ZOOM VRH-8 レビュー:H8やQ8N-4KでAmbisonics方式の収音を可能にするVRマイク

ZOOM VRH-8 レビュー:H8やQ8N-4KでAmbisonics方式の収音を可能にするVRマイク

 フィールド・レコーディストのmidunoと申します。普段は野山に分け入り自然音や環境音を録りつつフィールド録音作品を制作しています。私自身、これまでにZOOMユーザーとしてH4、H2N、H3-VR、F6などのレコーダーを使ってきました。今回は、ハンディ・レコーダーH8とハンディ・ビデオ・レコーダーQ8N-4Kに取り付けて使えるというAmbisonicsマイク、VRH-8をレビューします。

加速度センサーを搭載しマイク・ポジションを記録

 まずAmbisonicsマイクとは、4方向にマイク・カプセルを配置し、360度方向の音を収録できる構成(1次Ambisonics)のマイク。Ambisonicsフォーマット(ambiX、FuMa、A-Format)で収録した音源はZOOMが無償で提供している変換ソフト、ZOOM Ambisonics Playerを使うことにより、ノーマル・ステレオ、バイノーラル・ステレオ、5.1chサラウンド音声への変換が可能です。

 さて、VRH-8です。見た目は同社のVRレコーダー、H3-VRと瓜二つ。手にしたときの質感や重量感もほぼ同じですが、バッテリーが無い分軽く感じられます。H3-VRとの共通点として、VRH-8にも加速度センサーを搭載しているところ。この機能が無い場合、収録時にマイク・ポジションをメモしておかないと編集時に向きが分からなくて困る、というようなトラブルが起きてしまいます。その点を回避できるのは良いですね。

 H3-VRと異なる点としては、VRH-8にはH3-VRにあったような操作ボタン類が無く、マイク・ゲインを調整するトリムのみが付いています。マイク・ゲインの調整方法はH8がそうであるように、VRH-8でも物理ゲイン・トリムを操作して行う形です。H8のリモート操作を行うiOSアプリ、H8 Controlも録音するトラックのオン/オフ、録音のスタート/ストップができるのみという割り切り方(個人的にはこれくらいの方が使いやすいです)。H8に手が届く範囲でないとゲイン調整ができない点はちょっと慣れが必要かもしれないので、コツをつかめるまで音量レベルは低めにしておくのがよいでしょう。

豊かな広がり感と低域を持つアンビエンス収録向きの音質

 では実際にフィールド録音の現場で使ってみましょう。収録テストを行った4月下旬は季節外れの雨続きでしたので、横浜市内の自然公園で雨音を録ってみました。もちろんレコーダーやマイクは湿気を嫌いますので、直接雨が当たらないように注意を払います。今回はH8を使用し、リファレンスとして私が所有している他社の単体Ambisonicsマイクと聴き比べながら音の傾向を探ってみたいと思います。

自然公園で雨音を収録した録音時の様子。スタンドにH8を取り付け、VRH-8には風の音などのノイズを防ぐためにウインド・ジャマーを被せて使用した

自然公園で雨音を収録した録音時の様子。スタンドにH8を取り付け、VRH-8には風の音などのノイズを防ぐためにウインド・ジャマーを被せて使用した

 VRH-8の音質は、形だけでなく音の印象もH3-VRにそっくりですね。広がり感、低域の量感は他社Ambisonicsマイクよりも豊かに聴こえます。一方、高域の抜けと粒立ちの細かさはそこまで突出していませんが、VRH-8が比較的入手しやすい価格帯であることを考えたら大健闘でしょう。

 雨は周波数レンジ、ダイナミック・レンジとも非常に広いソースのため音色に差が出ましたが、収録する対象によっては差が出にくいものもあります。VRH-8の傾向としては、一つの音にグッとフォーカスを絞って収録するというよりは、周辺のフワッとしたアンビエンスを収録するという用途に特に向いているように感じられました。

 その特性を生かしたさらに踏み込んだ使い方は、音像の芯を狙ったメイン・マイクを追加することです。メイン・マイクだけではどうしても前後上下の空間情報が不足しがちになりますが、VRH-8で拾った音をミックスすることで自然なアンビエンスを獲得。お互いの定位を邪魔せず、メイン・マイクの音像を包み込むようにアンビエンスの音像が加わるので、一体感のあるまとまりの良いサウンドが得られます。VRH-8を接続した状態でも、H8には6系統のマイク/ライン入力があり、複合的な活用でさまざまな場面での活躍が期待できそうです。

VRH-8をハンディ・レコーダーH8に接続した状態。H8に標準装備のXYステレオ・マイク、XYH-6から付け替えることで、Ambisonics方式での収音が可能となる

VRH-8をハンディ・レコーダーH8に接続した状態。H8に標準装備のXYステレオ・マイク、XYH-6から付け替えることで、Ambisonics方式での収音が可能となる

 フィールド録音以外でのお勧めは、ライブのPAアウト(H8本体でライン録音)とアンビエンス(VRH-8で録音)のミックス。よりライブ感のある音を収録できそうです。1台ではチャンネル数が足りず、2台のレコーダーを使ったために後で同期するのに苦労した覚えがある身としては、H8一台でそれができてしまうのは隔世の感さえあります。

 私が所有している他社のAmbisonicsマイクは専用ケーブルを含めると総重量が1kg以上あり、レコーダーまで含めるとそこそこの重量となります。また、特に急いでいるときなどはケーブルをつなぐ手間がもどかしいことも多く、こういったわずらわしさが無いところも良いですね。

 VRH-8は、マルチチャンネル・レコーダーとの一体化で、通常のステレオ録音に簡単にアンビエンスを加えることが可能になりました。今までの録音にリアリティ不足を感じている方、立体感をプラスしたい方には特にお勧めです。ハンディ・ビデオ・レコーダーQ8N-4Kとも接続でき、そちらも面白そうですね。ZOOMさん、次はぜひVRカメラもお願いします!

 

miduno
【Profile】 レコーディング・エンジニアの赤川新一氏に師事。現在は、自然音や環境音のフィールド録音で活躍する。自身のレーベルUZrecordsでの配信のほか、アルバム『sound-scape』シリーズを発表。

 

ZOOM VRH-8

オープン・プライス

(市場予想価格:20,000円前後)

ZOOM VRH-8

SPECIFICATIONS
▪Ambisonicマイク:単一指向性コンデンサー・マイク×4 ▪外形寸法:75(W)×126(H)×134(D)mm ▪重量:120g

製品情報

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