エンジニア工藤雅史インタビュー ~ミッキー吉野『Keep On Kickin' It』のレコーディング&ミックスを語る

ミッキー吉野『Keep On Kickin' It』のレコーディングやミックスに使用された神奈川県横浜市に位置するランドマークスタジオ

『Keep On Kickin' It』のレコーディングやミックスに使用された神奈川県横浜市に位置するランドマークスタジオ。コンソールはSSL SL4072G+を採用している

ミッキー吉野の代表曲を亀田誠治プロデュースで新たに彩ったアルバム『Keep On Kickin' It』。ここでは、レコーディングやミックスを手掛けた工藤雅史氏に対談で語られたエピソードを深堀りしつつ、制作の手法やミッキー吉野とのエピソードを語ってもらった。

Text:Kanako Iida Photo:Takashi Yashima

工藤雅史【Profile】studio Jiveを経て、フリーのレコーディング・エンジニアに。平井堅、GLAY、JUJU、back number、Little Glee Monster、秦基博、Creepy Nutsなどの作品に携わる。

1曲ずつ違う曲調だったのであえて統一感を持たないようにしました

亀田さんより、ブラスバンドで「銀河鉄道999」を演奏されていたというエピソードも出ましたが、今回、どのようなサウンドを目指そうと考えて取り組まれたのでしょうか?

工藤 私は中学、高校の6年間吹奏楽でドラムやティンパニーを担当しており、クラシックからマーチング、またはビッグバンド・ジャズやポップスなどを幅広く演奏しておりました。その中でゴダイゴ「銀河鉄道999」「ビューティフル・ネーム」「ガンダーラ」などは何度も演目に入り、特に「銀河鉄道999」は演奏会で何度も演奏した記憶があります。そのときにライドのカップ奏法を覚え、特に転調という言葉を初めて知りました。そんなこともあり、昨年の頭に亀田さんから電話が来まして“ミッキー吉野さんのアルバムを作るのでエンジニアをお願いしたい”とおっしゃっていただき、“もちろんぜひお願いします”と即答しました。なのでそのときは特に目指したサウンドということも考えておりませんでした。

 

ミッキー吉野さんが演奏される鍵盤のサウンドを際立たせるために行われた処理などはありましたか?

工藤 特に特別なものは使っていません。ただし、ある曲でピアノの音色を変えたいことがあり、プラグインなどで変えるのではなく、元の音色を変えた方が近道かと思い、亀田さんに相談して変えてもらいました。

 

「銀色のグラス feat. Char」では、原曲の質感と今の時代に響かせるためのバランスをどのように調整したのでしょうか?

工藤 亀田さんと相談し、ザ・ゴールデン・カップスの曲なので、ゆかりのある横浜の、ランドマークスタジオでレコーディングしました。Charさんのギターは何もせずにあの音ですし、金子ノブアキさんはランドマークに合ったドラムのチューニングをしてくれました。ハマ・オカモトさんのベースも極上の音がアンプから出ていたので単純に録音しただけです。機材はSSL SL4072G+やNEVE 1073を使い、ドラムのコンプはキックやタムは少しリリースを遅め、スネアはレコーディング時にパラレル・コンプも録音し少しリリースを速めにしました。アンビエンスはあまりコンプで潰さずBRAINWORX Black Box Analog Design HG-2のひずみを少し足しています。金子さんとは二十数年前、彼が高校生のときに一度レコーディングしていたり、ハマさんとはOKAMOTO’Sの1stアルバムに参加したりという経緯もあり、縁をとても感じます。

 

亀田さんから“工藤さんの判断でリズムを足した部分がある”とお話がありましたが、『Keep On Kickin’ It』のレコーディングやミックスで特にこだわった音作りはありますか?

工藤 亀田さんが言っていたリズムに関して、「君は薔薇より美しい」は、NATIVE INSTRUMENTS KontaktとBattery 4、AIR Xpand!2を使い、亀田さんがアレンジしたリズムを再構築して作りました。また「歓びの歌 feat.Mummy-D」はもともと打ち込まれたドラムに対してスネアが足りない部分に、TOONTRACK Superior Drummer 3のライブラリー、The Rooms Of Hansaのスネアを足しています。あとは内緒でSPITFIRE AUDIOのストリングスを追加した曲もあります(笑)。アルバム的には1曲ずつ違う曲調だったのであえて統一感を持たないようにしました。ミックス的には生楽器やボーカルに関してはアナログ卓で処理をして、インサートにGML 8900、UREI 1176、1178、LA-3A、EMPIRICAL LABS Distressor EL8、API 560、MAAG AUDIO EQ4などを通し再度AVID Pro Toolsに録音しています。プラグインはWAVES、PLUGIN ALLIANCE、SONNOX、FABFILTER、AVID Revibe、VALHALLA DSPなどでトラックに合ったものを選びました。

 

『Keep On Kickin’ It』の仕上がりについて、どのような作品になったと感じますか?

工藤 最終的にはいろいろなアーティストの方々が参加してくださったのでとてもカラフルなアルバムになったと思います。またコロナ禍ということもあり、実際にミッキー吉野さんとお会いできたのが「銀色のグラス」のリズムとコーラス・レコーデイングの2回だけになり、ミックス・チェックもデータでのやり取りになりました。リクエストはほとんど無かったのですが、会話の中から、ミッキー吉野さんは曲全体の流れを大事に聴いてくださっている印象を受けました。またとても細かい部分を指摘されて来ることもあり、逆に細部まで聴いてくださっていることがとてもうれしかったです。制作時のエピソードとしては、一度ミッキー吉野さんのオルガンのデータに少しだけ不備があり、データの追加をお願いしましたら、15分後くらいにAPPLE Logicで作られたデータが送られてきてビックリ!! 私はそんな古希の方を知りません。リスペクトです。

 

ミッキー吉野 × 亀田誠治インタビューはこちらから:

【前編】『Keep On Kickin' It』で見せたミッキー吉野のアレンジ術

【後編】戦友タケカワユキヒデとの「ガンダーラ」制作背景&グルーブの極意

Release

『Keep On Kickin' It』
Kisshouten:KOKI-1213
2月2日発売(各配信サービスにて配信中)

Musician:ミッキー吉野(k)、亀田誠治(b)、JUJU(vo) 、SHOKICHI(vo)、Campanella(Rap)、MIYAVI(vo、g)、Char(vo、g)、エディ藩(cho)、タケカワユキヒデ(vo)、Mummy-D(rap)、サッシャ(vo)、岡村靖幸(vo)、佐橋佳幸(g)、石成正人(g)、小倉博和(g)、ハマ・オカモト(b)、高水健司(b)、河村カースケ智康(ds)、金子ノブアキ(ds)、山木秀夫(ds)、斎藤有太(p)、皆川真人(syn)、西村浩二(tp)、 山本拓夫(sax)、村田陽一(trombone)、金原千恵子ストリングス(strings)、STUTS(MPC、prog)、豊田泰孝(prog、manipulator)、Lenny Skolnik(prog)
Producer:亀田誠治
Engineer:工藤雅史、太田敦志、米田浩徳、Rey "Reynolds” Maeda
Studio:Landmark、Sony Music Studios tokyo、prime sound studio form、freedom studio infinity、Tokyo School of Music Shibuya、HeartBeat Recording、Nasoundra Palace

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