ハイゲイン・アンプをマイクで録る! 〜アンプ・タイプ別 ギター録音マニュアル(4)

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ギタリストならばアンプにこだわりを持つのも自然のこと。しかし、意外に難しいのがこのアンプの録音です。見よう見まねでマイクを立てて録ってみても、演奏しているときのような迫力あるサウンドにならないと悩んでいる人も多いでしょう。この特別企画では、主要なギター・アンプの特徴や使われるシチュエーションを押さえながら、どうやって録れば演奏しているときに感じているような迫力あるギター・サウンドが録れるのかを指南していきます。自宅やリハスタでぜひ挑戦してみてください。

Photo:Hiroki Obara

※本記事はサウンド&レコーディング・マガジン 2016年11月号より転載しています

ラウド/メタル系の必須サウンド
ハイゲイン・アンプを録る!

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Amplifier:KOCH Supernova 120+ORANGE PPC212
Supernova 120は出力120W、5ch構成の真空管アンプで、ここでは最もハイゲインなch5を使用。スピーカーの振動を電気的にコントロールするDamping機能も内蔵する。キャビネットのPPC212は12インチ・ユニットを2基搭載したモデル

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Guitar:PAUL REED SMITH 513
シングル・ピックアップを5基搭載し、シリーズ/パラレルの組み合わせで13種類のサウンドが得られる

オフマイクは使わずタイトな音を狙う

 続いてはハイゲイン・アンプです。ラウド系ロックで聴けるような激しいディストーション・サウンドを特徴としています。今回はDaichiさん所有のKOCHのアンプ・ヘッドSupernova 120と、ORANGEのキャビネットPPC 212という組み合わせを使っての収録です。

 ここではオンマイクのMD421とR-121は割と近めの設定。Twin Reverbのときとほぼ同じで、キャビネットから約15cmの位置としました(写真①)。譜割りの細かいフレーズのアタック感をよりしっかりとらえるのが目的です。オフマイクの無い状態で聴くと、ザクザクとしたディストーションの刻みが心地良く感じます。

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写真① ハイゲインでは、スピーカー・ユニットやキャビネットの共振により、リリースが長く感じてしまうのを避けるため、オンマイクだけにした方がよい結果が得られる。オンマイクの2本も15cmと近めの設定。こうしたキャビネットや空間を嫌って、アンプ・ヘッド+スピーカー・シミュレーターや、アンプ・シミュレーターを使うケースも多いが、マイキングの工夫でアンプ録りでも使えるサウンドとなる

 このとき、結果として両方のマイクはブレンド量が同じくらいになりましたが、混ぜていくときの感覚としては、R-121の太い部分に、MD421のジャキジャキした部分を徐々に足していくのが、こうしたディストーション・サウンドの場合は有効だと思います。

 オフマイクは、キャビネットから85cm程度の位置に立てましたが、これを混ぜて聴いてみると、ゴチャゴチャとしてしまい、フレーズが聴き取りづらくなります。


 また、こうしたハイゲイン・アンプではつい音量を上げたくなりますが、そもそもマイクはそこまで大音量の入力を想定していません。アンプも拡声のためのものなので、マイク録音するためにあるわけではありません。ですから、アンプにマスター・ボリュームがある場合は、マイクプリのゲインが適正位置まで上げられるくらいまで音量を下げてみるとよいでしょう(写真②)。

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写真② マスター・ボリューム(ここでは上段のMaster-2)のあるアンプは、ある程度ここで音量を絞っておくと、ブース内の反射の影響を減らすことができる。また、マイクのダイアフラムにかかる負担も減り、マイクプリのゲインもおいしいポイントまで上げられるようになるなど、メリットが大きい

ダブルでのステレオ・オフマイクの生かし方

 こうしたラウド系のプレイでよくあるのは、同じフレーズをユニゾンで重ねる、いわゆるダブルです。シングルと同じマイキングで同じ演奏を2テイク録音し、左右に振り切ると重厚なサウンドとなります。

 ここではシングルのときと同様、演奏内容を考えてオフマイクは使いませんでしたが、一般的にはギター2本を左右に振り分けるときに、オフマイクをステレオ収録しておくのは有効なテクニックです。MARSHALLの項で説明しましたが、点音源化を避けて、奥行きや広がりが感じられる音場を作れるというのがまず第一の理由。もう一つ、ドラムやベース、ボーカルが入ってきたときに音像をコントロールしやすいということも挙げられます。例えばオフマイクも含めてセンターを開けておけばボーカルやベースなどセンターに定位する楽器のスペースを作ることができます(図①)。場合によってはオフマイクを逆サイドに振って、センターが抜けないような音像にを作ることもあります。オフマイクがステレオならば、左右の広げ具合もコントロールできます。

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図① ギター2本とステレオ・オフマイクの関係。ここではオンマイクの定位に合わせてオフマイクも左右に少し開くことで、センターを開けてボーカルやベース、ドラムなどの居場所を作っている。逆に、オンマイクとは逆サイド側にオフマイクをパンニングして、センターの音抜けを防ぐといった使い方も可能だ

デモ・サウンドをまとめて聴く

 

使用スタジオ&収録機材紹介

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今回使用したのは鈴木“Daichi” 秀行氏のスタジオ、Studio Cubic。録音用DAWには AVID Pro Tools|HDXを使用。多数のアウトボードが並ぶさまが圧巻だ

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収録に使用したマイク。左のSHURE SM57は比較検証用。続くSENNHEISER MD421とROYER R-121は永井氏がよく使用するコンビだが、“読者の方は目的に合わせて自分の好きな組み合わせで”とアドバイスをいただいた。右はオフマイクに使用するAKG C414B XLS

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収録に使用したマイクプリは中段にある白いパネルのRUPERT NEVE DESIGNS 5024。EQなどを搭載しない単体のマイクプリで、Studio Cubicのラインナップ中で比較的音質がナチュラルであり、4ch分そろっているというのが選定の理由となった

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演奏
鈴木“Daichi”秀行(左)
サウンド・クリエイター、作編曲家、マルチプレイヤー。アイドルからバンド・プロデュースまで、ヒット作のアレンジを多数担当。録音機器に対する造詣も深く、自身のStudio Cubicにさまざまな機材や楽器をそろえる

録音/解説
永井はじめ(右)
1989年よりレコーディング・エンジニアとしてのキャリアをスタート。石井竜也、K、柏木由紀、ORANGE RANGEほかの諸作でプロデュース、レコーディング、ミックスなどマルチに活躍。電子音楽ユニット“電子海面”のメンバーでもある

 

※本記事はサウンド&レコーディング・マガジン 2016年11月号より転載しています

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