
出力は電子バランスとトランスの切り替え
ゲルマニウム回路で味付けも可能
まず、SP501はシングル・スロットのAPI 500互換モジュールの中でもかなりの重量です。この重みは、19インチ・ラック型マイクプリと同等の大きさのトランスが積んであることがその理由で、音にも期待できます。
本機は、電子バランス出力によるプレーンな音のマイクプリをベースとし、出力回路をトランスに変えることで特性の切り替えが可能。その上、入力段と出力段の間にひずみ成分を追加するゲルマニウム回路を搭載する上、入力のインピーダンス切り替えもできます。それらの組み合わせで多種多様なサウンドを持つマイクプリに変化するのです。これらの機能はHi-Z入力時にも有効になるので、ギターなどのライン録音でも有効に使えます。トランスは、マイクプリによく使われるLUNDAHL製が入力段に、CARNHILL製が出力段に使われています。
フロント・パネルには、5dBステップのゲイン、−30dBのPAD、48Vファンタム電源、トランス出力と電子バランス出力を切り替える“A”、ゲルマニウム回路を経由する“Ge”、ハイパス・フィルターのオン/オフと30〜400Hzで連続可変のカットオフ周波数ノブ、位相反転、入力インピーダンス切り替えの“Z”(オンで1.6kΩから400Ωに)、インストゥルメント入力(フォーン)のオン/オフ、アウトプット・ボリュームが備わっています。
ゲインと出力レベルの組み合わせや
インピーダンス切り替えも音作りに使える
最初にノーマルの状態(電子バランス出力)で音を確認。中高域に少し盛り上がりのあるクリーンな音がしています。ハイエンドは、入力トランスの影響もあり、一般的な“クリーンを謳うマイクプリ”よりはチリチリ感が少ないです。低域は、特性の盛り上がりもなくフラットに近い感じ。強弱のダイナミクスに対しての反応はわずかにコンプレッサーをかけたようで、逆に使いやすいと言えます。この辺りはビンテージのマイクプリに近い感触ですが、音質は少し現代風に振っており、このテストの女性ボーカルでは中域のきつい部分が少し出てしまう印象です。
では、この音色を基本としてAボタンを押し、トランス出力に切り替えてみます。するとグッと中低域が持ち上がり、温かい印象に。高域も少しギスギス感が落ち着いて電子バランス出力より滑らかになり、全体的にいわゆるNEVE系に似ている特性へ変化します。
また、本機はアウトプット・ボリュームも搭載しているので、マイクプリでゲインを上げめにしてトランスにレベルを入れ、出力側で下げるという技も使えます。先ほどの女性ボーカルも印象が全く変わり、きつかった中域も収まりました。この辺りはトランス回路の強みですね。
次に、Geボタンをオンにし、ゲルマニウム回路を試してみます。ゲインを上げてドライブさせると、ちょっと荒さのあるひずみ感が得られます。どちらかと言えばエレキギターなどのファズのひずみを荒くした印象で、エフェクター的な効果です。エグいひずみで変な音も作れます。軽めにかけると、原音のピークをうまく取ってくれるので、ドラムやパーカッションなどのワンショット音ではレベルも稼げ、非常に有効。ロック・ドラムやタンバリンで使ってみましたが、ピークを抑えつつ中域がグッと出てくるので、懐かしい感じのサウンドには最適です。
また、入力インピーダンスを変えることでも音質を変えられます。通常のマイク入力は1.6kΩで使用しますが、400Ωにするとゲインが上がり、太さが増して全体的に一体感が得られる場合があります。軽い音だなと感じたときに切り替えてみると、“マイクを変えた?”と思うほど印象が変わることもあります。
Hi-Z入力も音の印象はマイク入力と同じですが、ゲルマニウム回路が威力を発揮してくれます。軽くかけるとピッキングの乱れによるノイズを抑えられ、安定した演奏に。ひずませた後に本機を通すことで、とてつもないひずみを作ることもできます。また、ハイパス・フィルターが周波数可変なので、削り過ぎないようにしながら低域を抑えるのにも便利です。
マイクでも楽器でも、このサイズでカメレオンのように音が変化するSP501。プロから宅録派まで、便利に使えるツールと言えますね。

撮影:川村容一
(サウンド&レコーディング・マガジン 2017年10月号より)