AJURIKAが使う「FL Studio」第3回

ダンス・ポップのボーカル録りから
プロセッシングまでのワークフロー

皆様、こんにちは! 前回は曲の土台であるキックとベースについて解説しましたが、今回は主役となるボーカル・トラックについて解説します。

歌は複数テイクから構成するので
プレイリストへの直接録音がお勧め

近年はEDMの隆盛に見られるように、ダンス・ミュージックであってもボーカル・トラックを取り入れた楽曲が多くなりました。声は本当に素晴らしい“楽器”で、曲を聴いていて一番意識が向くパートです。そこでFL Studioに録音したボーカルをソフト内のさまざまな機能で磨き上げ、完成させるまでの工程を追っていきましょう。

今回も参考音源を本誌のSoundCloudにアップしたので、聴きながら読み進めてもらえたらと思います(https://soundcloud.com/sound-7/sound-and-recording-mag-fl03)。なお、この音源のボーカルは声優の藤沢実来さんにお願いし、レコーディングはstudio ENDEAVORさんにご協力いただきました。

▲東京新橋のstudio ENDEAVORで歌録りに臨む藤沢実来さん。今回初めて歌ってもらい、とても素晴らしいセッションとなった。写真右に見えるのは、ルーム・アコースティックをより良くするためのSE ELECTRONICS Reflexion Filter Pro ▲東京新橋のstudio ENDEAVORで歌録りに臨む藤沢実来さん。今回初めて歌ってもらい、とても素晴らしいセッションとなった。写真右に見えるのは、ルーム・アコースティックをより良くするためのSE ELECTRONICS Reflexion Filter Pro

FL Studioでのボーカル録音には、ミキサーに入力された音をそのままプレイリストに録る方法と、標準搭載のオーディオ・レコーダー/エディター・プラグインのEdisonを用いる方法の2種類があります。後者の場合は、Edison内に録音してからそのデータをプレイリストにドラッグ&ドロップで張り付けます。やりやすい方法を選べばよいと思いますが、ボーカル・トラックのように複数のテイクからOKテイクを選んで構成していくパートには、前者の方が向いていると思います。

▲複数のボーカル・テイク(上から7つのトラック)から良い部分を抜き出し、OKテイク用のトラックでつなげているところ(一番下のトラック)。プレイリストに直接レコーディングすると、こうしたエディットがしやすくなる ▲複数のボーカル・テイク(上から7つのトラック)から良い部分を抜き出し、OKテイク用のトラックでつなげているところ(一番下のトラック)。プレイリストに直接レコーディングすると、こうしたエディットがしやすくなる

OKテイクの選出が終わったら、ピッチやタイミングを修正する前にコンプやディエッサーなどで軽くレベルを整えます。録ってそのままピッチやタイミングを直すより、多少レベルを整えておいた方がノイズも見つかりやすいですし、タイミングの修正も容易です。標準搭載プラグインの中では、Maximusが強力なマルチバンド・コンプで、ディエッサーとしても使えるのでお勧めです。

標準搭載のNewToneで
声のピッチやタイミングを補正

録音データがそろったら、いよいよピッチとタイミングを修正します。FL StudioにはNewToneというピッチ&タイミング補正プラグインが標準装備されていて、私も普段、ボーカルのピッチとタイミングをすべてこれで修正しています。NewToneの動作は少し独特で、最初は面食らうかもしれませんので、詳しく見てみましょう。

▲NewToneのGUI右上には“Slave playback to host”ボタンがあり(赤枠)、これをONにするとプレイリストに連動する ▲NewToneのGUI右上には“Slave playback to host”ボタンがあり(赤枠)、これをONにするとプレイリストに連動する

画面右上の“Slave playback to host”ボタンを押すと、NewToneのエディター画面がプレイリストと連動するようになります。ここで問題になるのが、NewToneはオーディオ・クリップしか読み込めないということ。例えば、曲の途中から出てくるオーディオ・クリップを扱っていても、プレイリストを曲頭から鳴らせばそれに連動して再生されますので、本来の位置からズレて聴こえることになります。そこで“File”メニューの“Ignore host selection”を選択すると、オーディオ・クリップの修正したい範囲をプレイリスト上で指定→再生することで、本来の位置でモニターしながらピッチ補正が行えます。なお、曲の頭からあるオーディオ・クリップではこの問題が発生しないので、修正が必要なトラックは曲頭から1本のオーディオ・ファイルとして書き出しておくと良いでしょう。

NewToneに読み込んだボーカル・トラックは、ピアノロール上でノート情報として編集できます。ディスプレイの上段に歌のメロディ・ラインを打ち込んだピアノロールを開き、下段にNewToneを配置すると、正確なピッチやタイミングを見ながらの作業が可能。“Advanced Edit”モードにすると、各ノートのピッチの揺れやフォルマント、ボリュームなどを細かくエディットできます。良い歌が録れているに越したことはありませんが、“ここをもう一息”というときの修正でかなり力になります。

