アルバム『We Are The Times』についてBuffalo DaughterとZAK氏に引き続きインタビュー。後編では、新しい作品への意識やミックスを手掛けたZAK氏に作品の印象を聞きました。ラストは、長く活動するバンドの結束を感じる内容になっています!
Text:Satoshi Torii Photo:Enno Kapitza / Kosuke Kawamura(メインカット)
インタビュー前編はこちら:
自分たちが新しいと感じるものを作る
ーほかには、山木秀夫さんが「LOOP」のドラムとしてクレジットされています。
大野 「LOOP」は、最初にサポート・ドラムの松下敦君と一緒に録音しました。そのときに私がMOOG Minimoogでベースを弾いていたんだけど、勢いを付けたいためにリズムが突っ込み気味になるところがあって、松下君のドラムとあまり合わなかったんです。だから、違うドラムの人ともう一回やり直すのはどうかっていうアイディアが出てきました。ZAKが山木さんのことをよく知っていて、山木さんのすごく勢いのあるドラムと一緒にやれたら良いかなと思ってお願いしたんです。結果的に山木さんは私と一緒に弾き直すんじゃなくて、ドラムだけ全部やり直すことを選んでくれて。私の突っ込んだMinimoogのベースに合わせてたたいてくださったんです。
シュガー 完ぺきに合わせてくれたよね。1カ所、大野のタイミングが変だなと思うところがあったんですけど、そこまでも拾ってちゃんと合わせてくれて。
ーサウンドも山木さん以外あり得ないという音ですね。
大野 雷みたいなすごい音でした。アルバムには収録しなかったんですが、本当は「JAZZ」でも山木さんにたたいてもらった方がいいかなと思ってお願いしているんです。録音のときにこっちで用意したクリックがちゃんと合っていなくて、どうしようと山木さんに言ったら“クリックずれててもいいよ”ってそのまま演奏してくださって。ちょっと恐ろしかったです(笑)。
ー新たな顔ぶれもある今作からは、鳴っている音は紛れもなくBuffalo Daughterの音なのに今の時代にふさわしい音像と言うのか、何か新しいものがあるように思いました。それが一体何なのかを疑問として感じています。
シュガー 新しいものにしようって意識はすごくあります。何せ28年目で、アルバムも8枚目ですし。でも結局、基本的にやっていることは全く変わっていないなって振り返ってみて思います。ただ、私たちの中では新しいって感じることをやりたくて。長い制作期間があったので、途中でできた曲とか素材もたくさんあったけど、発表するものになっていなかったっていうのは事実としてあります。
ー制作期間から考えると、素材はかなりの量になるのではないでしょうか?
シュガー 弾いたけど使わなかったものもあったね。
大野 本当にいろいろと試したんです。曲によってはごっそりと抜けて無くなっている部分もあります。レコーディングして間が空いて、またレコーディングを何週間かやって間が空いて……みたいな感じでやっていたからずっと何かを考えていました。違うアイディアが浮かんだらまた話し合ったりしたので、どんどん変化していっています。
ームーグさんはセッションに参加していないのですか?
ムーグ 居なかったです。
シュガー 今回のアルバムは最後の2日しか居なかったので、それまではずっと居ないんです。
ー出来上がる途中の音源は聴いていたのですか?
大野 途中で一度聴かせたときに、暗いって言ってたね。
ムーグ ガラスとアルミニウムとプラスチックでできているような世界に聴こえました。自然が漂っていないなって。
ーそういった暗さで言うと、制作中に放映が始まったテレビ・ドラマ、『ツイン・ピークス The Return』から大きく影響を受けたそうですね。
シュガー 私たちはもともと『ツイン・ピークス』が大好きで、バンド名もそのイメージから付けていたりするのでかなり影響を受けています。25年ぶりに戻ってきたらとんでもないことになっていて、衝撃を受けたのはすごく大きいです。
大野 「ET(Densha)」は『The Return』を見た?って話をしてからスタジオに入って、曲の土台ができています。ダビングするときにも話していましたね。
シュガー 「Everything Valley」の途中に入っている『ツイン・ピークス』にあるような逆回転ボイスも、今までほかの人のリミックスでは試していたんですがあまり評判が良くなくて。だったら自分たちの曲に入れようと。
大野 怖いとか言われて“えっ?”って(笑)。
シュガー 怖くないでしょうっていう。リベンジですね。
最後に3人が集まってバンドとしてまとまった
ーZAKさんは、これまでのBuffalo Daughter作品においてもエンジニアリングを担当しています。今作を制作するにあたって、何か考えていたことはあるのでしょうか?
ZAK 特には無いです。そのときになってみないと分からないっていうのがあるので。
ー話を聞いていると、奥村さんが参加したということが大きな変化なのかと感じました。
ZAK 彼が入ったっていうのはかなり大きいですよね。ムーグさんとも違うかかわり方で、結構引いた視点で何かをやってくれる人っていうところもありました。我々と一緒に作業するのに向いていたんじゃないでしょうか。
ー作品が出来上がっていく中での印象はどうでしたか?
ZAK 最初に「ET(Densha)」をミックスしたんですけど、ムーグさんも言ったように暗い曲ですよね。人工物っぽい感じもするし。あの曲の要素がほかの曲にも集約されているみたいなところはあると思います。
ー「ET(Densha)」ができたことで、新しい試みにつながっていったということなのでしょうか?
