織田哲郎がAbleton Liveを使う!ライブ実用例〜セッションビューを駆使した生楽器の多重録音

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楽曲制作に限らず、マルチプレイヤーの中核を担うシステムやバンド編成を問わない表現ができる楽器として、ライブ現場でも目覚ましい活躍を見せるDAWソフトAbleton Live。ここでは、アーティストによるその実用例を紹介していく。日本の音楽界に大きな功績を残してきた織田哲郎が、40年近い活動の中で初となるワンマン・ステージ『織田哲郎 LIVE TOUR 2021 天上天下唯我独奏』を10月に開催した。そこでは、多様な楽器をすべて1人で奏でながら多重録音でループを構築していく圧巻のパフォーマンスを展開。Liveで構築されたこのシステムの裏側を、織田とエンジニアの鈴木誠氏が語る。

Live Photo:森島興一

織田哲郎 × Ableton Live ライブ・セッティング

  Ableton Liveは、APPLE MacBook Proにインストールされており、ステージ袖ではエンジニアの鈴木誠氏が操作を行う。1曲につき1つのプロジェクト・ファイルが用意されており、鈴木氏側での操作には、MIDIコントローラーICON Platform M+を使用する。ステージ上では、織田がギターやピアノのほか、シェイカーやコンガ、タンバリンなどのパーカッション、サックスなどを演奏しながらループを構築していく。ループ録音の開始など、織田によるLiveの制御は、MIDIキーボードROLAND A-300Proと、MIDI CCやノート・ナンバーが割り当てられたNEKTAR PacerやBOSS FS-5Uなどのフット・スイッチで行われる仕組みとなっている。

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機材は織田の周りを囲む形で設営

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正面にはフット・ペダル類が並ぶ。中央のNEKTAR Pacerはループ録音開始時などに使用。2台のBOSS FS-5Uは、左の個体ではDrum Rackにアサインされたキックとシンバルが鳴り、中央右の個体はシーケンス再生用

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MIDIキーボードROLAND A-300Proは、シンセの演奏やエフェクト操作、シーケンスの再生などに使用。足元にはFREE THE TONE ARC-4をはじめとしたギター・ペダルが並ぶ

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ステージ袖に設置されたエンジニア︎鈴木誠氏のコントロール・スペース。Ableton LiveはAPPLE MacBook Pro上で起動し、ICON Platform M+でコントロールを行う。オーディオI/OはRME Fireface UCを使用

結果的にはMax for Liveをすごく駆使しました

 サポート・メンバー無しのツアーを行うのは長いキャリアの中でも初の試みとなる織田。しかも、2000年代以降のライブでは、同期音源やイアモニは使ってこなかったというが、今回のライブを行うきっかけは何だったのか?

 「ご時世的にライブ自体がどうなるか分からなくて、初めて1人でライブをやることにしたんです。何か面白いことをやりたいと思って、まずは3trのハードウェアのルーパーを出したんですが、それだけではできないことが出てきて」

 そこでAbleton Liveの導入を提案したのが、長年織田のエンジニアを務める鈴木誠氏だ。

 「トラック数も入力も足りなかったので、僕から“Ableton Liveを使えばできますよ”と提案しました。YouTubeで海外の女性がLiveを使ってマルチ演奏する動画を見て格好良いとも思っていたんですが、僕も使ったことは無かったんです」

 Liveの導入に向けて、織田はTwitterを活用したという。

 「まずはTwitterで“誰かLive使っている人教えてよ”みたいなツイートをしてみたんです」

 そこでつながったのが草間 敬だった。「Liveの概念から教えてもらいました」と話す鈴木氏が研究を重ねて構築したのが、オートメーションを駆使したプロジェクト・ファイルだ。

 「草間さんからMax for Live(以下、M4L)を使うとできることが広がると聞いて、最初は“知識も無いし……”と思ったのですが、結果的にはBINK looperなど、すごく駆使しましたね。マルチ演奏の動画がオートメーションで制御していたのをヒントに、オートメーション制御を半分、織田さんが演奏するのを半分で。僕たちのこだわりで、仕込んで流すだけのライブにはしたくなかったんです。ループは全部織田さんが演奏してリアルタイムに組んで、その素材をオートメーションで流したり止めたり、ループを“この小節からこのスロットに何小節分録る” というようなプログラムを組みました」

