「SEQUENTIAL Pro3 SE」製品レビュー:ステップ・シーケンサーを装備したアナログ×デジタルのモノ・シンセ

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 筆者が本誌でSEQUENTIAL(当時はDAVE SMITH INSTRUMENTSというメーカー名でしたが)のモノフォニク・シンセサイザーPro2をレビューしたのが201411月号。圧倒的とさえ言えるスペックを駆使して作られたサウンドの数々に、あらためてシンセサイザーの表現力が無限であることを思い知り、強烈な印象を受けたのを今でも鮮明に覚えています。同時にPro2を今後超えるシンセサイザーが出てくることは、開発者のデイブ・スミス氏以外ありえないとも思ったわけですが……あれから約6年。彼の手によってリニューアルされたのがPro3 SEです。今度はどう驚かせてくれるのでしょうか? じっくりPro3 SEをレビューしていくとします。

オシレーターはアナログ×2とデジタル×1
モジュレーション・マトリクスも搭載

 今回レビューするPro 3 SEはパネルがチルト・アップ可能で、フロントとサイドにウォルナット・パネルを装着していますが、スタンダードなPro3(オープン・プライス:市場予想価格219,800円前後)もリリースされており、音源部はどちらも同じです。

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Pro3 SEはパネル部分がチルト・アップする。サイドにもウォルナット製のウッド・パネルを採用。左端のホイール手前にはヘッドフォン出力(ステレオ・フォーン)が用意されている

 Pro3 SEはアナログ×デジタルのハイブリッド・モノフォニック・シンセです。オシレーターはアナログ×2とデジタル×1という構成。フィルターは3種類を使い分けが可能です。エンベロープ(EG)4基、LFO3を基配備。エフェクトも2基用意し、モジュレーション・マトリクスも実装しています。そしてPro3 SEのキモとなるのはステップ・シーケンサー。フレーズを生成したり音色を磨いたりと、多様な使い方が考えられます。音色はメモリー可能。外部とのやりとりはMIDIに加え、オーディオ入出力やCV入出力も搭載し、盤石な布陣です。

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リア・パネル。左端からUSB(MIDI入出力用)をはじめMIDI IN、OUT&THRU、フット・スイッチ入力(フォーン)、ペダル入力(TRSフォーン)、CVイン/アウト×4、Gateアウト、オーディオ入力(フォーン)、オーディオ入出力L/R(フォーン)を搭載する

 Pro3 SEは、箱から取り出して感嘆の声がこぼれるほど格好良いです。つまみの配列が分かりやすく、メインとなる信号の流れがすぐに理解できます。鍵盤はFATARの37鍵セミウェイテッド・タイプを採用。ライト・アップされたホイールとタッチ・センサー、色の違いで情報を示すシーケンサーのLEDなど、見事なデザインです。

 

 オシレーター1、2はアナログ。波形は三角/ノコギリ/矩形をスウィープで変化させるタイプなので、三角とノコギリの中間や、ノコギリと矩形の中間といった波形も生成できます。SHAPE MODノブで波形の幅を変更することも可能です。

 

 デジタルのオシレーター3はサイン/三角/ノコギリ/スーパー・ソウ/パルスに加え、32種類のウェーブテーブルも用意。LFOモードも備えています

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3基のオシレーター。OSC1、2がアナログで、OSC3がデジタルとなっている。波形はスウィープで変化させられる仕様を採用。OSC3はLFOとして機能させることもできる

 例えばオシレーター3でオシレーター1を変調したいなら、モジュレーション・セクションのソース・ボタンを押しながらオシレーター3のピッチ・ノブを回せばエントリー完了。次にデスティネーション・ボタンを押しながらオシレーター1のピッチ・ノブを回します。あとはアマウントを回し、好みのサウンドにするだけ。パラメーターはディスプレイに表示されます

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各種パラメーターはディスプレイに表示される。下部のボタンで設定項目を選択し、上部のツマミでパラメーターを操作可能。それぞれの操作子にはディスプレイの上下にガイドが表示される

 この調子で複数のターゲットに変調をかけられるのが、モジュレーション・マトリクス。32個のスロットを持ち、ソースが46種類以上、デスティネーションが171種類以上が用意されているので、足りないことはまず無いでしょう。ルーティングの流れはモジュラー・シンセのパッチングさながらで、片っ端から気軽に試せるのが楽しいです。

 

フィルターは3タイプから選択可能
過激な音を作るチューンド・フィードバック

 ミキサーは3つのオシレーターと外部オーディオ、ノイズのミックスをこなします。エンベロープ・フォロワーを使ってのCV変換にも対応しており、エンベロープ・フォロワーでオーディオをボルテージ変換し、カットオフやレゾナンスなどを制御可能。Pro2から継承されたユニークな機能の一つです。

 

 次は3種類のフィルターについて。一つはSEQUENTIAL Prophet-6と同じ4ポール仕様です。もう一つも4ポールですが、こちらはトランジスター・ラダーと呼ばれるMOOGシンセサイザーに採用されていたもの。最後はSEQUENTIAL OB-6のフィルターと同じ2ポール仕様です。レゾナンスとドライブで音色に粘りを付加させることも可能。ディスプレイで見ると、ラダー・フィルターでレゾナンスを使ったときの低域やせを補正するLadderResCompという項目がありました。研究熱心なスミス氏に脱帽です。

