yonawo『遙かいま』インタビュー【後編】レコーディング風景やミックスで使用したプラグインとは?

yonawo『遙かいま』インタビュー【後編】レコーディング風景やミックスで使用したプラグインとは?

福岡の4人組バンド=yonawo。有機的なエレクトロ・ビートや実験的なサンプリングを取り入れたバラード、肉体感のあるベースがリードするソウル・チューンなど幅広く収録する2ndアルバム『遙かいま』。前編ではGarageBandを用いたデモ作りを話してもらったので、後編ではレコーディングの様子やミックスを軸に語ってもらう。

Text:Mizuki Sikano

インタビュー前編はこちら:

パーカッションはスタジオで遊び感覚で録ったものが多いです

パーカッションはかなりの音数が入っていますよね。

野元 パーカッションは元から入れようと計画したものもあるけれど、ほとんどは皆で録音現場の遊び感覚で入れているものが多いんですよね。ST-ROBOにあった小さいチャイムが「The Buzz Cafe」と同じキーだったので、使ってみたりしています。

田中 「恋文」の後半の展開で全体がこもるところでは、荒ちゃんがスタジオで飲んだワイン・ボトルを手でポンポンポンってたたいた音が入っていますね。

荒谷 水とか入れると音が変わるので水量を調整したり、いろいろなボトルを試して録音しましたね!

斉藤 それをちょうど録っているときに僕がカメラで撮影していて、そのシャッター音もマイクが拾ってるんですよね。左右からカシャカシャって(笑)。それも生かしてます。

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「The Buzz Cafe」で鳴っているシェイカーをメンバー全員でマイクに向かって鳴らしている様子

ギミックが効いていますね。「ごきげんよう さようなら」のピアノの裏にも秒針のような音が聴こえます。

斉藤 あれはクリックの音漏れですね! 本当は事故だったんですけど、あれを聴いたときに格好良いなと思ってテンション上がっちゃって(笑)。生かしました。

野元 ほかの曲でも結構いろいろと試していて、「恋文」の最後に雷みたいな打楽器の音を入れたくて、鉄のドアをたたく音まで試して結局ボツにしたこともあったり。

 

日ごろからサンプリング実験みたいなことをやられているのですね。

斉藤 僕らは音の鳴るものは基本的に何でも楽器として扱うんですよね。スタジオでパーカッションを録るときは、のもっちゃん(野元)がスタジオで一番元気になる瞬間です。

野元 「夢幻」の冒頭で鳴っているタブラはU-zhaanさんが何年か前にST-ROBOに置いていったものらしいんですよね。それを今回は勝手に使わせていただき、ノリでたたいています。「The Buzz Cafe」の最後に鳴っている女性のボイス・サンプルは、知り合いの彼女にフランス人がいて、その方の声を録音して、サンプラーROLAND SP-404SXに入れて、ディレイとかをかけながら録った音です。

斉藤 そうして適当に録ったものをHaruyoshiに戻って、Pro Tools上で良い部分だけ切り張りしていきます。

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サウンドクルーでのドラム・セット。AKG C451Bと思わしきペンシル・マイクがシンバルに向けられて2本とハイハットに向けて1本、野元喬文の方に向かい中央上に1本セットされている

「ごきげんよう さようなら」と「浪漫」のピアノが滑らかで奇麗で、どのように録ったのでしょうか?

斉藤 僕が通っていた専門学校、九州ビジュアルアーツのKVA Recordingで、僕の先生だった立川 (真佐人)さんにお願いしました。

荒谷 あと、ピアノの調律師さんがレコーディングの前日に来てチューニングしてくれたのですが、その音がすごく良くて。音のイメージを伝えると音色までコントロールしてくれる方なんです。「浪漫」で使ったのはYAMAHAのピアノで広がりのある音だったのですが、僕が“温度や空気が無いような平原みたいな感じにして”って抽象的なことを伝えて、それを音にしてもらったんですよ。

斉藤 コントロール・ルームで荒ちゃんが弾いてるの聴きながら皆で“最高!”って言ってたよね。

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ピアノのフレームのホールにSHURE SM57×2が立てられ、ハンマーに向かってNEUMANN M149が2本セットされている

ピアノのマイクは何を使いましたか?

斉藤 確か立川さんが、NEUMANN U87を2本とCOLESのリボン・マイク4038を2本立ててたかな。

 

ボーカルのマイクは何を使っていましたか?

