第一線で活躍するエンジニアに毎月お薦めの新作を語ってもらう本コーナー。小泉由香氏の今月のセレクトは、ザ・ストロークス『ザ・ニュー・アブノーマル』 、ザ・ウィークエンド『アフター・アワーズ』です。
左右に振り分けられたギターが最前面で演奏する
ギター・ロックの王道バランス
ザ・ストロークスが7年ぶりとなる新作をリリースしました。プロデューサーは数々のロック・バンドを手掛けてきたリック・ルービン。ミキサーにはベン・バプティとジェイソン・レーダーを迎えて制作されています。左右に振り分けられたギターは一貫して最前面で演奏し、センターでは歌、ベース、ドラムがそれぞれ邪魔しないようにうまく帯域を分けて配置されています。そんな中でもジュリアンの肉感がある歌は、しっかり歌詞が聴き取れます。生ドラムや打ち込みのドラムも、躍動感を保つために音のすみ分けがされています。ギターがず~っと前面にいてどかない、というギター・ロックの王道バランスは、とても勉強になりました!
ボーカルやシンセが浮遊感を保った作りで
優しく切ない感じがする
次は、ザ・ウィークエンドによる約4年ぶりの新譜。楽曲は、エレクトロニカ、ファンク、1980年代のポップス調と多岐にわたっているので飽きが来ません。本作のプロデュースは、自身に加えてイル・アンジェロやマックス・マーティンらを起用。ミックスはサーバン・ゲネアやジョン・ヘイネスが担当しています。血だらけでニッと笑うジャケットからは想像の付かない甘い歌声には浮遊感のあるエフェクトがかかっているので、がっつり押してくる太めのリズムとのコントラストが気持ち良いです。ボーカルやシンセが浮遊感を保った作りということもあり、全体のレベル感はハッキリとしたリズム・トラックが担っています。昨今には珍しくギラギラした音も少ないので、優しく切ない感じがするアルバムです。
小泉由香
【Profile】マスタリング・スタジオ、オレンジ主宰。音楽愛に裏付けられた丁寧な仕事で信頼が厚い、日本を代表するマスタリング・エンジニア