ZAK 新しいものというよりかは自分たちで聴いてそれを楽しみたい、喜びを分かち合いたいっていうことですね。新しいと感じてくれるなら、そう届いているのかなという気はします。後はバンドの作品というところ。強いチームワークと信頼関係で成り立っているのがバンドの良さだと思います。
ー確かにこれまでの作品のようなBuffalo Daughterらしさというのも強く感じました。
ZAK 同じものを繰り返していくことが古く見えるんじゃなくて、繰り返して質が上がっていって常に新しくなっていると言うのでしょうか。我々はもうそんなに変身できるわけじゃないから持っているものは同じでも、やり方次第で新しいものが生まれてくるんだと思います。
ー今作では、マスタリングをイギリスのマット・コルトン氏に依頼していますね。
大野 初めて頼む人だったので、まず「ET(Densha)」を試しにお願いしました。ZAKが完ぺきなミックスをしてくれたから、崩さずにもっと迫力のあるものにしてくれるならと思って。でも最初に戻ってきたものはちょっとレンジが狭まっちゃったような気がしたんです。ZAKがアドバイスをしてくれた上で再度マットに送ったら良くなったので、じゃあ大丈夫かなと全曲お願いしています。
ZAK 主にダイナミクスですよね。どれくらいダイナミクスを残せるかというのがマスタリングでは大きいと思います。
シュガー 「ET(Densha)」がアルバムの中で軸になっている曲だからというのもあります。ZAKもそう感じてくれたから最初にミックスしてくれたのかなって。割と新しい試みの音像だったし、この曲をまず成功させたかったんです。
ーミックスで使ったDAWソフトは何ですか?
ZAK AVID Pro Toolsですね。
大野 機材もミックスの途中で変えてなかった?
ZAK 「ET(Densha)」のミックスをしているときにオーディオI/Oの聴き比べをしていて、MERGING Horusが僕に合っているなと。Horusにした理由の一つがこの曲の音というのもあります。
ーアルバム完成まで約4年半という長期間でした。すべての作業を終えた心境はどうですか?
大野 すごく長いレコーディングだったけれど、歌録りをした最後の2日で凝縮されて、全部が楽しい思い出になったなっていう感じです。
ーそれは2020年の11月ですね。そのときはムーグさんも参加していたのですね?
ZAK 「MUSIC」の最後に携帯電話の音が入っているんですけど、ムーグさんの携帯の音なんです。歌い終わった瞬間に鳴ったので、そのまま残しました。そういう役目って言うのかな。居ないと成り立たないんですよ。
シュガー なかなかスタジオに来なかったんで。最後にやっとまとまったって思ったよね。聴かせても“暗い”とか言って反応悪いし。「Don’t Punk Out」の途中の声とか、まさにああいうのが欲しくて呼んだんだけど、予想以上のもので返してくれて。もちろん新しい要素っていうのはあるけれど、3人そろってまとまった!ってことがあったからBuffalo Daughterらしいアルバムになったんだと思います。
ーと、シュガーさんは言っていますが……。
ムーグ 全然違いますね!(一同笑)。奇麗にまとめようとしたらダメなんです。新しく感じるけど何が新しいか分からないっていうのはまさに今の世界がそうじゃないですか。すごく正直で、それで良いと思うんです。僕は分からないところが良いと思います。しかも暗いっていうのも良いんですよ。
シュガー 暗いって良いよね。褒め言葉だと思う。
ZAK うん、でも暗くはない気がする。そんなことない?
シュガー 暗くない。最終的に暗くないものになったのよ。それは3人で終えられたからって大野が言ってて、事実なわけよ。来ないからさ。来た方が絶対バンドとしてまとまるわけ。だから来てちょうだいってことを今言いたいです。
大野 すぐサボるからね~。
シュガー すぐサボる。調子悪いとか痛いとかすぐ言うけど、私たちも頑張ってるんだから。来てくれりゃいいんだよ。
ムーグ こういう正直な終わり方ならいいよ。最終的にバンドとしてまとまりましたとか、そんなんじゃダメでしょ(一同笑)。
インタビュー前編では、2017年の中原昌也とのセッションから、制作の過程で参加したという奥村建の存在などについて話を伺いました。
国内リリース・ツアー『We Are The Times Tour』を開催!
ニュー・アルバム『We Are The Times』リリース・ツアーとなる 『We Are The Times Tour』の開催が決定! 2022年1月28日(金)東京恵比寿LIQUIDROOMを皮切りに、全国5都市で行われる。
[日程]2022年1月28日(金)
[開場/開演]19:00/20:00
[料金]ADV. ¥4,500 + 1D
[会場]LIQUIDROOM
[一般発売]11月13日(土)10:00〜 e+/ぴあ/ローソン
そのほかの会場や詳細については、Buffalo Daughter official HPまで:
Release
『We Are The Times』
Buffalo Daughter
Buffalo Ranch/Musicmine:MMCD-20040
Musician:シュガー吉永(g、vo、syn)、大野由美子(b、vo、electronics)、山本ムーグ(turntable、vo)、松下敦(ds)、山木秀夫(ds)、中原昌也(noise)、奥村建(computer)、他
Producer:Buffalo Daughter
Engineer:ZAK、葛西敏彦、シュガー吉永
Studio:st-robo、Metal Base