Maxで作る自分専用パッチ〜Patch39 アンビエントな電子音を奏でる自動演奏パッチ

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基礎的な機能ブロックをつなぎ合わせることで独自のソフトウェアを構築できるCYCLING '74 Max。現在ネット上では数え切れないほどのパッチがシェアされており、それらのプレーヤーとしても活用が可能だ。ここでは最先端のアーティストによるクールなパッチを紹介。ファイルをダウンロードして、新しい音楽の制作に役立ててほしい。

 

■パッチのダウンロード
https://www.rittor-music.co.jp/e/soundlib/2007_Max_Patch.zip

 

3種類のシンセ用パッチを組み合わせる

 今回紹介するのは、きらびやかでアンビエントな電子音を奏でる自動演奏パッチです。とっつきやすいように、DAWやシンセで一般的な要素をメインに構成した特製パッチを用意しました。メイン・パッチは、左半分が自動演奏プログラム、右半分が各種アナライザーで構成されています。上から下へ、なるべく処理の流れに沿ってオブジェクトを配置しました。メイン・パッチの左下にあるスピーカーのアイコンがオンになっている状態で、左上の丸いボタンをクリックすると、ボタンが点灯して自動演奏が始まります。

 

 自動演奏のスイッチをオンにすると、直下の[metro]オブジェクトが動き始めます。[metro 500]は0.5秒に1回“bang”メッセージを出力し、[counter]オブジェクトは“bang”を受け取るたびにカウントを1ずつ進めます。今回はこのカウントを引数として、四則演算によって5度の転調を繰り返しながら進行するパターンを用意しました。単純な繰り返しを避けるために素数を活用している点もこのパターンの特徴ですが、この辺はアイディアの出しどころでもあるので、皆さんもさまざまなパターンを試してみてください。

 

 演算によって生成された数字は、MIDIノート・ナンバー(音高)として[makenote]オブジェクトへ出力されます。このオブジェクトは、その名の通りMIDIノートを生成するオブジェクトです。[makenote 60 4000]は、受け取るノート・ナンバーに応じてベロシティが60、長さが4秒のMIDIノートを生成します。具体的な処理としては、ノート・ナンバー“n”を受け取った瞬間に“n 60”のリスト(ノート・オン)を出力し、4秒後に“n 0”のリスト(ノート・オフ)を出力します。

 

 次に、生成されたMIDIノートをポリフォニックで鳴らします。詳細な説明は省きますが、概略としては同時に鳴らすべきMIDIノートに整理番号を付与する[poly]と、複数のシグナルを同時生成する[poly~]をセットで使用することでポリ音源を実装しています。3つの[poly~]は、それぞれメイン・パッチと同じフォルダに保存されたサブパッチ(inst_01〜03)を読み込んでいます。これらのサブパッチの中には、オシレーターやエンベロープの組み合わせによる簡易シンセが個別に組まれています。inst_01には基音となるサイン波、inst_02には倍音成分の多いノコギリ波をオシレーターとして使用。inst_03は音程を2オクターブと5度高く設定し、オシレーターには三角波を使用、そこにアタックの鋭いエンベロープを掛け合わせてベルのような音を生成しています。

 

 inst_02とinst_03から出力されるシグナルには、余分な倍音成分をカットするために、それぞれローパス・フィルターとバンドパス・フィルターを適用しています。今回はフィルターに[biquad~]オブジェクトを使っていますが、Maxにはほかにもフィルター系のオブジェクトが幾つか用意されていますので、興味がある方はぜひ調べてみてください。

 

 なお、MIDIノートをシグナルに変換する際は数値の扱いに注意してください。例えば、ノート・ナンバー(0〜127)は、[mtof]オブジェクトを使って周波数に変換する必要があります。また、ベロシティ(0〜127)は割り算などして、シグナルの振幅として適切な値(0〜1)に変換した方がよいでしょう。

 

遅延と位相操作でエフェクトを作成

 メイン・パッチに戻ります。次のブロックでは、3つのシグナルを1chにまとめ、そこにディレイを使ったエフェクトを適用しています。ディレイは、直近1秒間のシグナルをストックする[tapin~ 1000]と、0.75秒遅れでシグナルを出力する[tapout~ 750]で構成。また、出力されたシグナルの振幅を少し減らして再び[tapin~]に戻すことでフィードバック・エコーをかけています。さらに、ディレイは2chに振り分けられており、それぞれのディレイ・タイムには逆相のサイン波をかけ合わせました。これによって2つのシグナルに差分と揺らぎが発生し、ステレオ効果を伴うコーラス・エフェクトが生まれます。コーラス・エフェクトにはパラメーターを2つ用意したので、値を動かして変化を確かめてみてください。

 

 このようにして生成された2chのシグナルは、最終的にスピーカー・アイコンの[ezdac~]オブジェクトを通してスピーカーやヘッドフォンに出力されます。また、同様のシグナルは[send~]と[receive~]によってメイン・パッチ右側のアナライザーにも送出。[spectroscope~]オブジェクトは周波数成分を視覚化するスペクトラム・アナライザーとして、[scope~]オブジェクトは波形を視覚化するオシロスコープとして機能しています。今回のような電子音のみによる音作りの際は特にですが、聴覚のみで客観的にバランスを判断するのは困難なため、このようなアナライザーにより視覚の助けも借りながら制作を進めるのもよいでしょう。

 

 今回はあえて一般的な要素に絞って紹介しましたが、一方で奇抜なアイディアでも手軽に試して具現化していけるのがMaxの魅力でもあります。使い方は自由なので、音律や拍節構造など既存の音楽の概念に縛られる必要はありません。ぜひこのパッチを足掛かりに、Maxとともに表現の新たな領域を開拓してください。

 

 

田口雅之

新潟市在住の音楽家。日本電子音楽協会会員。デジタル音響合成による音作りと、アルゴリズムによって生み出される音律や旋律、リズムを組み合わせ、新たな音楽領域の実現を図る。ソロのほか、舞台や映像作品、インスタレーションとのコラボも多数。近年では音響映像作品にも取り組む。

www.tgcmsyk.info

 

■製品情報

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