Berlin Calling〜第85回 ロシアのウクライナ侵攻〜電子音楽シーンにできること

ウクライナの電子音楽シーンが支援を求める声明を公開

 もう約2カ月間、世界を震撼させているウクライナの惨劇。ベルリンに居ると地理的な近さのみならず、特にクラブ・カルチャーにかかわっている者は相互交流が盛んなため、非常に身近な問題に感じる。事実、キエフなどからベルリンに避難してきた人はとても多い。キエフの老舗クラブCloserはこれまでに日本人DJも多く招聘してきたし、レイブ・イベントCxemaや2019年末にオープンしたばかりのクラブ∄などは、ヨーロッパ中にその評判を轟(とどろ)かせていた。避難してきた人たちは、ここでも祖国を支援するさまざまな活動をしている。そんな活動の一部を紹介したい。

 3月4日、∄が運営するレコード・レーベルStandard Deviationが緊急支援デジタル・コンピレーションを発表。『Together For Ukraine』(ウクライナと共に)と題された本作にはヨーロッパで活躍するアーティストらから65曲が寄せられ、Bandcampで30ユーロで販売されている。収益はLGBTQIA+の人々や子供などへの人道支援を行う団体に寄付される。

キエフのレーベル、Standard Deviationが侵攻開始後驚異のスピードでまとめあげたチャリティ・コンピレーション。ベルリンからも多くのテクノ系アーティストが参加。Bandcampから購入可能

 3月5日には“ウクライナ電子音楽シーンからの公開書簡”と題された文書が、ウクライナのクラブやレーベル、アーティストなどの連名で公開された。ここには“私たちと共にロシアによる攻撃と戦ってほしい”ということと、その方法が具体的に示されている。ロシアによる軍事侵攻を批判しないロシア系アーティストや企業、組織などとは協力しないこと。ロシアの市民にロシア政府に抗議するよう促すこと。ロシア政府と関係を持つ者を組織から追放すること。ロシア政府に関係する組織からのスポンサーや資金援助は受けないこと。誰もが平和を願っているとは思うが、鳩やハートなどのシンボルを掲げて天に祈るだけでは戦争は止まらない。現実に起こっていることに目を向けて、ロシアに攻撃を止めさせるための行動を取ってほしいということが強調されている。

ウクライナの電子音楽シーンの施設やレーベル、アーティストが連名で発表した公開書簡

 ベルリンに避難してきた∄のスタッフが中心となり、3月9日にはクラウドファンディングが立ち上げられた。“∄ コミュニティ基金”と名付けられ、8万ユーロ(約1千万円)を集めることを目標としている。150名のスタッフや、1万6千人のクラブを中心としたコミュニティ、現地の文化セクターの人々の支援に使われるとのこと。この原稿を執筆した時点で5万ユーロ近くが既に集まっている。

 支援や応援の仕方はさまざまだが、ウクライナの電子音楽家やクラブ・シーンに共感する方は、いずれかの方法でぜひご協力を!

 

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浅沼優子/Yuko Asanuma

【Profile】2009年よりベルリンを拠点に活動中の音楽ライター/翻訳家。近年はアーティストのブッキングやマネージメント、イベント企画なども行っている