVE、UNIVERSAL AUDIOといったスタジオ定番機を導入する一方、TOFT AUDIO DESIGNSやCHANDLER LIMITED、MILLENNIA、AVALON DESIGNのアウトボード、EARTHWORKSやROYER LABSのマイクを入れることで、個性的なサウンドを作れる振り幅を持たせたという。

 

 「演奏が個性的であるのはもちろん、そこから作っていくサウンドが個性的であるのも大切。ここでは時間に縛られずに個性のあるサウンドを自分が納得いくまで掘り下げることができます」

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デスク右側にはUNIVERSAL AUDIO 1176AEを2台設置している。1176の誕生40周年を記念して作られたモデルで、世界に500台しかない。モニター・スピーカーはADAM AUDIO S2V。山木いわく「キックの低域まで感じられるスピーカー」とのこと

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デスク左側のラック部分にはAVALON DESIGN AD2044、CHANDLER LIMITED Germanium Compressor×2台が組み込まれている。その上にあるのはEUPHONIX MC Transportで、ラック手前のものは知人が自作したというキュー・ボックスだ

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コンソールのTOFT AUDIO DESIGNS ATB16。TRIDENT AUDIOコンソールのチャンネル・ストリップが元になっている。“1970年代にミュージシャンが新しいサウンドを生み出したTRIDENT AUDIOのサウンド”をプライベート・スタジオに最適なサイズで導入できるということで採用された

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ATB16の下にあるラック。上から、マイクプリ×4+コンプ×2+EQ×2のモジュールがセットされたSSL X-Rack、AMS NEVE 8802、CHANDLER LIMITED TG12411、Germanium Tone Control、MILLENNIA HV-3R、AVALON DESIGN AD2022、FOCUSRITE OctoPre MKIIが並ぶ。さまざまなキャラクターのアウトボードも組み合わせて、個性あるサウンドへとつなげているようだ

 GROOVERS STUDIOには山木と交流のある多くのミュージシャンが訪れ、さまざまなセッションを行ってきた。「みんなで楽しむ中から自然に出てくる音を録れるような場所にしたかった」と山木は語る。

 

 「通常のスタジオだと、どうしてもお金や時間の制約があったり、プレッシャーを感じながら演奏しなければいけなかったりしますが、そういったものを無くしてリラックスした状態から生まれる音を録れるようにしたかったんです。今後もさまざまな世代のミュージシャンを招いて音楽を作っていく場所にしていきたいですね」

Equipment

 DAW System 
Computer:APPLE Mac Pro
DAW:AVID Pro Tools|HD
Audio I/O:AVID Pro Tools|HD I/O
DAW Controller:EUPHONIX MC Control、MC Mix、MC Transport

 Outboard & Effects 
Mic Preamp:SSL XR621、CHANDLER LIMITED TG12411 Channel、MILLENNIA HV-3R、AVALON DESIGN AD2022、FOCUSRITE OctoPre MKII
Compressor:SSL XR618、UNIVERSAL AUDIO 1176AE、AVALON DESIGN AD2044、CHANDLER LIMITED Germanium Compressor
Equalizer:SSL XR625、AMS NEVE 8803、CHANDLER LIMITED Germanium Tone Control

 Recording & Monitoring 
Mixer:TOFT AUDIO DESIGNS ATB16
Monitor Speaker:ADAM AUDIO S2V、BOSE 802III、YAMAHA NS-10M、JBL PROFESSIONAL JRX125
Microphone:SOLOMON MICS LFRQ、AKG D112、C451B、AUDIX I5、D1、ELECTRO-VOICE RE20、SHURE SM57、AUDIO-TECHNICA ATM25、SENNHEISER MD421、E901、EARTHWORKS SR30、QTC50、MXL CR21、NEUMANN U87AI、TLM103、ROYER LABS R-122、JOSEPHSON E22S

 Instruments 
Drums:SONAR Drum Set
Keyboard:ROLAND RD-2000

 

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山木秀夫

中学よりドラムを始め、1974年に市川秀男のトリオに加入して上京。プロ・ドラマーとしての活動をスタートさせる。以降、渡辺香津美、近藤等則、アート・リンゼイ、ビル・ラズウェル、井上陽水、坂本龍一、B’z、福山雅治など、多くのアーティストの作品/ライブで活躍。

 Recent Work 

『異類無礙 Anthem』
白鲨JAWS
(MYUZIC)
※「異類無碍」「你看到了」に参加

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