「DAVE SMITH INSTRUMENTS Prophet Rev2」製品レビュー:Prophet '08の機能を拡張した16ボイス対応アナログ・シンセ

DAVE SMITH INSTRUMENTSProphet Rev2
Prophet Rev2という名前を見て、“おっと、ついに伝説のSEQUENTIAL Prophet-5 Rev2が復刻か?”と早とちりしたのは筆者だけではないと思います。このProphet Rev2は、約10年前に登場してロングセラーとなっていたProphet '08を大々的にブラッシュ・アップして、Rev2としてリニューアル・デビューさせたシンセです。早速レビューに入りましょう。

異なる音色を同時に使えるバイティンバー
スタック・モードとスプリット・モードを搭載

Prophet Rev2は16ボイス仕様のアナログ・シンセです(8ボイス版もラインナップ/市場予想価格:213,000円前後)。5オクターブ鍵盤(61鍵)搭載で奥行き322mm程度と、非常にコンパクトな印象。筆者のような昭和時代からアナログ・シンセと対峙してきた者からすると、“へー、16ボイスでこんなに小さくできるんだ”と感慨ひとしおですね。サイド・パネルがウッド、トップ・パネルは黒を基調にしたデザインは、1970年代の元祖Prophetシリーズと基本的には同じ系統のもの。そのDNAが脈々と受け継がれていることをにおわせています。

内部仕様の概略を紹介しましょう。オーディオ経路は、オシレーター→フィルター→アンプまでアナログ。その後のエフェクトはデジタルですが、オフにした場合エフェクト回路は完全にスルーされ、ダイレクトにアナログで出力されるという徹底ぶりです。鍵盤はベロシティ、アフタータッチ対応のセミウェイテッド仕様。タッチも良好なのでマスター鍵盤としても使えるでしょう。エフェクトはディレイ、コーラス、フェイザー、フランジャー、リバーブ、リング・モジュレーター、ディストーション、ハイパス・フィルターが備わっています。ディレイは、クラシックなデジタル・ディレイやアナログ時代の定番であるBBD素子のエミュレーションがあったり、フェイザーとリング・モジュレーターはトム・オーバーハイムがかつて1970年代に作ったものをエミュレートするなど、ちょっとニヤリとさせる仕様がうれしいです。

プリセットはファクトリー・バンクとユーザー・バンクに同じものが512ずつ保存されており、その音色群はどれも非常によくできています。即戦力、あるいは音作りのテンプレートとして重要な働きを見せてくれることは間違いないでしょう。どの音色を聴いても往年のProphetっぽい質感があり、初めてProphet-5を触ったときのようなワクワクする感じを思い起こさせてくれます。

また、Prophet Rev2は2種類の音色が同時に使えるバイティンバーを新たに採用。レイヤーして鳴らすスタック・モードと、鍵盤を任意の位置で分割して8ボイスずつ演奏できるスプリット・モードを搭載しています。ちなみに、マニュアル無しで本機をどこまで操作できるのかトライしてみたところ、ほぼ直感的に動かせました。アナログ・シンセをオペレートできる方ならすぐに使えるでしょう。

8つのモジュレーション・スロットで
有機的なサウンドを生み出せる

では細かく見ていきましょう。トップ・パネルの中央やや左下側にあるOSCILLATORSセクションには、DCOが2基搭載されています(写真①)。16Hzから8kHzまで、9オクターブをカバーでき、波形はノコギリ波、ノコギリ/三角波Mix、三角波、矩形波の4種類から選択可能。SHAPE MODノブは波形の幅をモジュレートすることができるので、音作りする上で重要な調味料となります。OSC 1側には、オクターブ下の矩形波を追加するSUB OCTAVEノブを用意。オシレーター・シンク機能とホワイト・ノイズも装備しており、これまた往年のProphetサウンドでニンマリしてしまいました。

スクリーンショット-2017-08-24-17.55.56 ▲写真① トップ・パネルのオシレーター・セクション。2つのオシレーターではノコギリ波、ノコギリ/三角波Mix、三角波、矩形波が選択できる。写真右側には波形の幅を変化させるSHAPE MOD、1オクターブ下の矩形波を追加するSUB OCTAVE、ホワイト・ノイズを加えるNOISE、OSC 1とOSC 2のバランスを調整するOSC MIX、オシレーターのゆらぎを再現するOSC SLOPのノブが備わっている

