Maxで作る自分専用パッチ - Patch49 〜生演奏のテンポに追従するリズムを自動生成

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プレゼンテーション・モード

基礎的な機能ブロックをつなぎ合わせることで独自のソフトウェアを構築できるCYCLING '74 Max。現在ネット上では数え切れないほどのパッチがシェアされており、それらのプレーヤーとしても活用が可能だ。ここでは最先端のアーティストによるクールなパッチを紹介。ファイルをWebよりダウンロードして、新しい音楽の制作に役立ててほしい。

リタルダントなどのテンポ変化にも対応

 Maxをはじめとしたプログラミングによる音楽ならではの表現に、乱数や数式を使った音楽のリアルタイム自動生成があります。プログラムが自動的に計算を行い、その結果に基づいてリアルタイムに音楽が生成されていくのです。こうした音楽は、多くの場合[metro]オブジェクトなどを使って、一定のテンポで生成される場合がほとんど。一方、人間が楽器を演奏して行うアンサンブルの場合、その演奏のテンポは常に揺らいでいます。演奏者たちがお互いのテンポに合わせようとすることによって、あるテンポへと収束していくのです。

 

 DAWで打ち込んだトラックと生演奏を同時に行う同期演奏もそうですが、コンピューターによる音楽と人間の生演奏をシームレスに融合するような手法は、今日に至ってもほとんど進歩していないと言っても過言ではありません。大抵は、イア・モニターでメトロノームを聴きながら人間がそのテンポに合わせて演奏する場合がほとんどです。その際、人間の演奏者には決まったテンポ、決まった構成で毎回同じように演奏することが求められます。しかし、Maxによる自動生成音楽と人間の生演奏が共存することができたら、音楽に明確な不確定性を付与することになり、そこでMaxが生成する、時に予想もしていなかった音楽が演奏者にも影響を与え、より面白い演奏になるはずです。人間がコンピューターのテンポに一方的に合わせる以外に何か良い方法はないでしょうか? そこで今回は、Maxで自動生成したリズムが生演奏のアンサンブルの1つのパートとして、ほかの生楽器の演奏者の揺らぐテンポに追従しながら演奏するパッチを紹介します。

 

 このパッチは、筆者が所属しているエレクトロニカ・ユニットmacaroom(http://macaroom.net/)で、ライブ演奏を行うために作りました。macaroomのライブ演奏は、ボーカルとキーボード、Maxによるエレクトロニクスの編成で行っています。曲の途中まではボーカルとキーボードだけで演奏していて、途中からMaxによる自動生成リズムが入ってくるような構成の曲の場合、毎回揺らぎながら異なるテンポで演奏されているので、その時々のテンポにMaxの演奏を合わせる必要があります。また、リタルダンドしながら曲が終了したりする場合には、Maxのテンポは非常に細かい粒度で生演奏に追従しなければいけません。そのような場合にこのシステムを利用して演奏しています。macaroomでは1曲ごとに専用のパッチを作っているのがほとんどですが、まだパッチを作っていない曲をいきなり演奏してみようというときにも、このシステムで即興的にリズムを加えたりもします。

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パッチング・モード

複数のリズム生成手法で常に異なる演奏に

 今回のパッチでは、コンピューターのキーボードでLキーを1拍ごとに押して、その間隔を[timer]オブジェクトで毎回計測することで、1拍ごとの最新のテンポを検出しています(ms単位)。検出した最新のテンポをN等分するタイミングでbangを発生させることで、その瞬間のテンポでのN連符を生成することができます。こうして生成したbangのタイミングで乱数や数式を動作させてリズムを生成するのです。

 

 今回のパッチで実装したリズム生成手法は、乱数を利用した繰り返しリズム生成(Dキーで有効化)、初歩的なカオスであるロジスティック写像を利用したリズム生成(Sキーで有効化)、4分音符と2種類の連符が確率的に発生するリズム(Fキーでパルス音色、Gキーでノイズ音色が有効化)です。ガイド用に、シンセのバスドラムを4分音符で演奏することもできます(Aキーで有効化)。

 

 これらの手法を組み合わせたり、あるいは連符を指定する数値を変えることで、さまざまなバリエーションのリズム・パターンをテンポを動的に変えながら演奏可能です。確率的な手法を多く使っているため、演奏するたびに異なるリズムが生成されます。

 

 留意しなければならないのは、先述のように[timer]オブジェクトで検出した時間間隔を最新のテンポとしていることです。つまり、ある時点の1拍で検出したテンポを次の拍のテンポとして利用するという仕組みになっており、最新のテンポは常に“1拍前のテンポ”ということになります。そのため、生演奏とこのパッチでのリズムを合わせる際は、真の意味でその瞬間のテンポに合わせることができない、と演奏者全員で理解しておく必要があるのです。ですが、概ね生演奏のテンポに対して違和感無くリズムが生成されます。また、ある拍から急にテンポが変わるといった場合は奇麗に変化しませんが、だんだん速くなったり遅くなったりといったテンポの変化には違和感無く追従します。

 

 先述のように、筆者が活動しているユニットmacaroomのライブ演奏でこのパッチを利用しています。その動画をYouTubeにアップしているので参考にしてみてください。下の動画では、Fキーを押したときに有効になるモードで、4分音符と8分音符、6連符が確率的に発生するリズムを生成しています。曲が終わるときに減速している様子もお分かりいただけると思います。

 

筆者が所属するエレクトロニカ・ユニット、macaroomのライブ映像。紹介したパッチを使って演奏を行っている

 

 

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秋山大知

サウンド/映像エンジニア。音や映像に関する制作/イベントのテクニカルやソフト開発を行う。エレクトロニカ・ユニット“macaroom”にてエレクトロニクスやライブの映像演出を担当。東京藝術大学音楽学部音楽環境創造科非常勤講師を務め、Maxでの信号処理やエクスターナル・オブジェクト開発に関する講義を行っている。

製品情報

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