ショーン・エヴァレットのプライベート・スタジオ 〜Private Studio 2021

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アナログ・コンソールやテープ・レコーダーを備え
偶発的なサウンドも逃がさない音楽アジト

 カナダ出身のエンジニア兼プロデューサーであるショーン・エヴァレット。これまでナタリー・コール、ウィーザー、ハイム、アラバマ・シェイクス、ジョン・レジェンド、ザ・キラーズといったアーティストの作品を手掛け、5度のグラミー受賞経験を持つ。そんな彼が所有するロサンゼルスのプライベート・スタジオ=サトル・マクナゲットについて、話を聞いた。

Text:Paul Tingen Translation:Takuto Kaneko Photo:Shawn Everett

 

アナログ・コンソールのAPI 1608を
サミング・ミキサーとして使用

 サトル・マクナゲットは、エヴァレットが6〜7年前に購入した建物内にあるという。彼は当時をこう振り返る。

 

 「ちょうどニューヨークでジュリアン・カサブランカス+ザ・ヴォイズの『ティラニー』というアルバムを手掛けていたころです。インターネットでこの物件を見つけて、とてもクールだと思ったので購入を決断しました。もともとレイブ・パーティの会場として使われていたようでしたが、そのもっと前はジョージ・ハリスンの息子、ダーニ・ハリスンのスタジオがあったそうです

 

 サトル・マクナゲットにはコントロール・ルームのほか、大小2つのスペースがあるという。

 

 「小さい方にはキーボード類を、大きい方にはピアノやドラム・セットを置き、後者をメインのレコーディング・スペースとして使っています。そのスペースはもともと劇団に貸していました。しばらくして、彼らは舞台セットなどを放置して出ていったのですが、逆にそれらが良い雰囲気を演出してくれているのでそのままにしているんです(笑)」

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コントロール・ルームに併設された小さい方のスペースには、ARP Quartet、YAMAHA CS-50やROLAND Juno-106などのビンテージ・シンセサイザーやギター、ミキサーなどを備える

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もう一つの大きい方のスペースには、ドラムやピアノをセット。以前このスペースを使用していた劇団が置いていった道具や舞台セットなどを、エヴァレットはそのままインテイリアとして活用している

 コントロール・ルームには、AVID Pro Tools|HDXシステムを中心に、16chアナログ・コンソールのAPI 1608などエヴァレットがセレクトした多くのアナログ機材が用意されている。彼はこう続ける。

 

 「普段はほとんどPro Tools内で作業していて、モニターはYAMAHA NS-10Mをサブウーファーと組み合わせて使っています。1608はヘッド・アンプが素晴らしいので、レコーディングの際にはサミング・ミキサーとして用いますね。ミックス時もできるだけ1608に通してアナログの質感を付加するようにしているのです。ラックにはAPI 500互換モジュールのマイクプリやEQ、リバーブのAMS RMX16、ハーモナイザーのEVENTIDE H3000、コンプレッサーのUTA Unfairchild 670MやSHURE Level-Locなどを大量に格納しています。主にこれらのアウトボードは、Pro Toolsのハードウェア・インサートで使っているのです。このほかマルチトラックのテープ・レコーダーMCI JH24を持っています。レコーディングのときにはPro Toolsと併用して、常に2種類の録り音を得るようにしていますね。ミキシング時にもJH24を通すことが多く、バリスピード機能をEQのように活用することもできるのです」

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コントロール・ルームに備えられた16chアナログ・コンソールのAPI 1608。エヴァレットはヘッド・アンプを気に入っており、主にサミング目的で使用しているという。卓の上には、エヴァレットがグラミー受賞の際に授与された蓄音機型のトロフィーが置かれている

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コントロール・ルームに座るエヴァレット。写真左側には、真空管ステレオ・コンプレッサーUTA Unfairchild 670Mが置かれている。右側のラックには、オーディオI/OのSymphony I/OやAPI 500互換モジュールのマイクプリやEQなどをマウント

プリンスが使っていた
BOSSのペダル・エフェクト・セット

 アナログ機材愛好家の中には、“テープやレコードの方がデジタル・メディアよりも優れている”と考える人も居るが、エヴァレットはこういったことには全く興味が無いそう。

 

