Device 38 OSCメッセージを送受信するM4Lデバイス

基礎的な機能ブロックをつなぎ合わせることで独自のソフトウェアを構築できるCYCLING '74 Max。現在ネット上では数え切れないほどのパッチがシェアされており、それらのプレーヤーとしても活用が可能です。ここでは最先端のプロフェッショナルが作成したクールなパッチを紹介。パッチのサウンドを試聴できるほかファイルをWebよりダウンロードして、新しい音楽の制作に役立ててください。

Device 38 OSCメッセージを送受信するM4Lデバイス

▲osc.clipObserver ▲osc.clipObserver
▲osc.cue(画面左側)とosc.reportCue(同右側) ▲osc.cue(画面左側)とosc.reportCue(同右側)

ファイルをダウンロードする→2005_Max_Patch

Liveのクリップ再生と連動

筆者は20年ほどにわたってMaxを使用してきた。現在では、主に映像はopenFrameworksによる自作ソフトウェア、音に関してはSuperColliderを用い、それらをコントロールするためにMaxを活用している。また、センサーやモーター、LEDなどを用いたインスタレーションの制作も行なっており、そのコア・システムとしてもMaxを多用する。

Maxは、ちょっとしたプログラムを作り上げるためには非常に便利なソフトだ。パッチングという仕組み上、コンパイル・エラーが無いということ、そしてその作り上げたパッチがそのままユーザー・インターフェースとなることが特に重宝される。しかし、注意してパッチングを行わない限り、プログラム全体でどのような動作をしているのか見失いやすい。Jitterを用いて映像を作る際にも、パーティクルを飛ばすなどの少し込み入った映像になるだけでも、非常にトリッキーなコードになりやすいのだ。そのような理由で、映像や音響を生成するためにほかのソフトウェアを用い、そのコントロール用としてMaxを使用するというスタイルへと落ち着いた。

そんなスタイルでMaxを活用するための重要な技術として、Open Sound Controlによるネットワーク通信機能がある。ネットワークというと、複数台のコンピューター間でやりとりをするイメージが強いが、同一コンピューター上の複数のソフトウェアが連携して動くための技術としても非常に重要である。また、Maxが苦手とする面として、タイムラインを作るということが挙げられる。この点については、2009年にMax for Live(以下M4L)がリリースされ、ABLETON Live上でMaxのパラメーターのオートメーションが描けるようになったことで解決された。

今回は、主に舞台作品でほかの音楽家と協働する中で、実際に使用しているM4Lデバイスを紹介したい。筆者が参加するような舞台作品の場合、音と映像の厳密な同期を求められることが多い。加えて、舞台作品という性質上、現場での変更が多く、それに即時に対応することが求められる。そのために、ここで取り上げるようなM4Lデバイスを作成し、音響オペレーターに使ってもらうことで正確性を高め、効率化を図っている。ただ、一般的な舞台の場合はそれぞれのセクションのプロフェッショナリズムが高く、このようなパッチを使用してもらうのは、実際にはケースとしては限られているかもしれない。しかし、例えばライブ・パフォーマンスにおいて、一人で音も映像も同時にコントロールする場合などで応用することも可能である。

1つ目のデバイスは、osc.clipObserverだ。Live上で任意のクリップを再生したときに、それに対応したOSCメッセージを送信する。使い方は、①任意のトラックにosc.clipObserverをセット→②OPEN GUIを押してインターフェースを開く→③送信先のIPアドレス(HOST)とポート番号(PORT)を指定する→④セッションビュー上で関連付けたいクリップを選択する→⑤パッチ上の空きスロットをクリックするか<MENU>よりBINDを選択する→⑥OSC ADDRESS欄にクリップを再生したときに送信したいOSCメッセージを入力する、という流れとなる。内部の処理は多少複雑だが、これはLive上でクリップを違うスロットに移動した場合でも、そのクリップにちゃんと関連付けが追随するようにするためである。

そのほか、関連付けが済んでいるosc.clipObserver上のスロットをクリックすることで、ひも付けられたクリップの再生/停止ができる。<MENU>より、SELECTを選択した場合は、そのスロットで選択されているクリップが選択状態に。また、TESTを選択した場合は、クリップを再生せずにOSCメッセージだけを送信する。そしてUNBINDを選択することで、関連付けを解除できる。

ロケーター情報の送受信が可能

2つ目のデバイスはosc.reportCue。Liveのアレンジメントビューで用い、タイムライン上に打たれたロケーターの情報を送信する。REFRESHボタンを押すことで、タイムライン上に打たれたロケーター情報の一覧を取得。トラックを再生して、ロケーターを通過すると指定したIPアドレス、ポート番号へ“/live/cue <ロケーター名>”というOSCメッセージを送信するようになっている。

osc.reportCueと対になる、osc.cueというデバイスも作成した。これは“/live/cue <ロケーター名>”というOSCメッセージを受信することで、そのロケーターまでジャンプする。そのほかに、“/live/play <0 or 1>”というOSCメッセージを受けたときに、自動的にLiveを再生/停止させるosc.playStopも用意してパッケージした。

誌面の都合上、内部処理について詳しくは書かないが、興味のある方はぜひダウンロードして構造を見てみてほしい。使いこなすためには多少複雑なLive APIだが、自作の_m4l Abstraction、標準で入っているM4L.api Abstraction群を使用することで、より効率的なパッチングが行える。できるだけ分かりやすく作ったつもりではあるので、腕に覚えのある方はぜひ活用してもらえればと思う。

古舘 健

2005_Max_Profile京都在住の音楽家/エンジニア。サイン波やパルス波、ドットやラインなどミニマムな要素を用い、その特性を際立たせることで複雑な現象を作り上げる。2002年よりサウンド・アート・プロジェクト『The SINE WAVE ORCHESTRA』を主催。エンジニアとして他作家の作品にも多数参加する。Dumb Typeのメンバーとしても活動。

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