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“長方形ダイアフラム”はいかにして生まれたか〜AUDIO-TECHNICA 50シリーズの開発者 沖田潮人が語る

“長方形ダイアフラム”はいかにして生まれたか〜AUDIO-TECHNICA 50シリーズの開発者 沖田潮人が語る

AUDIO-TECHNICAのマイクと言えば“20シリーズ”や“40シリーズ”を思い浮かべる方が多いかもしれない。しかし、同社の真骨頂は“50シリーズ”である。ここでは、開発者の沖田潮人氏にインタビューを敢行。設計/開発におけるこだわりを詳細に語っていただいた。唯一無二と言えるであろう、“長方形ダイヤフラム”の秘密に迫っていこう。

Photo:Chika Suzuki

スモール/ラージ・ダイアフラムの“いいとこ取り”を追求した

AUDIO-TECHNICA 50シリーズの開発者 沖田潮人氏

【沖田潮人】株式会社オーディオテクニカ 商品開発部マイクロホン開発課マネージャー。1992年入社以来マイクロホンの設計開発に携わり、ハンドヘルド、サイド・アドレス、スティック、ショット・ガン、タイピン、グース・ネックなど、多種多様なマイクロホンの設計を手掛ける。

 まずは50シリーズの開発経緯について伺おう。

 「AUDIO-TECHNICAが開発した最初のサイド・アドレス型のマイク=AT4033をはじめとする40シリーズは、世の中的に“手の届きやすい高性能マイク”という立ち位置でした。そこで、その上のフラッグシップ・モデルを作ろうという話があり、50シリーズの開発がスタートしたんです」

 当初“フラッグシップ・モデルをどうやって作るのか”というところは、全くの白紙だったという。

 「最初の2年間はなかなかうまくいきませんでした。そんな中、実は50シリーズとは別で長方形のダイアフラムを開発していて。これを活用できないかと考えはじめたんです」

 なぜ長方形なのかと尋ねると、「ダイアフラムの面積をできるだけ大きくしてS/Nをよくしたかったから」と沖田氏。円形ではヘッド・ケースに収まらなくなってしまうが、長方形にすれば、コンパクトながら面積もかせげるという。しかし、ダイアフラムを大きくすることによる問題点もあった。

 「大きなダイアフラムは、音波を受けたときの動きが鈍くなってしまうんです。特に高域特性は影響を受けやすいんですよ。人間に聴こえる最高の周波数は20kHzと言われていて、その波長が約17mm。これよりもダイアフラムが大きくなると、高域の再現に影響が出はじめます。そういったネガティブな要素をどうしようかと考えたときに、“長方形のダイアフラムを4つ並べたら、ヘッド・ケースにきっちり収まるな”というイメージが湧いて。実際に試してみたところ、ダイアフラムを4つにしたことで、それぞれがスモール・ダイアフラムの特性を発揮して高域がしっかり伸びるし、4つを合わせたラージ・ダイアフラムの特性も発揮されるのでS/Nも良好。両者の良いところが取れるということが分かったんです

株式会社オーディオテクニカ 商品開発部 沖田潮人

 続けて沖田氏は、「4つのダイアフラムをただ単に足しているのではありません」と強調する。

 「左側の2つのダイアフラムの出力はHOT(正相)、右側の2つはCOLD(逆相)で、これらの信号をそのまま2番と3番のピンにバランスで出力しています。ダイアフラムが1枚の場合は正相と逆相の信号を別々に作り出さないといけないので回路が別途必要なのですが、このやり方だと正相と逆相のそれぞれをマイク・ユニットの段階で作り出せるので、余分な回路は不要。マイクの回路は、いろいろな機能をつけて電流を流すと電圧が落ち、その分性能も落ちてしまうんです」

 DCバイアス方式ではなくエレクトレット方式を採用したことも、余分な回路を排除することにつながったという。

 「うちはエレクトレット方式のマイクを作るのが得意なんです。百数十ボルトの電荷が半永久的に保持されるという構造になっているので、外部から電圧を加える必要がありません。つまりそのための回路が不要で、音質的にもメリットがあるんですよ」