 織田がフット・スイッチを踏むとループ録音が開始。パーカッションなどでループを組み、ビートが完成したところで織田が弾き語りをするのが主な流れだ。そのほか、ギターの音色切り替えやエフェクト処理なども織田が行うため、「演奏が始まってからは織田さんがループに関する操作はしなくていいようにプログラムした」と言う鈴木氏。セッションビューを使い、演奏曲ごとにプロジェクト・ファイルを構築した。

 

Ableton Live プロジェクト・ウィンドウ

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①MIDI CC &ノート・ナンバー
MIDI CCやノート・ナンバーを割り当てて、ステージ上のキーボードやフット・スイッチで動作するように設定。シーケンスの開始となる“Song Start”やコーラス用の“Cho”などが設定されているのが見て取れる

②オートメーション
曲の展開ごとに行われるパートの抜き差しや、曲中でのループ録音の開始タイミングなどは、すべて専用スロット内でオートメーションを描くことによって制御されている

あまり見たことが無い味わいのライブができた

 ハードウェアのルーパーでは難しい柔軟な展開のループもLiveでは実現が可能。その具体例を織田が紹介してくれた。

 「ルーパーを使ってやりやすいのは、ずっと同じコード進行で行くような構成の曲ですよね。でも私の曲はAメロ→Bメロ→サビと展開があるポップスなので、鈴木君にあらかじめプログラムを組んでもらったおかげで、1番で演奏/録音したAメロがそのまま2番のAメロで流れて、そのコード弾きをバックにソロを弾くというようなことができました」

 「SOMEBODY TO LOVE」では、Live付属のインストゥルメント(音色)や、複数パラメーターを同時に操作するマクロ機能を駆使。MIDIキーボードを使い、シンセ・ベース(Disto FM Bass)→ブラス音色(Arena Brass)とシームレスに演奏してループを構築し、ツマミでフィルターをかけるDJ的な演出を見せた。この展開を鈴木氏が解説してくれた。

 「シンセ・ベースからブラスへは16小節弾いたら音色が切り替わるようにオートメーションを描きました。フィルターはディレイと組み合わせていて、ハイカットするに従ってディレイが増えるようにマクロを組みましたね。草間さんにマクロを教えてもらったときに試しに作ってもらったものがなかなか良くて、それを調整して使わせてもらったんです」

 2人が初挑戦を重ねることとなった今回のライブだが、この経験を通して鈴木氏はLiveの可能性を感じたという。

 「Liveはループ主体の音楽で使う人も多いですが、今回のようにポップスとして成立する使い方が1人でできるとなると、エンターテインメントとしてすごく面白いですよね」

 織田は、楽器演奏とLiveの融合によって生まれた新たな“味わい”に触れつつ、今後の展望を語ってくれた。

 「今回はDJ的な作業もしたけれども、ほかのフレーズの演奏は極めて普通にロックだったりして、あまり私も見たことが無い味わいのライブができたと思いますね。今の音楽は、機械的なものと人間の演奏をどう組み合わせるかをみんな考えていて、私も“面白く新しい味わいとして何を加味していくか”というのは音楽を作るときにいつも一番考えています。ただ、それをライブでこんなに真剣に考えたのは初めてでした。やってみて、一人に限らずバンドでやるにしてもいろいろな可能性があると感じましたね。やっぱり楽器を弾く楽しさは格別なので、せっかくならみんな両方味わってほしいです」

 

 PICK UP! 
ループ用M4Lデバイス BINK looper

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 鈴木氏がループの録音/再生に駆使したMax for Live(M4L)デバイスの一つが、オランダの音楽家Binkbeatsが開発したBINK looperだ。Loop Lengthで録音拍数を設定し、Delay(Beats)では、録音信号を送ったタイミングから、設定した拍数分遅れて録音が始まる。これを活用し、コーラスの多重録音などを実現した。

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コーラスの多重録音を行う設定のイメージ図。パート別に録音開始タイミングをずらしている

 

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織田哲郎

【Profile】シンガー・ソングライター/作曲家/プロデューサー。「世界中の誰よりきっと」「負けないで」「おどるポンポコリン」などヒット曲を生み出し、日本の歴代作曲家売上ランキングは第3位に輝く。ライブ活動も精力的に行い、2月にストリングス編成ライブ『幻奏夜Ⅵ』(大阪・横浜)、『幻奏夜+』(下関)を開催予定。自身のYouTubeチャンネル『オダテツ3分トーキング』も更新中。

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