ギタリストならばアンプにこだわりを持つのも自然のこと。しかし、意外に難しいのがこのアンプの録音です。見よう見まねでマイクを立てて録ってみても、演奏しているときのような迫力あるサウンドにならないと悩んでいる人も多いでしょう。この特別企画では、主要なギター・アンプの特徴や使われるシチュエーションを押さえながら、どうやって録れば演奏しているときに感じているような迫力あるギター・サウンドが録れるのかを指南していきます。自宅やリハスタでぜひ挑戦してみてください。
Photo:Hiroki Obara
※本記事はサウンド&レコーディング・マガジン 2016年11月号より転載しています
トランジスター・アンプの雄
ROLAND JC-120を録る!
左右のスピーカーを同一のマイクで録る
ROLAND JC-120は今回唯一のトランジスター・アンプ。1980年代のクリーン・サウンドを象徴するアンプと言えるでしょう。これもオンマイクにMD421+R-121、オフマイクにC414B ULS×2を使用して録ってみます。JC-120はオンマイクがややピーキーに感じられるので、20cm程度に離しました。オフマイクは約70cmの位置に設置します。確かにクリーンですが、独特のサウンドで、コンプをかけなくてもアタックがそろったような印象がありますね。1980年代的とも言える、JCでしか出せないサウンドだと思います。
さて、JC-120の特徴と言えば、コーラスを内蔵している点です。このコーラスを使うときには、左右のスピーカーのマイキングをそろえてあげてください。ここでは両方にMD421を使用することにしました(写真①)。JC-120のコーラスは、片方のスピーカーからはエフェクトの無いドライ音を、もう片方からピッチにモジュレーションのかかったエフェクト音を出力して、コーラス効果を得るという仕組みです。ですので、両方のスピーカーを同じ条件で収音してあげる方が、はっきりと効果が感じられます。また、ドライとウェットが空間で合成されるので、オフマイクの音をブレンドするのも有効。ここではオンマイクに対して、−4dB程度の音量で加えています。
ほかのアンプ・ヘッドをつないでみる
近年は、ペダル型やラック型のモデリング・プリアンプを使っているギタリストが、ライブやリハーサルではこれを他のギター・アンプのパワー・アンプ入力に接続して演奏するケースも多くなってきています。そうした用途にJC-120がよく使われるということで、これも試してみました。Daichiさん所有のモデリング・アンプKEMPER Kemper Profiler Headの出力を、JC-120のエフェクト・リターンに接続(写真②③)。これで回路的にはパワー・アンプとスピーカー・ユニットのみ、JC-120を使用する形になりました。モデリングの元となっているのはBOGNER Extacyで、ハイゲインなこのモデリング元の特性に合わせて、ハイゲイン・アンプの項と同様、ギターはPAUL REED SMITH 513での演奏です。
あらためてオンマイクをMD421とR-121の組み合わせに戻し、20cmの位置に設置。オフマイクの位置は変わらず70cmとします(写真④)。録音したサウンドはMD421を中心に、オフマイクをそれから−3〜4dBと多め、R-121はMD421から−12dB程度と、“ちょっと低域を足す”程度にとどめました。意外なくらい、JC-120本来の音と違うものになっているのに驚きました。そう考えると、JC-120の独特なサウンドはプリアンプ部に寄るところが大きいと言えるでしょう。
デモ・サウンドをまとめて聴く
使用スタジオ&収録機材紹介
演奏
鈴木“Daichi”秀行(左)
サウンド・クリエイター、作編曲家、マルチプレイヤー。アイドルからバンド・プロデュースまで、ヒット作のアレンジを多数担当。録音機器に対する造詣も深く、自身のStudio Cubicにさまざまな機材や楽器をそろえる
録音/解説
永井はじめ(右)
1989年よりレコーディング・エンジニアとしてのキャリアをスタート。石井竜也、K、柏木由紀、ORANGE RANGEほかの諸作でプロデュース、レコーディング、ミックスなどマルチに活躍。電子音楽ユニット“電子海面”のメンバーでもある
※本記事はサウンド&レコーディング・マガジン 2016年11月号より転載しています