第一線で活躍するエンジニアに毎月お薦めの新作を語ってもらう本コーナー。今本 修氏の今月のセレクトは、Dylan Cartlidge『Hope Above Adversity』、Drug Store Romeos『The world within our bedrooms』です。
立体的な音像にドラムをひずみ限界まで持ち上げるセンス
この夏はずっとこれを聴いて過ごすだろうアルバムを、まずはディラン・カートリッジの1stアルバムから紹介。ディランの存在は知ってはいたが、ちゃんと聴いたのは今回が初めて。UKからアメリカに進出できるラッパーはほぼ皆無に等しいが、やはり本場で成功してほしい。アウトキャストやビースティ・ボーイズの1stのようなパーティ・アンセム満載で、いわばモンスター・アルバムな作品なのだ。スライ&ザ・ファミリー・ストーン的なリズム・ボックスへのアプローチやジェイ・Zの某ヒット曲のフレーズ、エミネムのサンプリング・ネタでもおなじみのラビ・シフレ「I Got the...」などへのオマージュからもポップな音楽経歴を垣間見られる。立体的な音像にドラムをひずみ限界まで持ち上げるセンスで、当然全体の音圧も高め。すべてが僕好みだ。
これまであるようで無かった新鮮な音像
同じくUKのハンプシャー州フリートの3人組、ドラッグ・ストア・ロメオズ。“ドリーム・ポップ”と言われる浮遊感のある音楽だが、要所でとがった主張をしてくる辺り、ただ者ではない。紅一点のサラ(vo)以外の二人はハードコア・バンドを組んでいた経験もあり、それが遊び心あふれる曲作りや音に生かされているのだろうか。ガレージ・サウンド的な録音処理で、CASIO Casiotoneのチープな音、言葉を遊び倒すサラのなんともかわいらしい歌声が、ベッド・ルームを越えることの無い空間リバーブ感をまとっている。これまであるようで無かった新鮮な音像である。
今本 修
【Profile】DOGLUS MUSIK主宰。クラブ・ミュージックを熟知した音作りに定評がある一方、ロックの分野でも手腕を発揮するエンジニア