過去60年間で閉店してしまったベルリンのクラブを記録
ベルリンという街は今や観光都市になりつつあるが、ヨーロッパのほかの大都市と比較するとこれといって視覚的に目立つ建造物などは少なく、特に町並みが美しいわけでもない……というか、どちらかといえば簡素で汚い。では何が魅力かといえば、ダイナミックな近代の歴史と文化、特にサブカルチャーである。
最近は観光旅行もガイドブックではなくスマートフォンを持ち歩く時代だが、まさに今ならでは、そしてベルリンならではのプロジェクトが実現した。数年前から存在していたベルリン市が後援する無料のスマートフォン向けアプリ、berlinHistoryは、ベルリンの地図上に歴史スポットが表示され、街歩きをしながらインタラクティブに歴史を学べるというもの。関心対象に合わせて“壁”や“スポーツ”といったテーマが選べるようになっており、そこに“クラブの歴史”というテーマが追加された。
ベルリンのクラブ事業者団体Clubcommissionの協力を得て実現したというこのClubHistoryプロジェクトは、アプリ内の地図上に過去60年間で閉店してしまったベルリンのクラブを記録しておこうというもの。アプリを開くと、店の名前や何年から何年まで営業していたのか、どのような店だったのかが写真とともに掲載されており、その所在地が分かるようになっている。あらためて見てみると、Bar 25やIcon、Cookies、Maria am Ostbahnhofなど、筆者も行ったことがあるが今はもう無くなってしまった店が出てきて懐かしくなった。地図上で見てみると、再開発が進んだミッテ地区に閉店してしまった店が多いことにも気付く。
残念ながら日本語には対応していないが、英語には対応しているので、ベルリンを訪れる際はインストールしてみてはどうだろうか。もちろんベルリンに来なくともアプリは無料でインストールできるし、日本からでも閲覧することができる。“東ベルリン/西ベルリンのクラブ”“クィア・クラブ”といったカテゴリー分けとその説明も加えられており、歴史的、文化的な背景の理解もうながすような作りになっている。
ClubHistoryプロジェクトから、クラブのようなサブカルチャーにおいても、それを担う当事者たちが普段から自分たちの文化やその文化が持つ意義について、一般社会や来訪者がアクセスしやすい形で伝えようと努めていることがよく分かる。ドイツはコロナ禍においてもクラブ・カルチャーを含む文化事業への公的な支援が手厚いことで話題になったが、これは普段からこういった努力を続けていることの結果だろう。
浅沼優子/Yuko Asanuma
【Profile】2009年よりベルリンを拠点に活動中の音楽ライター/翻訳家。近年はアーティストのブッキングやマネージメント、イベント企画なども行っている