荒谷 「ごきげんよう さようなら」と「浪漫」のボーカル・マイクはU87を使っています。ST-ROBOでは、エンジニアの岩谷(啓志郎)さんのイメージでTONEFLAKE T47Sを選んでもらいました。

斉藤 コーラスはHaruyoshiにあるマイクNEUMANN TLM103で録りました。Haruyoshiで録るボーカルにはSSLSixを通すことが多いです。アコギ録りでもよく使います。コンプの質感がめちゃくちゃ柔らかくてウォームです。

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ST-ROBOでの荒谷翔大。ボーカル録音にはコンデンサー・マイクTONEFLAKE T47Sが使われている

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ST-ROBOで斉藤雄哉の弾いたGIBSON ES-175はDIを経由してSUPROのビンテージ・アンプを通して録音されている

コンプのかかり過ぎた硬質な音はあまり好きじゃないですね

アレンジに亀田誠治さんが参加している「闇燦々」の制作は、どのように進行していきましたか?

荒谷 僕が作ったデモを亀田さんに送る際にマイケル・ジャクソン「ロック・ウィズ・ユー」みたいなグルーブにしたいって伝えたんですよ。その後にメンバー全員で、亀田さんとは3回ぐらいスタジオに一緒に入って、演奏しながらディスカッションを重ねていったんですよね。そういう意味では、一緒に作ってもらった感じがすごくあって、めちゃくちゃ楽しかったです。

 

「闇燦々」は、肉体感のあるベースが全体をリードしているような印象が強い曲ですね。

田中 亀田さんは結構俺らの意見を聞いて “それ面白いね”とか言ってくれて、かなり話し合って作ったんです。僕個人としては、今までの曲の中では一番、ちょっとオラオラした感じかなと思います。亀田さんが作ったアレンジには亀田さんの弾いたFENDER Jazz Bassのゴリゴリした音が入っていて“かっけぇな”と思ったんですが、僕はFENDER Precision Bassを弾いているので、Toneをかなり上げて肉体感のある音像に近付けていきました。

 

レコーディングした素材が戻ってきたらそれを皆でチェックする?

斉藤 スタジオで酒を飲みながらレコーディングした素材をチェックしていますね。

野元 それで、ミックスをお願いするときのリファレンスをどうするか全員で相談します。僕はその後それと別で、ドラムの音色のリファレンスを送らせてもらっています。

 

ドラムはサステインが長くないドライな音像ですよね。

野元 そういう音のリクエストが多いかもしれないですね。レディオヘッドとかトム・ミッシュなどの楽曲の、ドラムの音色、距離感、大きさを参考にしてもらいました。“ライド・シンバルにリバーブとかをかけて、もっとムードを出したい!”とか、難しい注文にも応えてもらったと思います。

田中 「sofu」の後半のベースは、自分の中ではDJシャドウ『Endtroducing.....』の後半にある曲の空間成分が欲しくて、リバーブをかなり深めにかけてもらったんです。でもそれだと冒頭のシンセ・ベースの音と似通ってきちゃうので、輪郭や芯は残しつつリバーブ量を減らして調整してもらいました。

斉藤 曲によっては、僕がラフ・ミックスを作ってニュアンスを伝える場合もありますね。

 

全体的にあまりコンプ感の少ないナチュラルな音が多いですが、それはサウンド・コンセプトなのですか?

斉藤 確かに僕はコンプのかかり過ぎた硬質な音があまり好きじゃないです。今回のミックスをしてくれた(岩谷)啓士郎さんもそういう感じで、あまりコンプしないですね。

 

あとどの楽曲のミックスでも、楽器隊がボーカルを包み込むような、そういったニュアンスを感じます。

斉藤 ボーカルが“ドカーン!”って前に来る感じは好きじゃなくて。でも、ちゃんと真ん中に芯としてあって欲しくて。最後に啓士郎さんのスタジオに集まって、その塩梅を細かく最終調整してもらいました。メンバー全員が、自分の音のイメージを結構持っているんですよね。

荒谷 僕も圧のある感じの音楽は好まないから、ナチュラルなボーカルの音を参考にして、ちゃんと抜けてくるけれど周りと一体感があってなじむ音を目指してもらいました。

 

録音後に斉藤さんがミックスをする際には、どのような処理を行なっているのでしょうか?

