MARSHALLスタック・アンプをマイクで録る! 〜アンプ・タイプ別 ギター録音マニュアル(2)

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ギタリストならばアンプにこだわりを持つのも自然のこと。しかし、意外に難しいのがこのアンプの録音です。見よう見まねでマイクを立てて録ってみても、演奏しているときのような迫力あるサウンドにならないと悩んでいる人も多いでしょう。この特別企画では、主要なギター・アンプの特徴や使われるシチュエーションを押さえながら、どうやって録れば演奏しているときに感じているような迫力あるギター・サウンドが録れるのかを指南していきます。自宅やリハスタでぜひ挑戦してみてください。

Photo:Hiroki Obara

※本記事はサウンド&レコーディング・マガジン 2016年11月号より転載しています

ハード・ロックの王道
MARSHALLスタック・アンプを録る!

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Amplifier:MARSHALL JCM2000+1960A
一口にMARSHALLのヘッドと言ってもさまざまなタイプがあるが、このJCM2000(TSL100)は比較的モダンな3ch仕様で出力は120W。プリ管にECC83×4、パワー管にEL34×4を使用する。キャビネットの1960Aは12インチ・スピーカーを4発搭載する

Guitar:ADDICTONE LP Model
2ハムバッカーの伝統的なスタイルをしたカスタム・モデル。本項ではリア・ピックアップで演奏している

役割の異なるマイク2本を“少し離しめ”で

 まずハード・ロックの王道的サウンド、MARSHALLのスタック・アンプから始めてみましょう。ライブでよく見かけるような、ネットから1cm離してSM57を立てるセッティングの音から聴いてみます(写真①)。

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▲写真① PA現場などでよく見かけるセッティング。グリル・ネットから1cmくらいの位置にマイクを設置している。ライブではアンプの生音が客席まで聴こえることも多く、ほかの音の回り込みを嫌ってこうしているのだと思われるが、レコーディングでこの設定がベストとは限らない

 続いて、同じ距離で私がよく使うマイクに変えてみました。MD421は音の抜けを狙うために使うマイクで、聴いてみると、SM57と印象は近いと思いますが、より“立った音”です。


 

 一方、R-121は太さを狙うためのマイク。単体で聴くとあまりパッとしないかもしれませんが、SM57やMD421と比べると低域の太さが感じられます。また双指向であるため、アンプを鳴らしている空間の回り込みの影響もあります。


 

 このMD421とR-121を同じ定位でミックスすると、アタックと太さを兼ね備えた音になります。ここではMD421より8dB程度低いレベルでR-121を足してみました。このように2本のマイクを立てるときは、位相がそろうようにキャビネットから同距離にするのが大原則です。


 

 この最初の設定でも悪くはないのですが、少し詰まった小さい音像になっていて、大型アンプのワイルドな感じが少し足りない気がします。そこで、このMD421とR-121をキャビネットから20cm程度まで離してみます(写真②)。2つを先ほどと同じ比率でミックスすると、より明るくオープンな音になるのが分かるでしょうか?


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▲写真② MD421(左)とR-121(右)を20cmの位置に設置。狙っているユニットは別々だが、各ユニットで狙う位置は同じ  まず、マイクを離したことで、近接効果による低域の膨らみ具合が減ります。そして、スピーカー・コーンのより広い面をマイクが狙うと同時に、離れることでピークが減り、音像が大きく感じられるようになりました(図①)。

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▲図① 距離1cmと20cmで、狙う範囲が大きく変わる。少し離した方がコーン全体の振動をとらえやすくなる。また、近接効果(単一指向性のマイクが音源に近付くと低域が膨らむ特性)も減るので、よりフラットにマイク本来のキャラクターが現れることになる

オフマイクで“点”音像を回避する

 このオンマイクのペアをミックスの中で使うと、点のように定位置に定位することになります。音数の多い楽曲でギターが常に右寄りに定位する、といった場合はいいのですが、例えば3ピース・バンドなどの場合は、ドラムのキック、スネア、ベース、ドラム、ボーカルといった主要な要素がすべてセンターに定位して、左右に広がる要素がシンバルとタムのみになってしまいます。それを解消するのに有効なのがオフマイクです(図②)。

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図② オンマイクにオフマイクを加えた際の音像のイメージ。オフマイクをステレオにすることで、左右の広がりも得られる。オンマイクの定位を動かしても、オフマイクの音像が後ろを支えてくれる

 今回は、C414B XLSをステレオ・ペアで、アンプから35cm程度のところに立ててみました。キャビネット全体を狙うイメージです。このオフマイクはMD421に対して−12dB程度、これに合わせてR-121はさらに3dBくらい下げています(写真③)。


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▲写真③ 35cmの位置にC414B XLSを単一指向性のステレオで立てる。少しハの字型に開き、アンプ全体をカバー。コンデンサー・マイクのC414B XLSを使用するのは、できるだけ広い周波数レンジを収めるのが狙い

 このオフマイクを立てるときは、位相に注意しましょう。ここではキャビネットから35cmに置いてみましたが、それは聴いてみて調整した結果です。聴いてみて、明らかに痩せていたり、おかしな音の場合は、マイクの位置を少しずつ離してみたり、機材のスイッチやプラグインで位相を反転してみたりして、耳で確認してください。


 

デモ・サウンドをまとめて聴く

使用スタジオ&収録機材紹介

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▲今回使用したのは鈴木“Daichi”秀行氏のスタジオ、Studio Cubic。録音用DAWにはAVID Pro Tools|HDXを使用。多数のアウトボードが並ぶさまが圧巻だ

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▲収録に使用したマイク。左のSHURE SM57は比較検証用。続くSENNHEISER MD421とROYER R-121は永井氏がよく使用するコンビだが、“読者の方は目的に合わせて自分の好きな組み合わせで”とアドバイスをいただいた。右はオフマイクに使用するAKG C414B XLS

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▲収録に使用したマイクプリは中段にある白いパネルのRUPERT NEVE DESIGNS 5024。EQなどを搭載しない単体のマイクプリで、Studio Cubicのラインナップ中で比較的音質がナチュラルであり、4ch分そろっているというのが選定の理由となった

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演奏
鈴木“Daichi”秀行(左)
サウンド・クリエイター、作編曲家、マルチプレイヤー。アイドルからバンド・プロデュースまで、ヒット作のアレンジを多数担当。録音機器に対する造詣も深く、自身のStudio Cubicにさまざまな機材や楽器をそろえる

録音/解説
永井はじめ(右)
1989年よりレコーディング・エンジニアとしてのキャリアをスタート。石井竜也、K、柏木由紀、ORANGE RANGEほかの諸作でプロデュース、レコーディング、ミックスなどマルチに活躍。電子音楽ユニット“電子海面”のメンバーでもある

 

※本記事はサウンド&レコーディング・マガジン 2016年11月号より転載しています

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