ミックス/マスタリングに特化したソフトやポストプロダクション向けのオーディオ・リペア・ツールなど、iZotopeの製品は多岐にわたる。ここでは国内外で活躍する8名のクリエイター/作曲家/エンジニアに登場いただき、普段彼らがどのようにiZotope製品を使用しているかを語ってもらった。既にiZotope製品を使っているユーザーから未体験の読者まで、iZotope製品を試してみたくなるようなTips/ノウハウ集をお届けしよう。
Mitchie M
Recent Work
僕はVocaloidを使用した楽曲を作っていますが、普段からVocaloidの調声にはiZotope RX 7を使っています。そこで、Vocaloidの声をより人間らしくする2つのテクニックをメインにお伝えしたいと思います。
RX 7 Audio EditorでVocaloidの歌声を人間らしくする
クリップ・ゲインでオートメーションを施す
1つ目にご紹介するのは、オーディオ・リペア・ツールRX 7 Audio Editorを駆使してVocaloidの歌声をより人間らしくするテクニック。Vocaloidの歌声は平たく聴こえがちなので、クリップ・ゲインでオートメーションを施し、より生き生きとした歌声にしていきます。
まず、Vocaloidのオーディオ・ファイルをRX 7 Audio Editorに読み込み、画面左下にある波形/スペクトログラムのスライダー(赤枠)を左へスライドして画面に波形を表示させます。次に画面下部のView Clip Gain(青枠)をクリック。すると波形の上にクリップ・ゲインが現れます。これで、波形を見ながらクリップ・ゲインのオートメーションが描ける状態になりました。あとはクリップ・ゲインのラインをマウスで操作して、ゲインを変更していきましょう。
ここでのポイントは、アタックを強調するということ。Vocaloidの音声は人間に比べてアタックが弱いので、アタックを強めて言葉がはっきり聴こえるようにします。
強調したい言葉のアタック成分のみをブースト
これで歌声がだいぶ良くなりましたが、音量を調節しただけではまだ若干平べったい印象。そこで、今度はアタックの高域成分を強調し、声に張りを加えてみましょう。波形/スペクトログラムのスライダーを右へスライドし、画面にスペクトログラムを表示させます。画面下段のLasso Selection tool(黄枠)をクリックし、強調したい言葉のアタック成分をピンポイントで選択。このとき僕は、大体3〜5kHz辺りを選びます(緑枠)。そして画面右端にあるUtilityタブからGainを選択し、選択範囲のゲインを変更します。ここでは8dB上げてみました。以上の処理で、Vocaloidの音声をより音量に起伏のある歌声にし、かつ明りょうに聴かせることができるでしょう。
母音の“お” “あ”をRX 7 Audio Editorで簡単修正
2種類のオーディオ・ファイルを用意
テクニックの2つ目は、RX 7でVocaloidの母音を調整する方法。Vocaloidの中でも特に初音ミクは、どの音高でも母音の“お”の発音が少しこもり気味に聴こえます。しかし人間が高域で“お”と歌唱するときは、口角が上がるので“あ”に近い発音になることが多いのです。そこで、ここでは初音ミクが“けれど〜”と歌うフレーズの“ど”を、人間らしい音に変化させるテクニックをご紹介します。
そのためには、まず2種類のVocaloidのオーディオ・ファイルを用意します。例としてオリジナルの歌詞“けれど〜”と歌ったものと、もう片方は編集用にわざと母音を変えた歌詞“けれだ〜”の2つです。ここで気を付けることは、“ど”と“だ”の音量を大体合わせること。これはあとで合成したときにうまくマッチさせるためです。また、両方のファイルのスタート・ポイントは、書き出す際に同じ位置にしておいてください。
基音から第3倍音までをコピー&ペースト
次に、これらのファイルをRX 7 Audio Editorで別々に開き、画面をスペクトグラム表示にします。そして“けれだ〜”のファイルで、“だ”の部分の基音から第3倍音までをLasso Selection toolで選択してコピー。そのまま“けれど〜”のファイルの“ど”の部分にペーストします。このとき、ペーストした位置がズレているとうまく合成できないので、コピーしたときのロケーターのポジションを覚えておき、それと同じ位置にペーストしてください。これで“けれど〜”のファイルを再生すると、“ど”が“だ”に近い発音になり、口角を上げて伸び伸びと歌っている雰囲気の音声が生み出せるのです。
フォルマントの知識があれば、各倍音のゲインの上げ下げで似たようなことができるのですが、僕としては手間がかからないこの方法をお薦めします。ちなみに声質や言葉によっては、基音から第2倍音までをコピー&ペーストした方が良い結果になることもありますので、いろいろとトライしてみるとよいでしょう。
RX 7で特定のシビランスをピンポイントで抑える
レコード用マスター音源のトリートメントに
ここまではRX 7 Audio Editorを使ったVocaloidの調声について紹介しましたが、最後はアナログ・レコード用マスター音源のトリートメント術をお話ししましょう。
最近僕はアナログ盤のアルバムをリリースしたのですが、そのマスター音源を作る際に、RX 7 Audio Editorがとても役立ちました。アナログ盤はCDと異なり、カッティング時に不要な高域を含んでいるとノイズの原因になります。特にボーカルのシビランスはしっかりと抑えないと、“ザー”という耳障りなノイズを発してしまいます。そこで、RX 7 Audio Editorで2ミックスのマスター音源からシビランスだけをピンポイントで選択し、ゲインを抑えることでノイズを軽減したのです。
やり方はこれまでのテクニックで使った内容を応用するだけです。RX 7 Audio Editorを立ち上げ、2ミックスをインポートします。シビランスの部分(白枠)を見つけたら、Lasso Selection toolで選択。画面右端にあるUtilityタブからGainを選択し、選択範囲のゲインを今度は−8dBしました。
このようにRX 7 Audio Editorにはさまざまな活用方法があり、視覚的にも分かりやすいので作業がはかどります。ほかにもリバーブ成分を除去するDe-reverbや、ノイズなどのクリップ除去に特化したDe-clipなどの便利な機能がRX 7 Audio Editorにはたくさんあるので、持っていて損のないアプリケーションでしょう。
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