
低価格でもローカット&PADを装備
素直でミックスしやすい周波数バランス
手元に届いたのはステレオ・ペア・セットであるSE8 Pair。NEUMANNで言えばKM系の形状ですが、KMシリーズの本体には無いPAD(−10/−20dB)とローカット・フィルター(−6dB@80/160Hz)が付いています。低域を切りたい金モノ系の収音も、フィルターを入れてガシガシいけるのではないでしょうか? 価格はなんと衝撃のペアで5万円!! 既にテンション上がりまくりです!
少し冷静になるべく、SE ELECTRONICSのWebサイトをチェック。ハンドメイドと家族経営で、低価格で高品質のマイクを発売しているとうたっています。RUPERT NEVE DESIGNSとのコラボなどでも知られている同社ですが、今回のSE8も自社工場でハンドメイド。高度な電子回路設計でトランスレス・クラスA回路を組み込むことで、低ノイズ・レベルを実現したとのことです。
ではグランド・ピアノ(STEINWAY B-211)を収録してみましょう。マイクプリはMILLENNIA HV-3D-8で試してみました。弦から15〜20cm離し、低音はC2周辺、高音はC4辺りのハンマーより少し弦に近い位置を狙うと、割と臨場感のある音で録れます。
一聴した印象では、周波数的には割と素直に広く拾っていて、特に大きな出っ張りのあるところがなく自然な感じ。素直で明るめに聴こえます。スモール・ダイアフラムらしく立ち上がりが速くカラっとした音。無理に誇張したEQ感ではなく良い意味で自然に中高域を押し出しており、ちょうどよく粒がそろって音が出てくるイメージです。SN比もカタログ・スペック通り良好で、無理なくマイクプリを通過してくる印象があります。
同じ位置を狙ったラージ・ダイアフラムのマイクでは、モデルによって帯域は異なりますが低域がかなりたっぷり入り、したがってペダルや部屋の反響音もかなり収音されます。バンドでピアノをミックスする際には、この低域を抑えた方がほかの楽器のスペースを作ることができます。とはいえマイクのフィルターで低音をカットすると寂しくなり過ぎることがあり、難しいところです。
一方、SE8と同じスモール・ダイアフラムで金モノによく使われるマイクでは、中高域の音のキレはSE8と近い感じがありますが、中低域がスッキリし過ぎてしまい、ピアノ録音用としては物足りなさが否めませんでした。SE8の方がピアノの柔らかさが伝わってくる感じがしました。
ミックスではさまざまな楽器の音で周波数を分け合いますので、グランド・ピアノのようにかなり多くの周波数帯域を占める楽器は、ほかの楽器やピアノ自体を聴こえやすくするために、マイクを選択したり、EQで調整します。SE8は最初から程良いバランスで低域の成分を収めてくれますし、ボーカル用のエアリーな高域もうまく空けておいてくれるので、ミックスが素早く行えるように感じました。また小さくて軽いので取り回しが楽ですから、ライブでのグランド・ピアノ用にも適すると思います。
SE8は程良く締まった、品の良い低域が心地良く軽やかに聴こえますので、今回レコーディングしたジャズ・ピアニストも“自分のピアノのタッチがより心地良く響く”と感想を述べていました。
ガット・ギターもコシがあって元気な印象
中低域が暴れずにまとまる
次にガット・ギターをステレオ・マイキングでレコーディングしました。ボディ下側で低音を、ネック中央で弦やスライドの音を狙います。ラージ・ダイアフラム・タイプの方がレンジ感や空気感、低域の量感などの面では有利ですが、SE8はボディにコシがあり、元気な印象。中低域がマルチバンド・コンプで調整されたかのようにタイトにまとまります。暴れて飛び出してくる音が無いので、これもミックスでは非常に扱いやすいと思います。“元気がある”と言っても安っぽいキンキンした感じは全くありません。他社スモール・ダイアフラム機では弦やスライド音がやや鋭過ぎると感じる場合がありますが、SE8はもう少し丸みを帯びた感じに聴こえました。
SE ELECTRONICSは新進のメーカーで私も初めて同社製品を使ってみましたが、ハンドメイド・マイクに深い愛情を注ぎ込む同社のコスト・パフォーマンスは大変優秀だと感じました。それでいて歴史あるNEUMANNやAKGなどの老舗に遠く及ばないということは全く無く、むしろSE8のキャラクターが演奏者に好まれることは多々あると思います。

(サウンド&レコーディング・マガジン 2017年10月号より)