OSCILLATORSセクションの右側にあるLOW-PASS FILTERセクションは、CURTIS製チップが採用されたローパス・フィルターが搭載され、2ポール(−12dB/Oct)と4ポール(−24dB/Oct)を切り替えて使うことが可能です。そのフィルターの見事な切れ味には“シンセってフィルターが大事だよな”と痛感させられます。レゾナンスとのバランスも良く、自己発振させて短いフィルター・エンベロープと組み合わせた際の“ガキッ”“バチッ”という音の骨太さ、レゾナンスを上げていったときのシャープなクセなど、これぞProphetシリーズに通底する質感です。VELOCITYノブはベロシティ値でカットオフの開き具合を変化させます。Prophet Rev2の鍵盤は良好な反応をみせてくれるので、鍵盤のタッチでフィルターをコントロールすると非常に面白い効果が期待できますね。

Prophet Rev2のパネルには、3つのエンベロープと4つのLFOが用意されています。2つのエンベロープはフィルターとVCA用で、3つ目のエンベロープはAUXILIARY ENVELOPEと呼ばれ、変調先を指定することができます(写真②)。試しに片方のオシレーター周波数を変調先に選び、OSCILLATORSセクションのSYNCボタンをオンにすると……おお! Prophet-5経験者ならみんな小躍りするであろう、あの“ギョワ〜ン”という独特のオシレーター・シンク・サウンドが飛び出しました。Prophet Rev2のエンベロープは、一般的なADSRに加えてDELAYがあるので、より変化のある動きをさせるときに有効です。また、一定区間をリピートさせて、“変わった形のLFO”としても使用できます。

スクリーンショット-2017-08-24-17.56.27 ▲写真② AUXILIARY ENVELOPEセクション。DESTINATIONノブで指定した変調先をモジュレートできるエンベロープだ。ATTACKやDECAYなどのパラメーターに加えて、DELAYが備わっている。VELOCITYノブを調整すると、キーボードのベロシティの強さでエンベロープのアマウントをモジュレート可能

4つのLFOはそれぞれ三角波、ノコギリ波、逆ノコギリ波、矩形波、ランダム波の5種類の波形が選択可能。そのうち三角波とランダム波はバイポーラー(振れ幅がプラスとマイナスにまたがる)です。また、周波数は0.022Hz〜500Hzと可聴域にまで達するので、FM用としても使えますね。

Prophet Rev2はこれら以外にも豊富なモジュレーション・ルーティングが組めるようになっているのが特徴です。MODULATIONセクションで選べるモジュレーション・ソースは22種類、デスティネーションは53種類にも及びます。音色の作成はもちろん、LFOのスピードに合わせてリバーブ・ミックスが変化する、というような有機的なサウンド・パターンを生み出すことも可能です。さらに、モジュレーション・スロットはProphet '08の倍である8つになりました。1つのソースで複数のデスティネーションをコントロールしたり、あるスロットのアマウントをLFOで増減するなど、アイディアがいくつも浮かんできます。

簡単に入力できるシーケンサー部
モジュレーション・ソースとしても使える

DAVE SMITH INSTRUMENTS製品ではおなじみのアルペジエイター&シーケンサーも健在です。両方ともリア・パネルに入力したキックなどのオーディオ信号と同期させることが可能。もっと正確性を望むなら、MIDIクロック(MIDI端子/USB端子の両方が対応)を使えば盤石です。

アルペジエイターは上昇、下降、ランダムなどのモードが用意されており、ホールドも可能。便利この上ないのが、隣のCLOCKセクションにおけるタップ機能です。TAP TEMPOボタンでテンポが設定でき、DIVIDEを使って1音の音価(2分〜64分音符、各3連符、スウィング)を変更することができます。

シーケンサーは1トラック/64ステップのポリフォニック・シーケンサーと、4トラック/16ステップのゲート・シーケンサーの2種類のモードがあります(写真③)。前者のポリフォニック・シーケンサーは、RECORDボタンを押して鍵盤で任意の音階を入力すれば完了。休符、タイもボタンを押すだけで入力できて非常に簡便です。このポリフォニック・シーケンサーで作成したシーケンス・パターンは音色と一緒にセーブすることができ、ファクトリー・プログラムにもそれぞれパターンが保存されています。SEQUENCERセクションのPLAYボタンをオンにしてプリセットを選ぶとシーケンスが再生され、その音色がどういう使い方を狙って作られたのかが分かります。

