「DPA MICROPHONES D:vice」製品レビュー:モバイルでのマイク収録に便利な小型オーディオ・インターフェース

DPA MICROPHONESD:vice
クラシカルなアコースティック楽器の録音や、コンサートの現場ではDPA MICROPHONES(以下、DPA)のマイクを見かけないときは無いでしょう。僕にとってもプロ中のプロが使うマイク・メーカーといった印象ですが、このたび、なんとオーディオ・インターフェースD:viceが同社から発売されました。

MicroDotコネクターで小型化を達成
報道からライブ・ストリーミングまで

D:viceをケースから取り出してみると、思っていたよりもはるかに小さいです。丸い本体にはマイクを接続する2つの小さいMicroDot端子と、中央下部にMicro USB端子があるのみで、接続するケーブルも最大3本。シャツの胸ポケットに入れても全く問題無い小ささです。

D:viceは高性能マイクプリと、24ビット/96kHz対応ADコンバーターを2chずつ内蔵した超小型オーディオ・インターフェースです。APPLE iPhoneなどのiOS製品とMac/Windowsに対応。LightningケーブルとUSBケーブルが付属しています。本体の入力端子として、DPAの小型マイクが採用しているMicroDot端子を装備し、XLRやフォーン端子を使用していないので、非常に小さいです。また、D/Aを搭載していないため、ヘッドフォン端子やライン・アウトは付いていません。Webサイトには、2本のラベリア・マイクとiPhoneが接続された写真があり、なるほどとひざを打ちました。D:viceはコンピューターとの併用もできますが、基本的にはiPhoneを軸としたモバイル用途に特化しているのです。

最近はiPhoneで撮影した動画もニュースなどでしばしば見かけるように、ブロードキャストにおいて市民権を得ています。なのにマイクだけはモノラルの通話用途のものしか搭載しておらず、マイク音質が良ければ立派な報道機材として活躍できるのにとても残念なのです。

そこを考慮して、数々の外付けのマイク・ユニットが発売されていますが、多くは本体に装着するフィールド・レコーディング用マイク。音の全景を録るのには適していますが、レポーターのように自分の声を近くクリアに録るのには適していないのです。D:viceのようにiPhone本体と分離していて、ラベリア・マイクが接続できれば、ピン・マイクやヘッドセットとして自分に装着し、音声録音のみならずiPhoneで報道現場を撮影したり、あるいはレポーターとして自分を撮影することもできます。

また、iPhoneのネットへの親和性を利用して、ネットでのライブ・ストリーミングなどを究極のシンプル・セットで行えます。この辺りがD:viceの主な用途であり、魅力なのではないでしょうか。

スタジオ・マイクプリと印象に違いが無い
透明感あるレンジの広い音

さて、本誌で取り上げるからには、音楽用途としてどのように使えるか興味がありますよね。特に(サード・パーティのアプリの使用が前提ですが)24ビット/96kHzをサポートしている点と、DPAマイクを直接接続できる点が気になります。今回は無指向性ミニチュア・マイクSC4060-BM×2のほかに、楽器用のコンタクト・マイクVO4099V(バイオリン用)、VO4099T(ブラス用)、VO4099S(サックス用)の一式をお借りしました。

テストでは、バイオリニストの喜多直毅さんに協力を仰ぎました。喜多さんはDPAマイクのヘビー・ユーザー。D:viceを見た瞬間に“俺、これ欲しい!”とおっしゃいました。いわく、“ヨーロッパなどでのツアー中に日本へバイオリンのモチーフなどを送ることがあるのだけど、iPhoneの内蔵マイクだと音が悪くて申し訳ない。D:viceだといつものコンタクト・マイクをiPhoneにつなぐだけですごくいい音で録れる、最高だね。旅ではとにかく装備をコンパクトにしたいから大きなオーディオ・インターフェースなんか持ち歩きたくないし、そもそもパソコンやなんかと接続、セットアップしているのが面倒なんですよ”と。なるほど、D:viceはバッグに忍ばせておいていつでもすぐに高音質録音にアクセスできるのが一番の魅力なのですね。

録音は私のAPPLE iPhone 6Sで試してみました。まず、2つのSC4060-BMを通常のステレオ録音として譜面台の左右に配置してみます。おおっ! 小さいマイクでありながら非常に透明感と臨場感があります。通常サイズのマイクに比べて若干の低域不足がありますが、96kHzというサンプリング・レートも相まって、かなり“使える音”だと思いました。

次は、喜多さんのコンタクト・マイクVO4099Vを接続してみます。こちらは申し分の無い音質ですね。このマイクをスタジオのマイクプリとつないだときと印象に変わりが無いので、D:viceの性能の良さが分かります。

別の機会に、APPLE MacBook ProでUSB接続もテスト。こちらもAPPLE Logic Pro Xで問題なく認識され、VO4099Sでアルト・サックスを録音してみました。モバイル用途の小さい製品だとダイナミック・レンジ感などがどうしても“小さい箱”のようにつぶれがちなのですが、DPAマイクとD:viceの組み合わせは、それを感じないレンジの広さがあると思います。

モバイル用途では、現場では良い音で録れさえすればよく、高音質な再生のは自宅に帰ってから確認できれば足ります。そういう意味でD/Aを省略して得たコンパクトさがどれだけの利点かを考えると、喜多さんのような人にとってD:viceは利用価値の極めて高い製品なのだと感じました。個人的にも時々ヨーロッパなどへ現代音楽のエレクトロニクスで旅をするときに、MacBook Proとともにぜひ持っていきたいと思いました。

▲テストに協力していただいた喜多直毅さん。Webサイト(www.naoki-kita.com)のトップにある写真でも、DPAマイクを愛用している様子が伺える ▲テストに協力していただいた喜多直毅さん。Webサイト(www.naoki-kita.com)のトップにある写真でも、DPAマイクを愛用している様子が伺える
▲無償提供されている専用iOSアプリの“D:vice”。チャンネル・モードの設定(モノラル/ステレオ/デュアル)、ゲインとローカットの調整などが行え、設定の保存も可能 ▲無償提供されている専用iOSアプリの“D:vice”。チャンネル・モードの設定(モノラル/ステレオ/デュアル)、ゲインとローカットの調整などが行え、設定の保存も可能

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サウンド&レコーディング・マガジン 2017年10月号より)

DPA MICROPHONES
D:vice
オープン・プライス(市場予想価格64,000円前後) ※各種マイクとのセットもあり
▪分解能:24ビット/44.1/48kHz(サード・パーティ製アプリからの設定で96kHzまで対応) ▪対応OS:Mac/Windows/iOS(10以降) ▪周波数特性:20Hz〜40kHz(±0.2dB)@ 96kHz動作字 ▪全高調波ひずみ率:100dB以下(0.001% @1kHz:-10dBFs) ▪ダイナミック・レンジ:114dB ▪フルスケール出力:1Vrms@0dBゲイン ▪ハイパス・フィルター:80Hz(−12dB/Oct) ▪外形寸法:56(φ)×12(H)mm(突起部を除く) ▪重量:約50g