電源用電材が入手困難? 〜【第6回】DIYで造るイマーシブ・スタジオ 古賀健一

 原稿執筆時点で、2020年も残りわずかになってきました。スタジオ造り第1期工事も間も無く終了で、ようやく7.1.2chの音が出せる段階に来ました。今回は一番苦労した電源工事の話をしようと思います。

フジクラ・ダイヤと住電日立
3.5sqと5.5sqを用意

 COVID-19の影響で、さまざまな物流障害の波がまさか電線にまで迫っていたとは思いもしませんでした。屋内配線のメインにしようとしていたのはフジクラ・ダイヤケーブル(FDC) CV-S 3芯 5.5sq(sq:スケア。電線の導体の太さを表す単位)。いつもお世話になっている近所のオヤイデ電気の本多さんに、在庫分のすべての5.5sqを押さえてもらいましたが、全然足りません。

 

 普段スタジオで使うのは2.0sq、太くても3.5sqが多いです。電線は太ければ太いほど良いという伝説がありますが、僕はその効果を知りません。聴き比べたことがないからです。なので、次への布石のために、2種類敷設してみようと思いました。しかし、残念ながら無いものは無い……。ではこのピンチをチャンスに変えられないか? 電源工事担当の星野徹さんに相談したところFDCと全く同じスペックの住電日立ケーブル(HS&T)CV-Sを見つけてくれました。

 

 一般的にはスタジオ=FDCというイメージがありますが、何事にも疑心暗鬼だった僕は、これを機に実験しようと2社のケーブルを使い分けることを決断。FDC CV-Sの3.5sq&5.5sq、HS&T CV-Sの3.5sq&5.5sq、これらに雑電を加えた5種類が聴けるようになります。

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天井から垂れ下がる3.5sqの電線。今回、アクティブ・モニターを採用しているため、ハイト・スピーカー用に天井にも電源敷設している。L/C/R、サイド、リアやサブウーファーはさらに太い5.5sqを使用予定

 電源ケーブルのシールド有無もかなり悩みました。実際自分はシールド無しの音が好きなんです。しかし、今のXylomania Studioはシールド無しのFC 8.0sq 2芯のケーブルが使われている部分があります。残りの部分も基本ノンシールドですが、定期的にスピーカーへ高周波が乗っていました。多分ビルのエレベーターが動いたときのインバーター・ノイズです。よって今回は安全を取ってシールド・タイプにします(このノイズはVOLT AMPERE GPC-TQで解決しました)。

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ノイズ対策を考えてシールド線を採用。銅箔のしっかりとしたシールドが巻かれている

電源にこだわるよりも
電源のこだわりが分かるスタジオを

 読者のほとんどの方は周知の通りですが、電源ケーブルを変えると音が変わります。壁コンセントを変えても。例えば、安い電材の最後15cmを高級ケーブルにしても音が変わります。ギター・アンプや、楽器ケーブルを変えるとその変化は、確実にマイクを通して記録されるので、効果はあるでしょう。

 

 ではパソコンの電源を変えると音が変わるのはどうでしょうか? 0、1で処理されたデジタル信号がまさか1、1になるわけではありませんね。あるいはモニター・スピーカーの音が電源ケーブルで変化する……これは聴こえている音が変わるだけで、録音される音には関係ありません。しかし、作品の仕上がりは変わります。それは聴いている音が変わるので、EQや音量バランス、人間のアナログ的処理が変わるからだと思っています。

 

 ここまで書くと分かるように、僕はあまり“電源信者”ではありません。ただ、電源ケーブルを変えたときにきちんと音が変わったことが分かる部屋を造ることが必要だと考えていました。そして、最後の追い込み部分で好みに応じて変えられるのが電源周りだと思っています。

 

 実は学生時代の僕は、電源に完全にハマっていました。専門学校の先生に詳しい方がいらっしゃいました。“Tuned by TAKA”と言えば分かる人には分かるでしょう。そんなTAKA先生の下、僕は1年生のときから電源ケーブルの比較をやっていましたし、電気工事士免許を持っている方に自宅の壁コンセントをPAD製に変えてもらい、ホスピタル・グレード(医療用)のパーツや、はたまたクライオ処理ブレーカーに変えたりしてました。PSE問題前だったのであまたの製品があり、実験する機会がいっぱいありました。ここまで書けば電源否定派ではないことを、少し信頼してもらえるでしょうか?

 

PANASONICホスピタル・グレードが使えず
工業用コンセントを採用

 ケーブルが決まった矢先、次の問題が発生します。せっかく星野さんに頑張った施工してもらった5.5sqのケーブル、太さがあるためPANASONICの壁コンセントに入らないんです。そんなこともあるのかと、いやぁもうびっくりです。

 

 日本でスタジオの電源コンセントといえばPANASONICの医療用グレード、WN1318K。しかし、意外と高いんです……。なぜスタジオなのに、医療用のコンセント?と疑問に思う方がいると思いますが、医療用機械を動かす電源パーツは、機械が誤作動したら致命的なので、より信頼性のあるものが使われる。実際、プラグもしっかりと接続されます。よく見るスタジオの赤色コンセントは117V用ですが、本来医療現場では、一般非常電源から供給されるコンセントとして使われるとのこと。ちなみに緑は無停電電源だそうです。

 

 スタジオは一般住宅に比べてかなりの数のコンセントを付けます。だったらもっと安くても信頼できるメーカーで、なおかつ太いケーブルが入るものはないのか?という疑問が湧き、検索の日々を過ごします。そこで見つけたのが主に工場用を手掛けるアメリカン電機(アメリカンなのに大田区)。同社の7210GDは2.6φ=5.5sqまで入るので電線の太さも生かせます。

 

 最大の悩みであるアースについては、今後なんとでもできるようにフレキシブルにしてあります。では、また次回。

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アメリカン電機のコンセント、7210GDに3.5sqの電源ケーブルを電気工事士の星野さんが取り付け

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右が7210GD。左の黒はFURUTECH FPX(CU)。OYAIDE R1も使用する予定

 

古賀健一

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【Profile】レコーディング・エンジニア。青葉台スタジオに入社後、フリーランスとして独立。2014年Xylomania Studioを設立。これまでにチャットモンチー、ASIAN KUNG-FU GENERATION、Official髭男dism、MOSHIMO、ichikoro、D.W.ニコルズなどの作品に携わる。また、商業スタジオやミュージシャンのプライベート・スタジオの音響アドバイスも手掛ける。
Photo:Hiroki Obara

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