「CRANBORNE AUDIO 500R8」製品レビュー:API 500互換ラック/サミング・ミキサー機能を持つオーディオI/O

f:id:rittor_snrec:20200527212932j:plain

 500R8はイギリスの新興メーカー、CRANBORNE AUDIOの新製品です。同社については、低価格にもかかわらず驚異的なスペックを持つAPI 500互換マイクプリ、Camden 500が海外のフォーラムで話題になっています。この500R8も、筆者の想像をはるかに超える多機能かつユニークな製品であることが分かりました。

ミックスやマスタリングに向いた
色付けの無い落ち着いたキャラクター

 本機はUSBオーディオI/O、API 500互換モジュール・ラック、サミング・ミキサー、そしてモニター・コントローラーの機能を持った製品です。コンピューターとの接続は非常に簡単で、Macの場合はドライバーのインストールは不要。USB接続するだけで500R8がCore Audioデバイスとして認識されます。セットアップが完了した後、筆者のリファレンス・トラックを幾つか再生して、スタジオ常設のAVID HD I/Oと比較試聴しました。500R8の出音は最近主流になってきている低域が整理されたD/Aコンバーターとは異なり、一聴して派手さはありませんが、癖の無い明確なステレオ・イメージが好印象で非常に実用的な音だと感じます。また、HD I/Oとの明確な違いは8kHz以上の高域に見られました。ギターの倍音やEDMのライザー系シンセ・サウンドなどが500R8では若干おとなしく聴こえ、一聴するとHD I/Oの方が派手に聴こえます。しかし、500R8がミックスやマスタリング用途であることを考えるとこの色付けの無い落ち着いたキャラクターはプラスに作用するとも考えられます。

 

 先述の通り、500R8はサミング・ミキサーとモニター・コントローラーの機能も内包していますが、その出力系統はミックス・アウトとAUXアウトに分けられます。各アウトをアサインできるヘッドフォン出力があるのでエンジニア用と演奏者用を用意でき、音量も個別に調整可能。フロント・パネルのAUX BLENDノブとMONITOR BLENDノブでは、DAW出力とサミング・ミキサーのミックス出力のバランスが調整でき、演奏中のレイテンシーが気になる場合にも対応できます。

 

 レコーディング時には各モジュール・スロットの下にあるトグル・スイッチをANLG(アナログ)にすると、8スロット分のダイレクト信号がパラでDAWに録音できます。また、今回は試していませんがトグル・スイッチをC.A.S.Tポジションに設定すると入力ソースが別売りの拡張ボックス(N22/N22H)に切り替わります。このC.A.S.Tという規格はイーサーネット・ケーブル(Cat 5)を通じて2chのアナログ信号を送受信するものです。例えば、録音ブースに配置したN22Hとコントロール・ルームの500R8をC.A.S.T接続することで、N22Hが2ch分のマイク入力と演奏者のキュー・ボックスの役割を果たすことになります。大掛かりな工事を行うことなく、ケーブル1本でマイク配線とモニター配線ができるこの仕様は、現場を考慮した優れた工夫ですね。さらに、ADATイン/アウトも備えるので、拡張性はかなり高いです。 

各スロットをケーブルレスで接続可
好みのチェインを瞬時に構築できる

 各スロットの下にあるトグル・スイッチをUSBにすることでDAWからのアウトがスロットに入力され、500R8のサミング・ミキサー回路を経由して再びDAWに入力されます。このサミング・ミキサー機能を使用する際、すべてのスロットにモジュールが挿さっている必要はありません。各スロットに搭載されているスロット・バイパス・スイッチをオンにすることで、モジュールを経由せずにサミングすることも可能になっています。


 AVID Pro Toolsからの音をサミング・ミキサーに通してみました。印象的だったのは、全スロットをバイパスしたときのサミング・ミックス。当初、余分なAD/DAや信号経路を通ることで音質が単純に劣化する可能性も予想していたのですが、音質変化はほとんど見受けられず、500R8はアナログ段/デジタル段にわたって色付けの少ない優秀な製品であることを実感しました。しかもAPI 500互換モジュールを使用せずとも、サミング・ミックスの恩恵である音の分離感の向上やステレオ・イメージの広がりという点をわずかに感じることができたのもうれしい点です。個人的にはこの“わずか”という変化がポイントで、サミング段で大きく変化してしまう機材は使えるシチュエーションが限られるので使いづらく、この点で500R8に非常に好感を持ちました。

 

 各スロットに搭載されたCHAINスイッチは物理的なケーブル接続を行わずに次のスロットに信号を送ることができるため、プリアンプ→コンプ→EQといったチャンネル・ストリップ的なシグナル・チェインを瞬時に構築できます。これは録音時にも大いに役に立つでしょう。

 

 500R8の機能や柔軟性は、開発者たちが実際の現場を知るミュージシャンやエンジニアであるCRANBORNE AUDIOの強みを最大限に発揮した製品だと思います。多くの製品がしのぎを削るオーディオI/Oのマーケットにおいて、500R8は価格/機能/操作性、すべてにおいて異彩を放つ製品。自宅ではDAWで完結している筆者にとっても、久しぶりに食指が動く製品のレビューになりました。

f:id:rittor_snrec:20200527213528j:plain

リア・パネル右側。写真右上には、API 500互換モジュール・スロットへの入力端子(XLR)、スロット後段にあるインサート端子(TRSフォーン)、スロットからの出力端子(XLR)が8ch分並ぶ。その下に並ぶC.A.S.T.インA〜Dは、アナログ4ch(入出力2c hずつ)をLANケーブルで送受信できる独自規格。同社のブレークアウト・ボックス、N22やN22Hを接続して入出力を拡張できる。パネル最下段には、U SB端子、MIDI IN、OUT、クロック設定のDIPスイッチ、ワード・クロック・イン/アウト(BNC)、S/P DIFイン/アウト(コアキシャル)、ADATイン/アウト(オプティカル)×2系統を用意する

f:id:rittor_snrec:20200527213653j:plain

リア・パネル左側には、2系統のスピーカー・アウトL/R(XLR、フォーン)、サミング・ミキサー出力のミックス・アウトL/R(フォーン)、AUXアウトL/R(フォーン)、外部オーディオI/Oからの出力を受けるDAW 2インL/R(フォーン)、トークバック・イン(XLR)、サミング・ミキサーのアウト(2ch)を送受信するC.A.S.T. LINKなどがスタンバイ

 

■製品情報

www.miyaji.co.jp

問合せ:宮地商会 M.I.D.

www.snrec.jp

 

CRANBORNE AUDIO 500R8

オープン・プライス

(市場予想価格:200,000円前円前後)

 

f:id:rittor_snrec:20200527212932j:plain

 

SPECIFICATIONS ▪接続方式:USB 2.0 ▪ビット/サンプリング・レート:最高24ビット/192kHz ▪周波数特性:2.2Hz〜80kHz ▪オーディオ入出力:28イン/30アウト ▪ダイナミック・レンジ:121dB ▪最大入力レベル:+24dBu ▪API 500互換モジュール・スロット数:8 ▪外形寸法:481(W)×185(H)×219(D)mm ▪重量:7.5kg

 

www.snrec.jp www.snrec.jp www.snrec.jp