▲コンピューター・ディスプレイの上部にボーカル・メロディをMIDIで打ち込んだピアノロールを配置し、下部にNewToneのエディターを置けば、効率良く精度の高いエディットが行える ▲コンピューター・ディスプレイの上部にボーカル・メロディをMIDIで打ち込んだピアノロールを配置し、下部にNewToneのエディターを置けば、効率良く精度の高いエディットが行える
▲NewToneをAdvanced Editモードにすると、ピッチやボリュームのカーブ、フォルマント、ビブラートなども調整可能 ▲NewToneをAdvanced Editモードにすると、ピッチやボリュームのカーブ、フォルマント、ビブラートなども調整可能

ピッチとタイミングの修正が終わったら、画面右上の“Send to Playlist”ボタンを押してプレイリストにオーディオ・クリップとして張り付けます。その後Edisonでリップ・ノイズなどを取り除き、歌の下処理は完了です。

Automation Clipで
声のアタックをコントロール

続いては、音量バランスの調整です。ボーカルのミキシングでは、よくフェーダーを“突く”ことがあります。言葉の頭のレベルを少し上げることでアタックが強調され、勢いや躍動感が出るからです。短時間に少しだけレベルを上げるようなAutomation Clipを用意し、突きたいところに張ると速いし楽です。場所によってはさらにレベルを上げたり、逆に下げたりしたいので、そういった場合はクリップ・メニューの“Make unique”でAutomation Clipを複製し、違うオートメーション・カーブになるようエディットしましょう。コーラスやハーモニーなど“生身のノリ”が必要なパートには、マウスやMIDIコントローラーでリアルタイムにボリューム・オートメーションを描くとよいと思います。

▲上の赤枠は、ボーカルのアタックにボリューム・オートメーションをかけるためのAutomation Clip。短いクリップを随所に配置して、狙いのポイントで音量が上がるようにしている。下の赤枠は、コーラスにMIDIコントローラーで描いたオートメーション。これらの作業は、FL Studio 12 All Plugins Bundle(99,990円)、FL Studio 12 Signature Bundle(パッケージ版:31,000円)、FL Studio 12 Producer Edition(24,000円)、FL Studio 12 Fruity Edition(12,800円)の全グレードで行える。Signature Bundle以外はbeatcloud(https://beatcloud.jp/)でダウンロード購入可能 ▲上の赤枠は、ボーカルのアタックにボリューム・オートメーションをかけるためのAutomation Clip。短いクリップを随所に配置して、狙いのポイントで音量が上がるようにしている。下の赤枠は、コーラスにMIDIコントローラーで描いたオートメーション。これらの作業は、FL Studio 12 All Plugins Bundle(99,990円)、FL Studio 12 Signature Bundle(パッケージ版:31,000円)、FL Studio 12 Producer Edition(24,000円)、FL Studio 12 Fruity Edition(12,800円)の全グレードで行える。Signature Bundle以外はbeatcloud(https://beatcloud.jp/)でダウンロード購入可能

FL StudioにはAutomation Clipのほか、Fruity Envelope ControllerやFruity Keyboard Controller、Fruity Peak Controller、Fruity Formula Controllerなど多種多様なコントローラーがあり、FL Studioやプラグインのほぼすべてのパラメーターを動かすことができます。ボーカルの音量に応じてベースや伴奏のボリュームを自動的に下げたり、キックが鳴ったときに歌のサイド成分を下げることなども簡単です。思わぬ効果が得られる場合もあるので、ぜひいろいろなコントローラーを試してみてください。

▲FL Studioに標準搭載されているコントローラーの一例。左上のFruity Envelope Controllerは、任意のパラメーターをエンベロープで動かすためのもので、その下のFruity Keyboard Controllerは画面内の鍵盤を用いてオートメーションを作り出すもの。右上のFruity Peak Controllerは、入力された音のボリューム・エンベロープに反応して任意パラメーターへのオートメーション・データを生成するもので、右下のFruity Formula Controllerはユーザー定義の数式を入力してオートメーション・データを作り出すコントローラーだ ▲FL Studioに標準搭載されているコントローラーの一例。左上のFruity Envelope Controllerは、任意のパラメーターをエンベロープで動かすためのもので、その下のFruity Keyboard Controllerは画面内の鍵盤を用いてオートメーションを作り出すもの。右上のFruity Peak Controllerは、入力された音のボリューム・エンベロープに反応して任意パラメーターへのオートメーション・データを生成するもので、右下のFruity Formula Controllerはユーザー定義の数式を入力してオートメーション・データを作り出すコントローラーだ

さて、FL Studio 12からオーディオ・ファイルのリアルタイム・ストレッチ機能が搭載されました。これにより、曲の途中でテンポを変えてもファイルの長さが追随するわけです。オーディオのピッチを変更する際も時間がかからず、かなりのクオリティで上下させることが可能。今回のデモ曲は、ボーカルの声域に合わせて前回のバージョンからオケ・ミックスのキーを半音上げました。次回はデモ曲を完成させ、その上でFL Studioの便利な機能やプラグインなどをご紹介します。お楽しみに!

FL Studio シリーズ・ラインナップ

FL Studio 12 All Plugins Bundle(99,990円)
FL Studio 12 Signature Bundle(パッケージ版のみの販売:31,000円)
FL Studio 12 Producer Edition(24,000円)
FL Studio 12 Fruity Edition(12,800円)

<<<Signature Bundle以外はbeatcloudにてダウンロード購入可能>>>