私たちはなぜハードウェア・シンセに心を奪われるのだろう。温かく太いサウンド、直感的に音色を変えられる喜びなどさまざまに思いは巡るが、ソフト・シンセの品質が上がり種類も増えている昨今、それでも機材としてのシンセに魅了されるのはどうしてなのか。当特集ではハードウェア・シンセを使って制作を行う気鋭のクリエイター4名に話を聞いていく。まずは昨年末、幅広いアーティストを客演に迎えた2作目のセッション・アルバム『INTERWEAVE 02』を発表したJUVENILE。彼が得意とするトークボックスは、シンセから出力された音を口で加工/変化させるもので、現在はMOOG Minimoog Voyager(以下Voyager)をメインとして使用している。その魅力に迫っていこう。
Photo:Hiroki Obara
MOOG Minimoog Voyager
Minimoog Model Dを元に開発された2002年リリースのアナログ・モノフォニック・シンセ。MIDI、タッチ・パネル、プリセットなどを搭載した現代的な仕様だ。Minimoog Model Dを受け継ぐ3基のVCOに加え、2系統のフィルター、独立したLFOも装備するなど機能が拡張されている。JUVENILE所有のモデルはAluminium Minimoog Voyagerで、パネルに青色のLEDバック・ライトを備えるElectric Blue Editionを元に製造された100台限定生産品。
トークボックスの始まりはDIYから
JUVENILEがVoyagerを入手したのは昨年とのこと。希少なAluminiumモデルとの出会いは偶然だったそうだ。
「毎日Voyagerをヤフオクで検索して、やっと見つけても何回か競り負けてしまいました。“次は絶対に買おう”と思って出てきたのがAluminiumモデルだったんです。通常のMinimoogとかはボディが木製ですけど、これはアルミでできているので頑丈だしすごく重いです。ケースも重たいので、ライブに持ち出すのが大変(笑)。でも本当に良いものを手に入れたな、と思っています」
フォルムや質感など、物としての存在をかなり気に入っていると言うJUVENILE。これまでにもさまざまなシンセを使っており、その過程にはトークボックスの元祖と言われる人物の影響もあったようだ。
「ロジャー・トラウトマンという神様的な存在が、レコーディングではMinimoog、ライブではYAMAHA DX100を使っていて、大抵の人がトークボックスにはDX100を使うものと認識していたと思うんです。僕も最初はDX100を使っていました。でも僕が手にした時点でもビンテージ品で、使い勝手も悪く壊れたら修理するのも大変だなと思って。それからKORGのMicrokorgをずっと使っていて、次がNOVATION MiniNovaでした」
楽器に触れたのは幼少期に習っていたピアノからとのこと。トークボックスを始めるきっかけは何だったのだろうか。
「世代的にスーパーファミコンのゲーム音楽とか、それから学校の先生の影響でYMOも好きで、ずっとシンセとか電子音系が好みというのがありました。中学生になった2000年代前半にヒップホップが好きになって、当時のヒップホップはPファンクとかのシンセを多用したファンクのサンプリングや、シンベがブイブイ鳴っていたりして。そういう中にトークボックスがあったんです」
気付けばトークボックスの音に魅了され、やり始めようと思ったと語るJUVENILE。だがその道は困難なものだった。
「大学生ぐらいのころにYouTubeが普及し始め、ようやくトークボックスをプレイしている動画を身近に見られるようになって。ただ、今でこそトークボックス用の機材もいろいろとありますが、当時は自作するしかありませんでした。原理的には、シンセの音をアンプで大きくしてスピーカーにつなぎ、そこにホースを挿すというだけなので、DIYでやろうと思えば作れるんです。手ごろなサイズのパワード・スピーカーを解体して、ホームセンターで素材をそろえてみたりしたんですが、なかなかうまくいきませんでした」
トークボックスにはホーン・スピーカー用のドライバー・ユニット、コンプレッション・ドライバーが必要となるのだが、そういった情報も少しずつ集まるようになったという。途中で挫折してしまうことはなかったのだろうか。
「学生だったので時間もありましたが、とにかく楽しかったので。何か一つずつできるようになっていくっていうのは楽しいですね。だんだんとできるようになってからは、カバーしてYouTubeに動画を上げたりライブをするようになり、機材も確立していきました」
Minimoogでトークボックスをするという夢
トークボックスに使用するシンセについて、JUVENILEは「正直、何でもいいんです」と語る。確かにトークボックスを主眼に置くと、どのようなシンセでもできるということなのだろう。それでもVoyagerを手に入れた理由を聞いた。
「何でもいいとは言え、出てくる音はやっぱり違いますよね。神様(トラウトマン)も使っていたし、ずっと欲しいなと思っていました。Minimoogでトークボックスをやるというのが夢だったんです」
実際に使ってみた印象はどうだったのだろうか。
「シンセに対して、音が太いっていう表現がよく使われていますけど、“太いって一体何?”って思いませんか。太いとは?みたいな。でも、それがマジで分かります。“ああ、音が太いってこういうことなんだ!”というのがめちゃくちゃ分かるんです。興味が無い人からしたらその太さは大事なの?と言われるかもしれないですけど、響く人には絶対に響く。僕は素晴らしい音だと思っています」
トークボックスでシンセを使用する際に、どういった音色を使うのが効果的なのだろうか。
「割とシンプルな音色です。普通の声と同じようにコーラスを重ねていくので、オクターブとかはよく使いますね。あまりにデチューンしていたりするとどんどん濁ってきてしまうので、基本的に設定を大きく動かしたりはしないです」
もちろんトークボックスのみにVoyagerを使用するわけではなく、中には機材への愛情を表現した曲もあるようだ。
「アルバム『INTERWEAVE 02』のテーマは愛で、地元愛とか家族愛、恋愛などいろいろな愛があると思うんですけど、1曲目のインストは“機材愛”をテーマに、ハードウェアだけで作っています。スタジオにあるリズム・マシンのROLAND TR-8とか、家からDX100を引っ張り出したり。Voyagerもリードやシンベとして使っています。リードとしても良いし、特に低音は倍音が豊かで単純に音が大きいということではない魅力を感じますね」
Voyagerを語るJUVENILEの口調は満足感にあふれ、機材への愛がひしひしと伝わってくるようだ。
「DIYから始めて、ついにゴールに到達したという気持ちです。ようやく買えるだけのパワーを得たというか(笑)。MOOGはシンセが好きな人にとって1つの目標だと思いますし、とにかく格好良い。一生手放さないで使い続けます!」
How to play TALKBOX
1. シンセを用意
2. ドライバーへ出力
3. 増幅した音はホースへ
4. ホースをくわえマイクで収音
5. ホイールで音を変化
JUVENILE
【Profile】独自のCity Musicを発信し続けるDJ/アーティスト/音楽プロデューサー。RADIO FISH「PERFECT HUMAN」の作編曲や舞台『ヒプノシスマイク』の楽曲をはじめ、多方面で活躍。昨年12月22日に、自身2枚目となるセッション・アルバム『INTERWEAVE 02』をリリースした
Recent Work
『INTERWEAVE 02』
JUVENILE
(HPI Records)