「Not Alone」のFL Studioプロジェクトで解説! 楽曲を盛り上げるアレンジ・テクニック|解説:KO3

「Not Alone」のFL Studioプロジェクトで解説! 楽曲を盛り上げるアレンジ・テクニック|解説:KO3

 こんにちは。DJ/トラック・メイカーのKO3です。主にダンス・ミュージックの制作をしています。IMAGE-LINE FL Studioの魅力は独創的かつ効率的に楽曲制作を楽しめる操作性の高さ。今回は僕が制作した「Not Alone」という楽曲のプロジェクト・ファイルを用いて、便利なテクニックや役立ちTipsを紹介していきます。

リバーブのMix levelを操作して動きのある派手なドロップに

 曲の最初に聴こえてくるボーカルのリバース・サウンドはFruity Reeverb 2とEdisonを使って作成しました。まずボーカルの初めの発音をPlaylist画面左上のSliceツールを使って切り出します(パソコンのキーボードのCを押すことでも選択可能)。切り出したサンプルにFruity Reeverb 2をインサートし、DRYを0%、WETを100%、DEC(ディケイ)をほんの少し上げましょう。

 次にEdisonをFruity Reeverb 2の下段にインサートします。Edison上部のRecordボタンをクリックし、プロジェクトを再生するとEdisonをインサートしているトラックの音が録音されるので、リバーブの残響が無くなるところでRecordボタンをもう一度クリック。Edison右上のDrag/Copy/Selectionボタンをドラッグ&ドロップするとそのままPlaylistに張り付けることができます。張り付けたサンプルをダブル・クリックし、リバースとフェードイン処理をすればサウンドの完成です。もちろんボーカル以外でも作ることができるので、さまざまなシチュエーションで試してみましょう。

 Fruity Reeverb 2を使ったテクニックはドロップ部分でも出てきます。ドロップで使ったシンセは最終的にバスなどですべてまとめているので、そのMixer TrackにFruity Reeverb 2をインサート。先ほどと同様にDRY0%とWET100%で、今回は少しローカットもしておきます。Fruity Reeverb 2のMix levelノブを右クリックし、create automation clipでオートメーションのトラックを作成。キックが鳴っていないところから徐々にMix level(=リバーブ量)が上がるようにカーブを描きます。Mix levelノブはMixer Trackのエフェクト・スロット部分にあります。このリバーブが入ることでよりグルービーで派手なドロップに仕上げることが可能です。

リバーブに動きを付けることでグルービーさを出した。シンセをまとめたバスにFruity Reeverb 2をインサートし、Mixer Trackのエフェクト・スロットにあるMix levelをオートメーションでコントロールする。画面一番下のオートメーション・クリップがFruity Reeverb 2のMix levelで、キックが鳴っていない部分でリバーブがかかるようになっている

リバーブに動きを付けることでグルービーさを出した。シンセをまとめたバスにFruity Reeverb 2をインサートし、Mixer Trackのエフェクト・スロットにあるMix levelをオートメーションでコントロールする。画面一番下のオートメーション・クリップがFruity Reeverb 2のMix levelで、キックが鳴っていない部分でリバーブがかかるようになっている

 ドロップのシンセは、ソフト・シンセで作った音とサンプルをレイヤーして組み立てています。サンプルをChannel rackにドラッグ&ドロップすると自動的にChannel Samplerに読み込まれてピアノロールに打ち込むことができるのですが、サンプルのピッチがC(ド)ではない場合、打ち込んだ際の音高がずれてしまいます。その場合はChannel Sampler画面上部にあるタブを中央または一番右へ切り替え、下部の鍵盤を右クリックしてサンプルのルート音を変更しましょう。例えばサンプルのピッチがF(ファ)の場合はFの鍵盤を右クリックする、というような感じです。同時にエンベロープも設定しましょう。中央のタブへ切り替え、Envelopeボタンを点灯させてのようにパラメーターを設定すると、ワンショットのサンプルでも違和感無く滑らかに演奏できます。

ソフト・シンセとレイヤーしたサンプルのChannel Sampler画面。サンプルはピッチがFなので、画面下の鍵盤でルート音をF5に設定した。Envelopeを画面のようにすると、ワンショットでもスムーズに再生してくれる

ソフト・シンセとレイヤーしたサンプルのChannel Sampler画面。サンプルはピッチがFなので、画面下の鍵盤でルート音をF5に設定した。Envelopeを画面のようにすると、ワンショットでもスムーズに再生してくれる

Fruity Granulizerとリバーブで幻想的なサウンドを演出

 ブレイクではFruity Granulizerを使い、アトモスフィアと呼ばれる幻想的なサウンドを作って空間を埋めています。まずはFruity Granulizerへ適当なサンプルをドラッグ&ドロップ。アトモスフィアを作る場合は、ワンショットではなくアルペジオやボーカルなどのループ素材が適しています。GRAINSセクションのGR.SPACINGノブを左に振り切り、EFFECTSセクションのPANとRANDを100%、TIMEセクションのLOOPを点灯させてピアノロールに音価の長いノートを打ち込みます。最後にリバーブを深くかければアトモスフィア・サウンドの完成です。リバーブはFruity ConvolverのBlur Whiteというプリセットをよく使っています。

