ソニーから、昨年12月に発売された単一指向性コンデンサー・マイクのC-80。ホーム・スタジオに向けながら、同社のハイエンド・マイクC-800GやC-100の設計を受け継ぐ一本だ。この連載では、一線のミュージシャンが自宅録音でC-80をチェック。今回は、ソングライター/ギタリスト/プロデューサーの岡田拓郎がボーカル&アコギでテストする。特に歌録りでは「マイクを選ぶ」と言う彼が、C-80を高く評価する理由とは?
Photo:Hiroki Obara
宅録をアシストしてくれるマイク。パッと録って、すぐに良い音という感じです
“使いやすいマイク”という印象が一番です。まず、指向角の中であればオフめに立ててもオンマイク的な音が得られ、アコギの“実”の部分をうまく拾ってくれる。これは、例えばフラッシュ・アイディアを録音しておきたいときにメリットだと思います。良いアイディアが浮かんだら、マイキングを気にせず、すぐに録りたいものですよね。僕は、そうやって録ったテイクを本チャンに使う場合があるので、ラフなマイキングでもバシっと録音しておきたい。C-80なら、それが可能だと思います。“演奏は良いのに音が遠い”とか“中低域が薄い”といった結果になりにくいでしょうから。
また、録音用のEQ処理を経たかのような音がデフォルトで得られます。この価格帯のコンデンサー・マイクにありがちな高域のシャリシャリ感が無く、アタックがしっかりと入るので、まさに音楽的な周波数帯域にフォーカスしている印象。今まで使ってきたコンデンサー・マイクよりもオンマイク時に低域が膨らみにくい点、そして周囲の雑音が気にならないところも魅力で、扱いやすい音が得られます。“宅録がうまくいくようにアシストしてくれるマイク”という感じですね。僕は10年くらいかけてアコギのマイキングに対する感覚を身に付けましたが、C-80があれば“パッと録って・すぐに良い音”って感じなので、複雑な気分です(笑)。
アコギの録り音をDAW上の周波数アナライザーに通してみると、太さを感じさせる帯域が充実しています。200〜300Hz辺りが特徴的で、ピッキングやフィンガリングのニュアンスがよく出る1〜1.5kHz周辺もしっかり録れている。プラグインで高域にブーストEQをかけてみたら、きちんと付いてきたので、さらにブライトな音にもできます。歌に関しては、いわゆる“ボーカル帯域”にフォーカスした音が得られました。息のシーシーという高域成分が悪目立ちせず、ほかのマイクでは不明瞭になりがちな小さい声も奇麗に録れています。
この価格で、この性能はすごいですね。よくできているマイクだと思います。指向角から外して距離を置けばオフっぽい音も得られるので、個人的には2本買って、オン+オフのブレンドなんかも試してみたいですね。
Summary
✓ ラフに立てても芯のある音
✓ 近づいても低音が膨らみにくい
✓ 周囲の雑音が気にならない
岡田拓郎
ソングライター/ギタリスト/プロデューサー。2012年にバンド“森は生きている”を結成し、2017年にソロ・デビュー。2022年の最新作『Betsu No Jikan』では、アンビエントやニューエイジなどに通じる新たな表現を試みている。ソニー360 Reality Audioでの制作にも意欲的。
ソニー C-80
ホーム・スタジオ・ユースの単一指向性コンデンサー・マイク。歌やアコースティック・ギター、ピアノなどの録音、歌唱や演奏の配信に向けており、ハイエンド・マイクC-100を元にしつつ新設計したカプセルを採用。金蒸着のダイアフラムは、著名な録音作品の数々に使われてきたC-800Gと同等の素材を用い、近接効果を抑制すべくデュアル(2枚)構造となっている。これにより、オンマイクの際も自然な音が得られるという。また、楽器の中で声を抜け良く聴かせるために、13kHz辺りを持ち上げたチューニングも特徴。
●電源:外部から供給(DC44~52V) ●周波数特性:20Hz~20kHz ●正面感度:-30dB(偏度±3dB、0dB=1V/Pa、1kHz) ●ダイナミック・レンジ:125.5dB以上 ●出力インピーダンス:90Ω±15%、平衡型 ●最大入力音圧:138dB SPL以上 ●外形寸法:40(φ)×158(H)mm ●重量:約215g