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フィルターは3タイプを用意。切り替えスイッチを下部に装備する。レゾナンスとドライブ・ノブによって、サウンドに粘りを付加することも可能だ

 変調系はLFO×3とEG×4がスタンバイ。LFOは三角/ノコギリ/逆ノコギリ/矩形/S&Hの5種類で、スピードは0.022~500Hzまでとかなり広範囲です。EG2基はフィルターとアンプに予約され、残りは未定義。いずれもADSRタイプでディレイ&ループさせられるのみならず、モジュレーション・マトリクスで複雑な変調信号を生み出すのも容易です。

 

 変調系に対し、直接オーディオ信号を加工するパラメーターもあります。エフェクトはステレオ・ディレイ、BBDディレイ、コーラス、フランジャー、フェイザー、リング・モジュレーション、ビンテージ・ロータリー・スピーカー、ディストーション、ハイパス・フィルター、スーパー・プレート・リバーブを収録。LFOやEG、シーケンサーなどで制御可能です。聞き慣れないパラメーターですが、チューンド・フィードバックという機能も実装。GRUNGEモードでは、過激なフィードバックで破壊的な音色が得られます。フィードバックは過激にかかるのに対して、ディストーションはまろやかな印象です。

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チューンド・フ ィードバック・セクション。GRUNGEボタンを押すと、過激なフィードバックにより、破壊的なサウンドを得ることができる

 

アルペジエイターとリンク可能な
16ステップ・シーケンサーを4基搭載

 個人的なPro3 SEのハイライトは4基の16ステップ・シーケンサー。4つをリンクさせれば、64ステップまで拡張可能です。1つのシーケンサーにつき16種類のパラメーターを制御でき、一瞬だけエフェクトをかけることもできます。このパラメーター調整、実際にやってみるとすごく面白いです。

 

 フレーズの入力は一音ずつプログラムしたり、鍵盤で音高を入力した後に音の長さを調節するのも良いですが、シーケンスを回しながら変更していくのが楽しいです。休符を入れたりタイでつなげたりといった操作はアナログ・シーケンサーより使いやすいですし、何より設定が保存できます。1ステップにノートを最大8つ入力できるラチェットは積極的に使いたい機能。各ノートをなめらかにつなげるスルーやテンポ・スウィングも、強力な武器として使いたいですね。

 

 シーケンサーの再生は正/逆/ランダムの3種類。鍵盤をトリガーにしてステップを送ることもできます。Pro3 SEはアルペジエイターを搭載しているのですが、なんとシーケンサーとリンクさせることも可能。フィルターのカーブだけをプログラムしてパターンはアルペジエイターで決める、ということができるわけです。CV入出力で外部のモジュールとリンクさせ、システムの中枢としてPro3 SEを使うのもありですね。

 

 Pro3 SEは3つのオシレーターを分離させ、3和音まで鳴らせるパラフォニック・モードがあり、シーケンサーの3つのトラックにそれぞれ記憶できます。シーケンサーの各トラックをリンクさせることで、あたかも3つの音を個別に制御しているように鳴らせるのです。音色メモリーはユーザー512種類とファクトリー512種類を用意。ファクトリー・メモリーはシーケンスによる制御も行えるようにプログラムされています。あなたが初心者だとしても、好きなサウンドを分解して研究することで、理解を深められることは間違いありません。

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16ステップ・シーケンサー。1ステップにノートを最高8つま登録できるラチェットや、ノートをなめらかにつなげるスルー、リズムを揺らすテンポ・スウィング機能などを備える。最大4つ(A/B/C/D)のシーケンスを保存可能でき、4つをつなげて64ステップで扱うことも可能だ

 肝心の音は、Prophet-5やPro-Oneに通底する少し甘酸っぱい中高域のサウンドが感じられます。あの三角波のほんわかとした質感も健在。スミス氏の優れた耳と自社製品へのこだわりは今も健在、といったところでしょうか。

 

 基本操作はパネルで十二分にこなせて、ウルトラ・マニアックな設定はディスプレイから行う、というスタンスのPro3 SE。非常に扱いやすくかつ奥が深いシンセサイザーは、長く使えること間違いなしです。Pro3 SEはあらゆる面で絶賛に値する至高のモノ・シンセであると断言します。

 

SEQUENTIAL Pro3 SE

オープン・プライス(市場予想価格:269,800円前後)

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SPECIFICATIONS ▪オシレーター:アナログ(三角/ノコギリ/矩形)×2、デジタル(サイン/三角/ノコギリ/スーパー・ソウ/可変矩形/ウェーブテーブル)×1 ▪フィルター:フィルター1&2(4ポール、−24dB/oct)、フィルター3(2ポール、−12dB/oct) ▪LFO:3基(三角/ノコギリ/逆相ノコギリ/矩形/S&H) ▪エンベロープ:4基(ADSR) ▪モジュレーション・マトリクス:32スロット(ソース46種類以上、デスティネーション171種類以上) ▪16ステップ・シーケンサー:4基(ノーマル/ゲーテッド/トリガー) ▪メモリー:ユーザー・プログラム512種類、ファクトリー・プログラム512種類 ▪その他:チューンド・フィードバック、アルペジエイター、デジタル・エフェクト(11種類)など ▪外形寸法:685(W)×131(H)×368(D)mm ▪重量:12.25kg

 

製品情報

fukusan.com

 

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