500ADATはオーディオI/OにADAT(オプティカル)で接続する入出力エキスパンダーですが、単に入出力を拡張するのではなく、API 500シリーズ互換モジュールを使ったレコーディング/ミキシングを可能にしたり、サミング・ミキサーやキュー・ボックスとしても使えたりと多機能な一台です。AVID HD I/Oと併用してみたので、用途別に整理しつつレビューしていきましょう。
Photo:Hiroki Obara
立ち上がりの良い音やCHAIN機能で、まず500モジュール用シャーシとして優秀
レコーディングに使用する場合は、500モジュールの併用が前提です。期間限定でプリアンプ・モジュールのCRANBORNE AUDIO Camden 500が付属するため、すぐに使い始められるのが良いですね。モジュールに入力した音は、リアのダイレクト・アウト(XLR)またはADATアウトから出力できます。前者はアナログなので、500ADATを一般的な500モジュール用シャーシとして使うことも可能です。このアナログ入~出力のサウンドは、僕が普段使っているシャーシより少しブライトで、立ち上がりがしっかりしているため好印象です。ADATアウト(A/D)はすっきりした音ですね。
500ADATには2系統のヘッドフォン端子があり、入力音のモニタリングが行えるのですが、レコーディング時にADATイン/アウトを使う場合は“DAWに行って来い”のレイテンシーが生じます。自分の環境で測定してみたら、30サンプル程度ありました。気になる方はフロントのMIX LEVELノブを使ってみてはいかがでしょうか。使用中のスロットのMIX LEVELを上げると、モジュールへ入力した音をダイレクトに聴くことができるからです。これはサミング・ミキサー機能(後述)のアナログ回路を利用したもので、ゼロ・レイテンシー・モニタリングを可能にします。使用する際はDAWからオケのみを返しつつ、録り音にひずみなどが生じないよう対策を取りましょう。
ヘッドフォン端子の音質は中高域が明るめで、低域が引き締まっている印象。ゲインが大きいため、ハイインピーダンスのヘッドフォンも余裕で鳴らせそうです。
さて、個人的にありがたいのは“CHAIN”というスイッチです。各スロット間に備わっていて、例えばスロット1と2の間のCHAINをオンにすると、スロット1のモジュールの出力を2のモジュールへ送出できます。これはプリアンプの後段でコンプやEQを使いたいときに便利。一般的なシャーシには、リアでXLRケーブルを結線してモジュール同士を接続するモデルが多いと思いますが、CHAINならスイッチ・オンするだけで隣に飛んでいくので手間がかかりません。最大8台を直列につなぐこともできます!
密着していた音にほのかな分離感を与えるサミング・ミキサーのキャラクター
次はミキシングでの使い道です。“DAWから出力した信号を500モジュールに通してから戻す”といったことが可能なので、各モジュールをプラグイン感覚で使えるでしょう。アナログ入出力の少ないオーディオI/Oを使っている方は、ADAT経由で500モジュールを最大8台使えます。また、500ADATはサミング・ミキサーとしても使用でき、DAWからADATまたはアナログで出力した複数のグループ・トラックなどをサミングして、リアのミックス・アウトから取り出せるのです。モジュールを通した上でのサミングはもちろん、各スロット内のSlot Bypassスイッチをオンにすれば、モジュールを差さなくてもサミング回路に直接、信号を送り込むことができます。純粋にサミングだけしたいという場合は、このSlot By passスイッチを使いましょう。
サミング機能の使い方は簡単で、基本的には各スロットのMIX LEVELおよびPANノブでバランスを取るのみ。サミング後のミックスには分離感が出て、DAW内部では密着していた音同士が少しほどけるような印象です。
このミックスされた音は、ミックス・アウトのほか、AUX 1と2のアウトからも取り出せます。AUXには専用のアナログ・インL/Rがあり、その入力を単体で聴くことも、ミックスにブレンドして聴くことも可能。また先述の2系統のヘッドフォン端子は、それぞれAUX 1/2に対応しているので、例えばAUXインにトークバックの回線を入れて500ADATをキュー・ボックス的に活用するなど、アイディア次第でさまざまな使い方ができるでしょう。
さて、最後にクロックの取り方による音の違いを見てみました。500ADATは内部クロックを備えていますが、せっかくワード・クロック入出力が用意されているので、HD I/Oのクロックで同期させてみることに。外部クロックはワード・クロック・インまたはADATインから入力できます。両パターンを試してみたところ、ワード・クロック・インを使った方がトランジェント特性に優れる印象。アタックがなまったりせず、鮮度の高い音が得られました。
一台でさまざまなシーンに対応できる500ADAT。500モジュールのユーザー、もしくは使ってみたいと思っている人のうち、アナログ入出力の数が少ないオーディオI/Oを使用している方には特にマッチすると感じます。導入すればドラムのマルチマイク録音などもできるようになるため、自宅スタジオから外出先での使用まで重宝するでしょう。
福田聡
【Profile】フリーランスのエンジニア。ファンクやR&Bなどグルーブ重視のサウンドを得意とし、堂本剛のプロジェクトENDRECHERIやK、オーサカ=モノレール、リベラル、WAY WAVE、Shunské G & The Peas、Keyco、マーサ・ハイらの作品を手掛ける。