ブレイクでの幻想的なパッド=アトモスフィア・サウンドはグラニュラー・サンプラーのFruity Granulizerで作っている(画面左上)。さらにリバーブとしてFruity Convolverを使った(同左下)

ブレイクでの幻想的なパッド=アトモスフィア・サウンドはグラニュラー・サンプラーのFruity Granulizerで作っている(画面左上)。さらにリバーブとしてFruity Convolverを使った(同左下)

 EDMには欠かせないビルドアップ。さまざまなパラメーターのオートメーションを描くと思いますが、全く同じカーブでオートメーションを描きたい場合はコピー&ペーストが便利です。コピーしたいオートメーション・クリップの左上のアイコンをクリックし、Articulator tools→Copy stateでコピー、張り付けたいクリップで同じく左上のアイコンからPaste stateを選択すればどんな複雑なカーブでも複製できます。

ビルドアップなどで同じオートメーション・カーブを使いたい場合は、オートメーション・クリップの左上のアイコンのメニューからコピー&ペーストが行える

ビルドアップなどで同じオートメーション・カーブを使いたい場合は、オートメーション・クリップの左上のアイコンのメニューからコピー&ペーストが行える

 ドロップ前のフィル部分ではボーカルにテープ・ストップのエフェクトをかけていますが、こちらもFL Studioに内蔵されているエフェクトで作成できます。ボーカルのMixer TrackにGross Beatをインサートし、PresetsからMomentaryを読み込みます。左側にずらっと並んでいるスロットでVinyl Offを選択し、右側のカーブをのように設定します。このままだと4小節ごとにエフェクトがかかるようになってしまうので、Mix levelのオートメーションでオン/バイパスをコントロールしましょう。Gross Beatには面白い効果が得られるプリセットがたくさんあるので、いろいろ試してみてください。

ドロップ直前のボーカルにはテープ・ストップのエフェクトがかかっているが、これはFL Studio付属のGross Beatによるもの。プリセットのMomentaryを読み込み、左のリストからVinyl Offを選択。画面右側のようにカーブを描けばテープ・ストップの効果が得られる。このままでは4小節ごとにエフェクトがかかってしまうため、Mix levelのオートメーションでコントロールしよう

ドロップ直前のボーカルにはテープ・ストップのエフェクトがかかっているが、これはFL Studio付属のGross Beatによるもの。プリセットのMomentaryを読み込み、左のリストからVinyl Offを選択。画面右側のようにカーブを描けばテープ・ストップの効果が得られる。このままでは4小節ごとにエフェクトがかかってしまうため、Mix levelのオートメーションでコントロールしよう

 多くのサンプルやシンセを読み込ませるとChannel rackがごちゃごちゃしてしまいがちです。Channel rack画面左上の▶アイコン(Channel options)のメニューにあるSort byで、各チャンネルをColor/Name/Track numberで並べ替えることが可能です。チャンネルを選択してAlt(Macはoption)+矢印キー上下で移動することもできます。また、Channel optionsのColor selected→Gradient…ではチャンネルの色をグラデーションにすることも可能。FirstとLastの色を指定して好みの色に変更できるので、一瞬で“映える”プロジェクト画面になります。最近はSNSなどで作業風景を公開する方が多いので、目を引く一手として使えると思います。並べ替えはMixer Trackでも可能です。移動させたいトラックを選択し、Alt(Macはoption)+矢印キー左右でインサートしているエフェクトはそのままに、トラックの並びだけを変えることができます。

Channel rackのカラーは任意の色に変えることが可能だ。Channel optionsのColor selected→Gradient…では、Channel rackのカラーをグラデーションにできる。プロジェクト画面の見栄えを良くするのに効果的だ

Channel rackのカラーは任意の色に変えることが可能だ。Channel optionsのColor selected→Gradient…では、Channel rackのカラーをグラデーションにできる。プロジェクト画面の見栄えを良くするのに効果的だ

 今回は僕がFL Studioでよく使うテクニックと便利機能を紹介しました。FL Studioは結構な頻度でアップデートされていて、“これが欲しかった!”と思える機能が多く追加されてきている印象です。しかも一度買ってしまえば以降のアップデートはすべて無償。すごいことです。次回はFL Studioに付属する豊富なシンセについて紹介したいと思います。それでは!

 

KO3

【Profile】東京を拠点に活動するトラック・メイカー/DJ。ポップなハウスから高速なレイブ・ミュージックなど幅広いジャンルを手掛け、トレンドを取り入れた最先端なトラック・メイクを得意としている。KONAMIの『beatmania IIDX』やTAITOの『GROOVE COASTER』といった音楽ゲームへの楽曲提供をはじめ、2017年にはアメリカLAで開催された大型コンベンション『Anime Expo』でのDJ出演など、国内外でのライブ活動も積極的に行っている。

【Recent work】

『Not Alone feat. MYLK』
KO3

 

IMAGE-LINE FL Studio

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LINE UP
FL Studio 20 Fruity:17,600円|FL Studio 20 Producer:28,600円|FL Studio 20 Signature:37,400円

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.13.6以降、INTELプロセッサーもしくはAPPLE Silicon M1をサポート
▪Windows:Windows 10以降(64ビット)INTELもしくはAMDプロセッサー
▪共通:4GB以上の空きディスク容量、4GB以上のRAM、XGA以上の解像度のディスプレイ

製品情報

hookup.co.jp