スクリーンショット-2017-08-24-17.58.42 ▲写真③ SEQUENCERセクション。ポリフォニック・シーケンサーは64ステップで、1ステップにつき6音同時に再生できる。ゲート・シーケンサーは16ステップで4トラックが使用可能。モジュレーション・ソースとして使える

もう一つのゲート・シーケンサーは、DESTINATIONボタンから選んだ変調先に対してモジュレーションを行えるようになっています。4つのトラックが並走でき、それぞれ任意のステップ数が設定できる点が面白いです。

UNISONでオシレーターを重ねて
分厚いサウンドのモノシンセに

最後に“Prophetと言えば!”ということで、UNISONにも触れておきましょう。UNISONはオシレーターを重ねて単音で鳴らすことができる機能です。Prophet Rev2は最高16ボイスが使えるので、ド級の厚みある音を奏でることが可能になります。ただ現代のテクノロジーはアナログと言えども安定度が非常に高いので、単に重ねただけだとピッチの揺れが少なく、“ぶよぶよ感”がさほど得られません。そこで、デチューン効果を与えるUnison Detune機能やオシレーターに揺らぎを加えるOSC SLOPノブ、先述したSHAPE MODなどを併用してズレを付加するわけですが、これが強力です。シンプルなリードから1DCOの“ミョンミョン”ベース、スピーカーがぶっ飛びそうな分厚い16ボイス・ベースなど、守備範囲の広いモノシンセとして活用できるようになります。ボイス構成やどのパラメーターでズレを作るかによって、生まれる結果がかなり違ってきます。特にベース音にこだわりを持つ人は、さまざまな組み合わせをトライしてみましょう。

Prophet '08が登場して10年が経過し、新登場のProphet Rev2ではボイス数を倍、モジュレーション・スロット数も倍、バイティンバー対応、エフェクトを搭載するなど、さまざまな点が更新されました。筆者はアナログ16ボイスを弾くのは初めてでしたが、相当違いますね。スタック・モードやスプリット・モードを使う際、本機は16ボイスなので半分であっても8ボイスとなり、コードを弾いた際の音切れに悩まされることもありません。今回、パッド系の2つの音色をスタックさせて即席アンビエント・ミュージックみたいなものを作ってみたところ、音が途切れることもなく、実に豊かなサウンドの壁を構築することができて大満足でした。伝統的なシンセサイザーとしてのサウンドや仕様はキープしつつ、前人未到の音作りの世界を体験してみたいというアナタにお薦めします。

Prophet_rear ▲リア・パネル。写真中央には、左からUSB B端子、MIDI IN/OUT/THRU、シーケンサー/アルペジエイターをコントロールするためのフット・スイッチやオーディオ信号入力用フォーン端子、サステインをコントロールするためのフット・スイッチ用フォーン端子、エクスプレッション・ペダル用フォーン端子が並ぶ。写真右側の端子類は、左からB OUTPUTのL/R(フォーン)、MAIN/A OUTPUTのL/R(フォーン)、ヘッドフォン(ステレオ・フォーン)

撮影:川村容一

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サウンド&レコーディング・マガジン 2017年9月号より)

DAVE SMITH INSTRUMENTS
Prophet Rev2
オープン・プライス(市場予想価格:278,000円前後)
▪シンセシス:アナログ16ボイス ▪プログラム:ファクトリー・プログラム(128プログラム×4バンク)+ユーザー・プログラム(128プログラム×4バンク) ▪エフェクト:モノ・ディレイ、ステレオ・デジタル・ディレイ、アナログ・ディレイ、コーラス、フェイザー×3種類、フランジャー×2種類、リバーブ、リング・モジュレーション、ディストーション、ハイパス・フィルター ▪コントロール:セミウェイテッド・61鍵キーボード(ベロシティ、アフタータッチ対応)、ピッチ・ベンド、モジュレーション・ホイール、ノブ×52、ボタン×20 ▪その他:ポリフォニック・ステップ・シーケンサー、ゲート・シーケンサー、アルペジエイター ▪外形寸法:892(W)×96(H)×322(D)mm ▪重量:9.3kg