斉藤 例えばボーカルについては、EQがWAVES SSL E-Channel、コンプがWAVES CLA-76、プレート・リバーブのWAVES Abbey Road Reverb PlatesとSOUNDTOYS Little Plateを使うことが多いですね。「はっぴいめりいくりすます - at the haruyoshi/Take 5」は僕がミックスを担当しているのですが、どの楽器にもテープ・シミュレーターのWAVES J37 Tapeをかけました。イメージは昔のレコーディングみたいな、部屋で録った音。あえてレンジを狭くして、ボーカルもザラザラひずんだ感じにして“良くない機材で録ったんだな”みたいな音の演出をしています。

荒谷 ブラウン管テレビの映像みたいなニュアンスで、解像度の低さを感じる加工だよね。

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ボーカルにかけるEQとしてよく使用するというチャンネル・ストリップWAVES SSL E-Channel。画像は高域と中域がわずかに持ち上げられているのが分かる

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EMT140をエミュレートしたプレート・リバーブのSOUNDTOYS Little Plateもボーカルに使用するという。Decayは1.5秒に設定

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「何でも良い音になるので楽器によくかける」と斉藤が話すWAVES J37 Tapeは「はっぴいめりいくりすます - at the haruyoshi/Take 5」で汚し用として活躍したという

「浪漫」でも加工されたボーカルがありますね。

荒谷 あれはGarageBandの内蔵ボーカル・エフェクトAudio Recorderを使った音で、皆で話してデモの音色をそのまま生かすことになったんですよ。「浪漫」では、リスのイラストが描かれたモードを選択して使っています。

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「浪漫」冒頭とアウトロのボーカル加工に使われたGarageBandの内蔵ボーカル・エフェクトAudio Recorder

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「浪漫」のラップスティールにLogic Pro内蔵アンプ・シミュレーターのClean Guiter>Amazing Tweedを通している

4人全員がDAWを使えるようになり、曲作りがさらに楽しくなりました

斉藤さんのようなエンジニアリングのできるメンバーがバンドに居るのはさまざまなメリットがありそうですね。

荒谷 メリットしかないですね。僕はGarageBandで打ち込みをして、自分の好きな音に近付けたいからラフ・ミックスをしたりもするのですが、分からないときに雄哉に聞くと教えてもらえるんですよ。昔から機材オタクで、僕は曲作りが好きだったから、良い感じで役割分担ができている。

田中 良い音の価値観が広がったって思います。ゲート・リバーブの音を説明してもらって80’sの音楽を聴いたり……そういう中で音楽のジャンルを特徴付けている音を観察できるようになって、音楽の楽しみ方を教わりました。

荒谷 雄哉がサンレコとかを読んで、ビリー・アイリッシュの音楽や音の考察をして話してくれたり、あと僕ら小袋成彬さんが好きなので、一緒に聴きながら話したりしたよね。

斉藤 小袋成彬さんのエンジニア、小森雅仁さんのミックスは素晴らしいなと思ってよく聴いています。

 

斉藤さんが得た情報をバンドに共有しているのですね。

野元 雄哉くんは教育者みたいな感じ。最近はPro ToolsとLogic Proの使い方を教わったりもします。僕は雄哉くんがきっかけでイアフォンの音質の良し悪しを気にするようになって、良い酒や食を嗜む感覚で良い音に触れたいと思うようになった。ちなみにSONY MDR‐EX 800STのフラットで解像度が高い音質がお気に入りです。

斉藤 最近4人全員がDAWを使えるようになったんですよ。あと、荒ちゃんにミックスを教えたらちゃんと成長していて、デモのラフ・ミックスの完成度が高まっていたりする。皆が自分のペースでいつでも制作できるようになったから、曲作りがさらに楽しくなってきたなって思います。

 

インタビュー前編では、 ときには曲を完結させることもあるというGarageBandでのデモ作りや、プラベート・スタジオ「Haruyoshi」でのセッションの様子に迫ります。

Release

『遙かいま』
yonawo
(ワーナーミュージック・ジャパン)

Musician:荒谷翔大(vo、k)、田中慧(b)、斉藤雄哉(g)、野元喬文(ds)
Producer:亀田誠治、冨田恵一
Engineer:岩谷啓士郎、牧野英司、冨田恵一
Studio:KVA Recording、サウンドクルー、アトリエ第Q藝術、ST-ROBO、Haruyoshi

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