小型アナログ・ミキサーSSL Sixの上位機種Big Sixが発売された。SSLのスタジオ・コンソールのノウハウがコンパクトな形で自宅に持ち込めるとあって、Sixは好評とのこと。Big Sixは、入力数が増えただけでなくEQやコンプなども進化を遂げ、さらにUSBオーディオI/O機能も内蔵。一体化したことによるメリットはどんなものなのだろうか。
最大18chをアナログ入力可能。チャンネルEQが増設され3バンドに
Big Sixは、サイズが489.4(W)×141.2(H)×390.2(D)mmで、コンパクトなSixと比べるとぐっと本格的に見える。19インチ・ラックに9Uとしてマウントも可能だ。上面に傾斜があるので椅子に座った状態でも操作しやすく、フロント側からはケーブル類が見えにくいのでスッキリした印象を受ける。この構造はラック・マウント後には背面端子が斜めになるので好都合。今回D-Subが省かれすべてがTRSフォーン端子で並んでいるため、接続を変更するのも非常にスムーズだ。冷却ファンは無いのでとても静音。半日電源を入れっぱなしでもさほど熱を持っていないようだ。
100mmのチャンネル・フェーダーは、ch1〜4がモノラルのマイク/ライン入力、ch5/6〜11/12がステレオ・ライン入力と、Sixの倍の8本を装備。これにエクスターナル・インのステレオ2系統を足して基本は計16chである。ほかにマスター・フェーダーに加算できるカスケード用のステレオ・インプットもあるので、最大18chの入力も可能だ。
ここでは主にSixには無い機能を挙げていこう。まず左4つのモノ入力では位相反転スイッチを装備してドラム録音にも対応しやすくなった。例えばch1〜4にキック、スネア、スネア裏(位相反転)、ハイハットの4つのマイクを立ち上げる。ch5/6〜11/12のステレオ・フェーダーはモノラルとしても利用できるので外部マイクプリからトップL/R、残りはMONOスイッチを押してタム3つをつなぐと本格的なドラム録音ができる。
チャンネルEQには3バンド目のMFが加わった。このMFは700Hzを中心とした緩やかなベル・カーブだ。SixシリーズのEQは大まかなトーン・コントロールではあるが、+1dBといったほんのわずかな味付けでもとても効果的なので積極的に利用したい。そのほか歌にもピッタリのとてもナチュラルなチャンネル・コンプ、バランス接続でつなげるユニティ・ゲインのインサート端子、2系統の柔軟なステレオCUEセンドといった便利な機能はSixと同じだ。
オーディオI/Oは16イン/16アウト。SSLらしい奥行き豊かで安定したサウンド
Big Sixでの最大の進化はUSBオーディオI/O機能を内蔵したことだろう。USB 2.0接続で16イン/16アウト、24ビット/96kHzに対応。Mac環境ではドライバーをインストールすることなく、USB接続だけで使用可能だ。
まずiTunes上のリファレンス音源でチェック。ドライバーは24ビットを選択した。チャンネルごとに装備するFROM USBスイッチを押すだけで、任意のフェーダーにUSBからの入力を立ち上げられる。USB 13/14、15/16からの信号も、モニター・セクションの最上部にあるスイッチでEXT 1、EXT 2入力として切り替えが可能。試しに曲の再生中にUSBケーブルを抜き差ししてみたが、すっと音が消えるだけでノイズも出なかった。アナログ卓なので、モニター系がデジタル同期からフリーであるというメリットが大きいと感じた。
独立2系統のヘッドフォン端子はワイド・レンジでしっかりした低音を聴かせ、300Ωはもちろん470Ωでも全く変わらずドライブ可能。AD/DAのダイナミック・レンジは117dBであり、SSLのPA用大型デジタル・コンソールと同じクオリティのものを搭載しているとのこと。作業中にフェーダー位置やヘッドフォン・ボリュームがかなりラフな状況でも、適正位置で再生されるサウンドとさほど変わらずとても使いやすい。
次にパワード・スピーカーを鳴らすと、低域多めのモニターでも非常に聴きやすい。リバーブのテイル・エンドもしっかりと聴き取れるほど奥行き豊かで安定し、さすがSSLと言えるサウンドだ。
作業を重ねても劣化の少ない高音質。16chサミング・ミキサーとしても活躍
USB録音側を見ていくと、デフォルトではch1〜12までフェーダー前の信号が順にDAWへ常時送られている。BUS BアウトがUSB 13/14、メイン・アウトが15/16に固定。AD/DAは0dBFS=+24dBuに調整されており、チャンネルごとに装備した8セグメントLEDがそのままDAWへの録音レベルとなる。このレベル・メーターは非常に反応が良く、しっかりと楽器のピークを把握できる。またUSB OUT POST FADERというスイッチを押すとフェーダー後の信号を録音できる。ダイナミック/コンデンサー・マイクのどちらをつないでも適度な明るさとしっかりとした中低域を持っており、細い感じはしない。マイク入力のインピーダンスは1.2kΩであり、ドラム録音まで期待できる特性となっている。
