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Device 37 マルチチャンネル[reson~]フィルターの実装

基礎的な機能ブロックをつなぎ合わせることで独自のソフトウェアを構築できるCYCLING '74 Max。現在ネット上では数え切れないほどのパッチがシェアされており、それらのプレーヤーとしても活用が可能です。ここでは最先端のプロフェッショナルが作成したクールなパッチを紹介。パッチのサウンドを試聴できるほかファイルをWebよりダウンロードして、新しい音楽の制作に役立ててください

Device 37 マルチチャンネル[reson~]フィルターの実装

▲MC_Reson_Filterプレゼンテーション・モード ▲MC_Reson_Filterプレゼンテーション・モード
▲MC_Reson_Filterパッチング・モード ▲MC_Reson_Filterパッチング・モード

ファイルをダウンロードする→MC_Reson_Filter

新搭載のMCオブジェクトを利用

今回紹介するのは、MCオブジェクトを利用したパッチです。MCはMaxのオーディオ処理の機能をラッピング(ラッパー、Wrapperと同義語)することにより、今までと異なる方法でマルチチャンネル信号を利用できるよう実装されたものです。ラッピングというのは、例えると“Pro ToolsでAUプラグインを使いたい”というような場合に利用する、ユーティリティ的な位置付けのもの。異なる規格の間を取り持って利用できるようにラッピングする、という意味合いでこの名称が用いられています。

MC Wrapper Objectsのヘルプでは、従来の方式とMC方式の比較が記載されています。従来の方式では、周波数の異なる4つの[tri~]オブジェクトが出力する4つの周波数の音を4つの[live.gain~]を通し、[dac~]オブジェクトにステレオ(2ch)で出力する構造がold schoolとして示されています。

一方、MC Schoolと書かれた欄ではMCオブジェクトを使った同様の処理が示されています。[mc.tri~]オブジェクトの引数として“@chans 4 @values 220 221 222 223”とチャンネル数と周波数を指定してラッピングされ、1本のパッチ・コードと[mc.live.gain~]オブジェクトにより、マルチチャンネル化されたオーディオ信号が出力されています。

筆者の自作パッチは、原音に対してフィルターをかける部分に[MC]オブジェクトを使い、マルチチャンネル処理を用いたフィルターとして実装しています。このパッチの使い方はシンプルです。まず、オーディオをスタートし、コンピューター・キーボードのスペース・キーを押すと単音のシグナルが生成されます。鍵盤のグラフィック・ユーザー・インターフェース、[kslider]オブジェクトをクリックすることでフィルターの中心周波数(the center frequency)が[mc.reson~]オブジェクトに送られます。この操作を繰り返すことで、[MC]によるマルチチャンネル・フィルターの効果が得られます。

1つのオブジェクトでマルチチャンネル化が可能

パッチの構造を見ていきましょう。[mc.gen~]がオーディオ・シグナルを生成し、[mc.tapin~]と[mc.tapout~]でディレイの効果がかかります。原音とディレイ音のオーディオ・シグナルは[mc.dup~]オブジェクトに送られ、6chのマルチチャンネル・シグナルとして生成されます。フィルター部分は、レゾナント・バンドパス・フィルターをMC化した[mc.reson~]オブジェクトにアトリビュート[@chans 6]を指定し、6chのマルチチャンネル化しています。

[mc.reson~]オブジェクトは、従来の[reson~]オブジェクトと同様に、第1インレットにオーディオ・シグナル、第2インレットはgain、第3インレットは中心周波数、第4インレットはQの値をセットします。第3インレットに送る中心周波数の設定は、チャンネルごとに送る仕組みです。中心周波数の元となる音程は、[kslider]オブジェクトから出力されたMIDIノート・ナンバーを周波数に変換しています。鍵盤が押された順に[mc.targetlist]オブジェクトからsetvalueメッセージとして1から6の数値と周波数というメッセージ形式にて、繰り返し出力されます。このパッチでは、分配されたメッセージを周波数としてモニタリングするために、[mc.sig~]オブジェクトでシグナルに置き換えて、[mc.unpack~]オブジェクトで分配する流れを作り[number~]オブジェクトで周波数を表示しています。何度も操作を繰り返すことで、MCによる複雑なフィルターの効果を感じ取っていただけると思います。

Max 8では、マルチチャンネル・オーディオに対応したMCオブジェクトとパッチ・コード、VST/VST3/AUプラグインに対応する[mc.vst~]オブジェクト、Max for Liveデバイスを扱える[mc.amxd~]オブジェクトが実装されました。さらに、マルチチャンネル・ミキシング対応の[mc.mixdown~]オブジェクトではサーキュラー・パンニングやライン・パンニングといったモードが用意されています。内部のオーディオ・ルーティングのマルチチャンネル化、さらに物理的な立体音響空間を前提にしたスペースのコントロールといった多くの拡張性あるわけです。

今回はフィルターを中心に発想しましたが、新しい音響空間の構成やアイディアの実現も期待できます。Max 8の発表時、MC機能のデモンストレーションを見ていて、物理学者である湯川秀樹博士の空間についての言葉を思い出しました。学生時代には実感が得られず、今現在も正確に理解しているとは思えませんが、今までの音楽活動を通して、音響空間について考えるときに指針としている言葉です。最後に引用しご紹介させていただきます。

「しかし、そもそも空間というのは、たくさんな点の集まりであるわけです。数学では、点はいくら集まっても二次元、三次元というような広がりにはならないというようなむずかしい話がありますが、そんなことは気にする必要はありません。もし気になるなら、空間の部分を非常に細かく分け、それをさらにどこまでも進めていった極限が点であると思ったらいい」(出典:湯川秀樹、小沼通二監修『「湯川秀樹 物理講義」を読む』:講談社/2007年)

大谷安宏

Profile ギタリスト/作曲家。プログラミングを駆使したサウンド音作りを中心に活動する。ロックフェラー財団ACC日米芸術交流プログラム助成アーティストとして渡米。Ars Electronica 2016'/Forum Wallis入賞、2016年ニューヨーク・フィルハーモニー・ビエンナーレ世界初演などを経験し、現在は後世の育成にも尽力している。

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