
多くの情報にアクセスできるタッチ・パネル
iPadなどからリモート・ミックスも可能
ケースから取り出してみたTF5は、同社のQL5と同じくらいの大きさで、1人でも持ち上がる重量です。リア・パネルには接続に必要かつ十分なイン/アウトの端子類が装備されており、別途I/Oラックを用意しなくても使用することができますね。
デジタル・コンソールが多様性を持つ中で、ユーザー・インターフェースとパネルのグラフィック表示が進化していくのは当然の流れでしょう。このTF Seriesはタッチ・パネルに最適化したユーザー・インターフェース、TouchFlow Operationを採用しています。画面をスクロールして多くの情報にアクセスできるというアイディアは素晴らしく、慣れるととても使いやすく感じました。スクロールが横方向だけでなく縦方向にもできるため、さまざまなパラメーターを確認できます。下の方にスクロールしていくと、どんどんコンソールのツマミが見えてくるというのはアナログな感覚で分かりやすい仕様ですね。
また、QLシリーズにも搭載されているTOUCH AND TURNノブがとても便利です。操作したいパラメーターを画面でタッチして、TOUCH AND TURNノブを回すだけ。例えば各チャンネルが並ぶOVERVIEW画面では、ゲインやゲートのスレッショルド、エフェクトの送り量を、SELECTED CHANNEL画面では、最適なイコライジング、コンプレッション効果が得られる1-knob EQ、1-knob COMPなどを設定できます。
フェーダー右側に並んでいるSENDS ON FADERのセレクト・スイッチを使えば、バンクの切り替えを行わずともAUXバスやFXバスなどのパラメーターへ素早いアクセスが可能。そのほかにも、APPLE iPadやAndroidデバイスを使用したリモート・ミックス、モニター・ミックスにも対応するなど、TF Seriesは多くの可能性を感じさせてくれます。
歌い分けの確認やハウリング防止として
オートマチック・ミキサーをライブで使用
今回の注目ポイントは、ファームウェアV3.5で新たに搭載されたDan Duganオートマチック・ミキサー! 最大8chのマイク・ゲインを自動で最適化してくれる機能です。ch1~8にあらかじめインサートされており、チャンネル・ストリップから設定画面へ簡単にアクセスすることができます。
さて、機能の紹介はこれくらいにして、現場での使用感をお伝えしたいと思います。野外ステージのコンサートに4人組のアイドルが出演することになりました。パフォーマンスについての事前情報はありませんでしたが、想像できるのはオケをバックに4人がワイアレス・マイクを使用したライブ。4人の歌い分けによって、ボーカル・マイクのオペレートが大変になるでしょう。
Dan Duganオートマチック・ミキサーは、こういったオケ・バックでのボーカル・パフォーマンスを想定した機能ではありません。本来は会議やスピーチ現場での使用を考えて作られた機能ですが、事前情報無しで歌い分けの対応をする今回の現場で、この機能はとても強力にバックアップしてくれました。
現場はリハ無し、歌詞カード無しという過酷なものでした。アイドルのマネージャーが横で歌い分けを教えてくれる中でミックスを行います。OVERVIEW画面でch1〜8を表示させて下にスクロールしていくと、AUTOMIXER画面が現れます。この画面を見ると、4本のマイクで誰が歌っているのか一目りょう然。歌っていない人のマイク・ゲインは自動的に下がり、歌うと瞬時にゲインが上がります。使用されているマイクが分かりやすいので、すぐにフェーダー操作でバランスが取れました。しかも歌っていない人のマイクのゲインが下がることで、ハウリングする心配が無いことも助かります。歌い出しに対する反応速度も速かったですね。
ボーカル・パフォーマンスだけでなくDan Duganオートマチック・ミキサーが本来想定しているスピーチ場面でもハウリングや音の回り込みによるコム・フィルター効果の発生を抑制するなど、多くの効果が得られ、台本が無いスピーチ現場でも、それぞれのフェーダー操作にわずらわされることもなく、安定したミックス作業を行えます。ぜひ別の現場でも使用してみたいです。


(サウンド&レコーディング・マガジン 2017年10月号より)