「CRANBORNE AUDIO Camden 500」製品レビュー:2種類のサチュレーター付きAPI 500互換のトランスレス・マイクプリ

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 イギリスの新興メーカーCRANBORNE AUDIOから発売されているAPI 500互換のプリアンプ、Camden 500を紹介します。トランスレス設計によるクリーンな音色を特徴としつつ、MOJOカスタム・アナログ回路でサチュレーションを加えることもできるCamden 500。幸運にもAPI 500互換のマイクプリが多数手に入ったため、他機種との比較も行いつつ、目玉機能となるMOJO回路の性能をチェックしていきます。

撮影:川村容一

 

ゲインは5.5dB刻みの12段階ステップ式を採用
クリーンでトランジェントがはっきりした音色

 入力信号の流れは、入力セレクト・スイッチ→ゲイン→MOJO→ハイパス・フィルター→ライン出力です。パネル最上部に搭載されたMOJOノブは連続可変式。左に絞り切ると“カチッ”とバイパス・スイッチが入ります。MOJOという言葉は、ビンテージ機材の表現でたまに目にしますね。特別なパワーや、マジックといった意味です。その下にはMOJOの特性を切り変えるMOJO STYLEセレクターがスタンバイ。左のTHUMPは“ゴツンと打つ”という意味通り、低音楽器に効果的なモードです。基音を損ねることなく、20~100Hzの倍音を増幅できます。右のCREAMは、ビンテージ機器の滑らかな音色をイメージしたモード。500Hz近辺がやんわり削られて、高域の倍音が付加されます。

 

 さらに下へ続くと、ハイパス・フィルター(−12dB/oct@80Hz)とフェイズのスイッチを配備。ドット・マーク側に倒すとオンになります。中腹にはHi-Z/ライン/マイク入力のゲイン・ノブがあり、こちらは5.5dB刻みの12段階ステップ式。入力タイプは下のINPUT TYPEで選択します。ライン入力にすると−8dBのPADが入って0dBになるのはうれしい仕様です。隣には48Vのファンタム電源を供給するスイッチがスタンバイ。最下部にはHi-Z/ライン入力(TRSフォーン)が備わっています。

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フロント・パネル。最上部にはサチュレーションを与えるMOJOノブが搭載されている。MOJOはTHUMPとCREAMという2種類の特性を持ち、ノブの下のスイッチで切り替え可能だ。その下にはハイパス・フィルター(−12dB/oct@80Hz)とフェイズ・スイッチがスタンバイ。さらにゲイン・ノブへと下に続き、入力をHi-Z/ライン/マイクから選択するトグルが用意されている。48Vファンタム電源の供給にも対応。一番下にはHi-Z/ライン入力端子(TRSフォーン)を設ける

 それでは実際にボーカルを録っていきましょう。マイクはTELEFUNKEN Ela M 251系のモデルを使用。比較対象はAPI 500互換プリアンプのCHANDLER LIMITED TG2-500、RUPERT NEVE DESIGNS 517、RETRO 500Pre、BURL AUDIO B1Dです。

 

 まずはMOJO無しで録音してみたところ、クリアな音色でゲインを上げていっても音像が崩れません。かと言って高域が痛い感じも無く、ハイファイでモニタリングもしやすいです。しっかりしたトランジェントは、517に似たものがありました。ほかのプリより少しだけスッキリ引き締まった印象です。

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クリーンでリニアな特性をねらって作られたCamden 500は、︎トランスレスで設計されている

低域が付加されて音が前に出るTHUMP
角が取れてオケになじんでいくCREAM

 そんなこともあり、ここでMOJOの出番。THUMPは調子に乗って上げ過ぎたところ20〜30Hzが暴れてしまったので、ハイパス・フィルターを使いながら程良く低域を足して存在感を出す、といった録り方がちょうど良さそうでした。プラグインで例えるとWAVES Renaissance Bassと似た効果ですが、Camden 500の方が原音のツヤが保たれている印象です。一方CREAMは、高域の抜けや息っぽさが強調されます。THUMPのように前にドンと出る感じではなく、オケへのなじみが良くなって、山の頂上に鎮座しているような歌声になりました。メインはTHUMP、コーラスはCREAMで録ったら面白い距離感が作れそうです。

 

 次はエレキベースをHi-Zで録ってみます。こちらもほかのプリと比べて粒立ちは素晴らしいですが、低域はあと一歩という印象。THUMPで低域を補強したらイメージに近くなりました。もう少し音像が大きくなれば最高ですが、1台で頑張らず、後にEQで補うのも良いでしょう。

 

 ライン・アンプとしての性能は、生楽器からシンセサイザーまであらゆるものを通してチェックしました。フラットで少しだけ重心が上寄りになる特性はほかの入力方法と同様ですが、MOJOが予想以上にミックスで役に立って驚きました。THUMPはドラム単音で最も効果がありますね。低域感が増してゴツゴツした感じは、プラグインのSOUNDTOYS Decapitatorに通ずるところがあります。つまみは12~2時が良いあんばいです。

 

 CREAMは角が取れて音がにじんでいく特性で、ギターやシンセに大きな効果があります。特にシンセ系の音をつまみの12~1時で通すとボーカルの周りに空間ができて、マスキングせずに聴こえやすくなりました。リバーブやハーモニー系エフェクトとも違う効果でシンセの居場所を立体的に変えられるこのプロセッシングは、大発見です。

 

 最後に一つだけ裏技を。ライン入力したキックやスネアを、THUMPモードでゲインを突っ込んでクリップさせてみてください。ほかのひずみ系エフェクターとは異なる、パンチのあるディストーション・サウンドが得られます。クリーンでリニアな性質の分、ひずみ切らずにアタックは残るのが新鮮でした。後段にライン・アンプなどでアッテネートしなくてはいけませんが、面白いので試してみてほしいです。ペアならさらに音作りの幅が広がることでしょう。私はペアで購入しました。

 

CRANBORNE AUDIO Camden 500
オープン・プライス(市場予想価格:44,000円前後)

SPECIFICATIONS
▪周波数特性:5Hz〜200kHz ▪ゲイン:3〜63.5dB(Hi-Z)、0〜60.5dB(ライン)、8〜68.5dB(マイク) ▪全高調波ひずみ率:0.0004%以下 ▪重量:198g(実測値) ▪外形寸法:37(W)×132(H)×152(D)mm(実測値)

 

福田聡
【Profile】フリーで活動するレコーディング・エンジニア。ファンクやヒップホップといったグルーブを重視したサウンドを得意とし、ENDRECHERIやSANABAGUN.、EMILANDなどの作品を手掛ける。

 

製品情報

miyaji.co.jp

 

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