オーディオテクニカ本社にある無響室。360度グラス・ウール製の吸音材が敷き詰められており、主に試作の評価が行われている

オーディオテクニカ本社にある無響室。360度グラス・ウール製の吸音材が敷き詰められており、主に試作の評価が行われている

マイク・ユニットの限界はまだ訪れていない

 シリーズ最初のモデル、AT5040に続いて開発されたのは、スティック型のAT5045だ。AT5040のダイアフラムを縦に伸ばした、メーカー史上最大サイズのダイアフラムを搭載している。

 「長方形にすると、短辺でスモール・ダイアフラム、長辺でラージ・ダイアフラムのキャラクターを出せるので、これ1枚でも両方の良さを得ることができるんです。楽器から声まで、オールマイティーに録れますよ」

株式会社オーディオテクニカ 商品開発部 沖田潮人

 そして最後に開発されたのがAT5047。AT5040の感度を少し下げ、トランス出力を採用している。

 「トランス出力の方がプリアンプの影響を受けにくく、接続する機器との相性の幅が広くなっていると思います。AT5040はS/Nが最大で純度は最高ですが、幅広く使うならAT5047ですね。AT5040、AT5047の2つを用意しているのは、トランス、トランスレスの音それぞれに良さがあるからということもあります」

 さらに50シリーズは内部のパーツだけでなくそのレイアウトや筐体も含め、すべてにおいて入念に設計されている。

 「ヘッド・ケースの網に剛性がないと音に対して悪い影響があるのですが、50シリーズは2つの網を溶着していて、相当強度が高いです。また一般的なマイクは、マイク・ユニットだけをショックマウントのようにゴムで浮かしていることが多いのですが、50シリーズのマイクはすべてを一塊にしてコネクターから浮かせており、共振をしっかりと抑えこむことができます。ダイアフラムだけでなく、すべてが新しい考え方のもとで作られているマイクなんですよ」

左から、AT5040、AT5047、AT5045のサンプルで、右側にそれぞれの内部を並べている

左から、AT5040、AT5047、AT5045のサンプルで、右側にそれぞれの内部を並べている。50シリーズの特徴である長方形の振動板が目を引く(AT5040は実験に使用したものだそう)

ショックマウントの設計にも苦労したそうで、ワンタッチでロックでき、着脱も容易にできるのが特徴となっている

ショックマウントの設計にも苦労したそうで、ワンタッチでロックでき、着脱も容易にできるのが特徴となっている

50シリーズの製造を行う成瀬工場にて、AT5040のはんだ付けの工程を再現していただいた。組み立ては、すべて手作業で行われているという

50シリーズの製造を行う成瀬工場にて、AT5040のはんだ付けの工程を再現していただいた。組み立ては、すべて手作業で行われているという

成瀬工場でマイクの製造に関わる皆さん。「指示書に書いていないことにも気を遣っていただけるので、とても信頼しています」と沖田氏

成瀬工場でマイクの製造に関わる皆さん。「指示書に書いていないことにも気を遣っていただけるので、とても信頼しています」と沖田氏

 最後に今後マイクがどう進化をしていくのか尋ねると、沖田氏の答えから奥深いマイクの世界を垣間見ることができた。

 「現在、世の中にはデジタル化の流れがあり、信号処理やネットワーク、AIなどの技術も進化しています。しかし、“音を電気信号に変換する部分”というのは、この先も当分変わらないと思っているんです。そして、その変換器であるマイク・ユニットの性能の限界はまだ訪れていません。アナログの部分はまだまだ奥が深いんですよ。“ちょっといいところまでいったな”と思ったら、“まだ上があるんだな”ということがどんどん見えてくる。まだまだやることはたくさんあると思いますね」


◎AUDIO-TECHNICA 50シリーズ レビュー&開発者インタビュー:

AT5040|長方形ダイアフラムを4つ備えたシリーズ最初のモデル
AT5047|AT5040の構造を踏襲しながらもトランス出力を採用
AT5045|メーカー史上最大サイズの長方形ダイアフラムを備える

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