次にパッシブ・ピックアップのエレキギターをHi-Z入力につないでみると、すぐにギターらしいサウンドが得られる。CUE 2送りに外部エフェクターをつなぎステレオ・チャンネルに立ち上げれば、そのままUSB経由でDAWに録音できるのが快適だ。また一度録音したエレキギターのトラックを再度同じフェーダーに立ち上げれば、それまで使っていたエフェクトが全く同じ量で再現されるのがとても便利。さらに2度目の録音でも1度目とそん色無い音質なのには驚いた。EQ、コンプ、CUE送りのすべてにオン/オフ・スイッチを装備しているので、無駄な回路を通さないこだわりの高音質に納得した。
そのほか、トークバック部分に装備しているLMCスイッチは、古いSSL卓に付いていたワイルドなサウンドのリッスン・マイク・コンプを再現したもの。スイッチを押すだけでしっかりと会話レベルが上がるので重宝するスイッチだ。
ではここから、インプットをすべてUSB経由に切り替え16chサミング・ミキサーとして使ってみよう。作業済みの曲を使ってキック、スネア、ベース、ボーカルをモノ・チャンネルに、ほかのドラム類、キーボード、ギター、コーラスをステレオ・チャンネルに、さらにEXT 1/2には残りのシンセ類やリバーブ成分をアサインして最終ミックスしてみた。トータルにはSSL Gシリーズ譲りのGバス・コンプをオンにした。Sixには無かったAUTO RELEASEスイッチが追加され、デフォルトでは100msのリリース・タイムを、自動可変に切り替えられる。最終ミックスはマスター・フェーダー後に固定されているUSBセンドの15/16からDAWへ録音。この際、ステレオ・チャンネルにEQが付いているのが非常に有効だと感じた。ハイを少し上げるだけでギター類がうまくハマったからだ。
また、このGバス・コンプをパラレル・コンプとして使用も可能。ドラムだけにGバス・コンプをかけてみたところ、ドラムにはリリース100msがピッタリだ。SSLのサミング・ミキサーSigmaとX-Deskが生産完了しており、イン・ザ・ボックス・サミングのニーズも視野に入れた仕様であると言える。
音楽制作の中でも特に音作りに関しては手探りの部分が多く、いつもの音を頼りにしながら作業を進めたくなるもの。そういう意味でこんなに小さくなってもやはりSSLだった。モニター部のサウンドだけでも検討すべき価値があると思われるので、Sixの方も含めてぜひチェックしてみていただきたい。
原口宏
【Profile】ムーンライダーズ、細野晴臣、忌野清志郎などを手掛けてきたフリーランス・エンジニア。最近作はムーンライダーズ『LIVE 2020 NAKANO SUNPLAZA』、細野晴臣『あめりか』など。
SOLID STATE LOGIC Big Six
オープン・プライス
(市場予想価格:401,500円前後)
SPECIFICATIONS
▪モノラル・チャンネル数:4 ▪ステレオ・チャンネル数:4+エクスターナル・インL/R×2、メイン・チャンネルへのサミング用インプットL/R ▪USBオーディオI/O:最高24ビット/96kHz、最大16イン/16アウト ▪入力インピーダンス:1.2kΩ(マイク)、10kΩ(ライン/モノラル、ステレオ共通)、1MΩ(Hi-Z) ▪チャンネルEQ:3バンド ▪チャンネル・コンプ:アタック(5ms)、リリース(300ms)、レシオ(2:1)、スレッショルド(+10〜−20dB) ▪バス・コンプ:アタック(30ms)、リリース(100msと自動可変の切り替え可能)、レシオ(4:1)、スレッショルド(−20〜+20dB) ▪メイン出力ノイズ:−90dBu以下(1つのモノ・チャンネルに入力した状態)、−82.5 dBu以下(全チャンネルに入力した状態) ▪AD/DAダイナミック・レンジ:117dB ▪付属品:USB Type C to Type Aケーブル、Type C to Type Aケーブル、電源ケーブル ▪外形寸法:489.4(W)×141.2(H)×390.2(D)mm ▪重量:6.8kg
REQUIREMENTS
▪Mac:OS X 10.11以上
▪Windows:Windows 8.1、Windows 10。SSL提供のUSBオーディオ(ASIO/WDM)ドライバーで動作
※2/2現在、macOS 12.1、Windows 11には非対応。更新情報についてはメーカーのWebサイトまで