こんにちは、DJ/トラック・メイカーのKO3です。僕が使用するIMAGE-LINE FL Studioは、付属のプラグイン・エフェクトやソフト音源がとても豊富で、FL Studio 20 Producerエディションに、別途パッケージ販売されているプラグインをバンドルしたFL Studio 20 All Plugins Bundle(120,000円)には、ソフト音源が35個も同梱されています。今回は自分がお薦めするソフト音源を幾つかピックアップして、それらの特色や自分なりの使い方を解説していきましょう。
ソフト・シンセのHarmorでは画像データからのサウンド生成も可能
最初に紹介するのは、最新版FL Studio 20.5で追加されたソフト・シンセのFlex。一番愛用しているのはこれかもしれません。Flexはプリセットを基本として音作りするタイプのシンセで、出音がとても良く、トラック制作のスピード・アップにもなります。いちから音を作ることはできませんが、各プリセットに応じてマクロ・コントロールが組まれていたり、フィルターやエンベロープも設定できたりと、エディット面での自由度もあります。
使い方は、画面左端にあるプリセット・ブラウザの“INSTALLED PACKS”から好きなものを選択し、その中からプリセットを決定するというもの。タグ検索やテキスト検索も可能なので、目的の音に素早くアクセスすることが可能です。
画面右上にあるMACROSセクションでは、プリセットによって最大8つのマクロ・コントロールが組まれ、各フェーダーを上げ下げすることで、それぞれの音質変化を楽しむことができます。なお、プリセット・ブラウザから選択できるプリセット・パックはWebストアから追加購入でき、今後さらに増えていくことでしょう。ちなみに自分がよく使うプリセット・パックはSH-1 Floor Shakersです。
2番目に紹介するのはFL Studioを代表するソフト・シンセ、と言っても過言ではないSytrus。FMシンセと呼ばれる方式で難解そうに見えますが、音はとてもクリアで、操作方法を理解すれば即戦力になり得ます。
自分はディープ・ハウスなどの楽曲のシンセ・ベースに用いることが多いです。Sytrusを立ち上げるとデフォルトでアサインされているスーパー・ソウの音もかなり好みで、特に細かいエディットはせず、そのまま曲に使うこともあります。
次はアナログ・スタイルの減算方式と加算方式のシンセシス・エンジンを搭載するソフト・シンセのHarmor。こちらはFL Studio 20 All Plugins Editionに含まれていますが、単体プラグインとして購入することも可能です。Harmorの画面にはパラメーターがたくさん搭載されているため、作れるサウンドの幅はかなり広いです。また、ビギナーにとってうれしいプリセットも豊富に用意されています。
Harmorではシンプルな波形を土台に細かいシンセサイズが行えるほか、ユニークな機能として画像データからサウンドを生成することも可能。自分はこの機能で行き当たりばったりな音色を作り、トラックに組み込むことが多いです。画面右側の中段辺りにあるIMGタブをクリックし、画面中央の下段に現れる“image section”に好きな画像データをドラッグ&ドロップすることで画像が読み込まれます。それからTIMEノブで音色を変化させて好みのスポットを探し、FXタブに搭載されたディストーション/コーラス/ディレイ/リバーブ/コンプなどで加工するとよいでしょう。何よりHarmorは、音抜けが非常に良いソフト・シンセなのでお薦めです。
Transistor Bassもお気に入りです。ROLANDのTB-303というベース・サウンドに特化したシンセをシミュレートしたソフト・シンセで、いわゆる“アシッド・サウンド”を鳴らすことができます。ピアノロール画面を開くと96種類ものシーケンス・パターンが設定されており、MIDIノートを打ち込むとキーに対応したパターンが演奏されます。また、画面右下部分に見える▲をクリックすると、詳細画面でのシーケンス・パターンのエディットも可能です。画面左下に見えるSEQUENCERのランプをオフにすると通常のソフト・シンセと同様に好きなメロディを打ち込むことができるようになるので、シンセ・ベースではなくシンセ・リードとしてメロディを演奏させたりするのも面白いでしょう。
キック専用音源のBassDrumでアタック成分だけを作り出す方法
FL Studioには、ドラムの音作りに特化したソフト音源も幾つか付属しています。自分はその中でもキックに特化したソフト・シンセ、BassDrumを使うことが多いです。基本的にドラム類はサンプルを使うのですが、しっくりくるキックが見つからないときは、BassDrumでアタック成分だけを作り、サンプルの低域成分と混ぜて音色を調整します。
BassDrumでアタック成分だけを作りだす具体的な方法ですが、まず画面左上にあるDURATIONを10%程度まで下げて、DRIVEを70〜80%付近に設定します。そして画面右上にあるSAMPLING RATIOを0.25〜4.00の範囲で調整するのですが、値を上げるとパンチ感が増し、下げると重たい質感にすることができます。ここはお好みで変更しましょう。
仕上げとして、別で立ち上げたEQプラグインで250Hz以下をカットし、低域成分を担うキックのサンプルをレイヤーします。なおこちらのサンプルは、EQで500Hz〜1kHz以上の帯域をカット。2つの音をバスでまとめ、コンプやサチュレーションで質感を合わせれば完成です。
そのほか、変わり種のソフト・シンセAutogunも紹介しましょう。完全にプリセットを読み込むタイプのシンセなのですが、なんとその数4,294,967,296個もあります! しかもすべてにきちんとした名前が付けられているため、どのようにして作成したのか不思議です。気に入った音色が見つかるまで、いろいろと試してみてください。
最後は物理モデリング方式のソフト・シンセ、Sakura。物理モデリングとは楽器の構造そのものをコンピューター上でシミュレートし、発音/共鳴を再現して音を出すシステムのこと。Sakuraはその名の通り“和の雰囲気”を持つ音色が得意で、ヒップホップ・ビートとの相性は抜群です。ほかにもFL Studioにはたくさんのソフト・シンセがあるので、ぜひ探してみてください。次回でKO3の連載は最後です。それでは!
KO3
【Profile】東京を拠点に活動するトラック・メイカー/DJ。ポップなハウスから高速なレイブ・ミュージックなど幅広いジャンルを手掛け、トレンドを取り入れた最先端なトラック・メイクを得意としている。KONAMIの『beatmania IIDX』やTAITOの『GROOVE COASTER』といった音楽ゲームへの楽曲提供をはじめ、2017年にはアメリカLAで開催された大型コンベンション『Anime Expo』でのDJ出演など、国内外でのライブ活動も積極的に行っている。
【Recent work】
『Not Alone feat. MYLK』
KO3
IMAGE-LINE FL Studio
LINE UP
FL Studio 20 Fruity:17,600円|FL Studio 20 Producer:28,600円|FL Studio 20 Signature:37,400円
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.13.6以降、INTELプロセッサーもしくはAPPLE Silicon M1をサポート
▪Windows:Windows 10以降(64ビット)INTELもしくはAMDプロセッサー
▪共通:4GB以上の空きディスク容量、4GB以上のRAM、XGA以上の解像度のディスプレイ