 「JH24を使っているのは、“それが良いサウンドだから”というわけではありません。Pro Toolsとは完全に違ったサウンドをオプションとして用意できるからなのです。そのため、テープ・スピードはとてもスローにしていますし、状態も非常に悪いままにしています。あえてカオスな状態で作業をすることによって、JH24は毎回違ったサウンドを提供してくれますし、その結果“ハッピーなアクシデント”にしょっちゅう遭遇することができるのです。プラグインは、こういうサプライズはもたらしてくれませんが、どちらも良いツールだと思いますね」

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マルチトラックのテープ・レコーダーMCI JH24。“あえて悪い状態のまま用いることで、予想外のエフェクトが期待できるんです”とエヴァレットは話している

 偶発的に起こる変化/効果が好きだというエヴァレットは、自作のコンタクト・マイクを使うことも多いという。

 

 「さまざまなコンタクト・マイクを持っていて、どれもスプリングやアタッチメントが付いています。もちろんNEUMANN U67をはじめ、COLESやBEYERDYNAMICのマイク、バイノーラル・マイクのNEUMANN KU100なども持っていますよ。また、普段からスタジオにマイクを常設しておくことはありません。ドラムやピアノを録るときに毎回同じマイク・セッティングは行いませんからね。もしそんなことを強要されようものなら、崖から飛び降りますよ(笑)」

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スプリングが取り付けられた自作コンタクト・マイクの一つ

 さらにエヴァレットは、大量に持っているというペダル・エフェクトについても語ってくれた。

 

 「以前、プリンスがドラムのモノラル・ミックスに使っていたエフェクト・セットをまるごと購入したのですが、それらはすべてBOSSのペダル・エフェクトだったのです。ディストーションのHM-2やDS-2、ピッチ・シフターのOC-2、ディレイのDD-3、フランジャーのBF-2、トレモロ/ビブラートのVB-2の組み合わせで、エフェクトのかかった音をメインのドラムに混ぜて用います」

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プリンスがドラムのモノラル・ミックスに使っていたというBOSSのペダル・エフェクト。左からトレモロ/ビブラートのVB-2、フランジャーのBF-2、ディレイのDD-3、ピッチ・シフターのOC-2、ディストーションのDS-2とHM-2が並ぶ

 もともとエヴァレットはインディー・ロックなどを多く手掛けるエンジニアであるが、自身の音作りについてはどう考えているのだろうか。

 

 「ロックはアナログ機材や、それらを使用したレコーディング技術とともに発展してきた音楽です。対照的にトラップやヒップホップ、EDMは、昨今の新しい機材やプラグイン、そしてそれらを使ったテクニックとともに成長してきました。個人的には、これらのアプローチを両方とも活用できるシーンがあると考えています。ロックの“粗さ”を、ヒップホップなどほかのモダンな音楽ジャンルに応用することで、とてもクールなサウンドを作ることができるでしょう」

 

Equipment

[DAW System]
Computer:
APPLE iMac
DAW:AVID Pro Tools|HDX
Audio I/O:AVID HD I/O、APOGEE Symphony I/O

[Recording & Monitoring]
Recorder:MCI JH24
Mixer:API 1608
Monitor Speaker:YAMAHA NS-10M
Microphone:NEUMANN U67、KU100、etc.

[Outboard & Effects]
Mic Preamp:API 512C、AMS NEVE 1073LB、etc.
Compressor:UTA Unfairchild 670M、SHURE Level-Loc、STANDARD AUDIO Level-Or、API 525、etc.
EQ:API 550A、etc.
Reverb:AMS RMX16
Harmonizer:EVENTIDE H3000
Pedal Effects:BOSS HM-2、DS-2、OC-2、DD-3、BF-2、VB-2
Amp Simulator:TECH 21 SansAmp Rackmount

[Instruments]
Keyboard & Synthesizer:YAMAHA CS-50、ROLAND Juno-106、ARP Quartet、etc.

 

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ショーン・エヴァレット

【BIO】カナダ出身のエンジニア/プロデューサー。インディー・ロックなどの音楽ジャンルを得意とし、これまでに5度のグラミー受賞経験を持つ。ウィーザー、ハイム、アラバマ・シェイクス、ジュリアン・カサブランカスなどの作品を手掛けている

Recent Work

Women In Music Pt. III

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  • ハイム
  • オルタナティブ
  • ¥1222

 

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