RED ORCAがAbleton Liveを使う!ライブ実用例〜マニピュレート × 演奏のセパレート・システム

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楽曲制作に限らず、マルチプレイヤーの中核を担うシステムやバンド編成を問わない表現ができる楽器として、ライブ現場でも目覚ましい活躍を見せるDAWソフトAbleton Live。ここでは、アーティストによるその実用例を紹介していく。金子ノブアキ(ds)によるプロジェクトRED ORCAで、来門(rap、vo)、PABLO(g)、葛城京太郎(b)とともに、Ableton Liveを使ったライブ・マニピュレートを行うのが草間 敬(prog、k)だ。SEKAI NO OWARI、AA=などのマニピュレーターとしても活躍し、現場経験が豊富な草間が、Liveを使った実践的なライブ・マニピュレートのノウハウを語ってくれた。

RED ORCA × Ableton Live ライブ・セッティング

 RED ORCAでの草間のシステムは、2台のAPPLE MacBook Proを使用。1台はAbleton Liveが起動するシーケンス用、もう1台をシンセ演奏用として使い分けている。シーケンス用のMacBook Proには、曲の頭出しやエフェクト・コントロールなどに使用するMIDIコントローラーAKAI PROFESSIONAL APC40と、オーディオI/OのFOCUSRITE Scarlett18I20を接続している。

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2台のMacBook Proの前にLive用MIDIコントローラーAKAI PROFESSIONAL APC40を配置。MacBook Proは左に置かれているのがAbleton Liveの駆動しているシーケンス用で、右の機種はシンセの手弾きに特化して使用。それぞれ別の信号系統でセッティングしている

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Liveはライブ中に落ちたことが1度も無い

 以前はバックアップ用と併せて2台のAPPLE MacBook ProでAbleton Liveのシーケンスを走らせていた草間。しかし、現在のRED ORCAでのシステムは異なるという。

 「Liveはライブ中に落ちたことが一度も無いですし、もし止まっても、ほかのメンバーたちがつないでくれる確信があるので、サブ機は要らないと思うようになりました。バックアップ用だったMacBook Proには別のソフトウェアを立ち上げて、手弾きするシンセの演奏専用機として使っています」

 Liveは、AKAI PROFESSIONAL APC40で操作する。

 「APC40はLiveに直結するので、再生/停止、曲のロケートや頭出しのほか、ダイアルを使ったマクロコントロールで、リアルタイムのエフェクト操作などをしています」

 続けて草間は、PAを担当するDUB MASTER X氏とのやり取りを交えつつ、音声出力やクリックについてこう話した。

 「以前はシーケンス×2ch、コーラス×2ch、サブベース×1chで出していましたが、フェス出演時に“2chにまとめてみない?”と言われて試したら結構良くて。以来、フェスなど時間の制約が厳しいときはLiveから送る音声をなるべくまとめて、生楽器をメインに追えるような方向にしよう、となっています。クリックは、Live上ではMIDIデータになっていて、音の差し替えなども便利です。あっくん(金子ノブアキ)のクリックは“音楽と全く関係無い音にしたい”という希望もあり、少しひずませてアタックをつぶした音にしています」

Liveは付属エフェクトもすごく良い

 ライブ用のプロジェクトは、アレンジメントビューを使用し、バンドごとに1ファイルで完結させるスタイルだという。

 「僕はどのバンドでも一つのプロジェクトにほぼすべての楽曲を入れる方式です。それぞれの曲をアルバムの曲順で並べてあって、セットリストが決まったら演奏順にAPC40へMIDIマッピングします。その日によって、イントロを付けたいとかサビを倍にしたいとか、バージョン違いが必要なときにも、Duplicate Time(command(WindowsではCtrl)+Shift+d)でオリジナルの曲の後ろにコピーを作って、同じプロジェクト内で編集するんです。曲のデータはRED ORCAで約50GB、別の現場のSEKAI NO OWARIでは約100GBありますが、全然落ちないですね。それぞれの曲では、A1、B1、サビみたいに曲の構成が分かるように空のMIDIクリップが並んだトラックを作っています。リハーサルでも便利だし、構成を間違えて1小節ずれた、というようなときに、これを目印にして生の演奏に合わせてサビ頭からスタートし直したこともあります」

 

Ableton Live プロジェクト・ウィンドウ

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①バンド楽曲を網羅
バンドの全曲を網羅したプロジェクト・ファイルでライブを行う草間。ライブごとに曲の配列は変えず、演奏順にMIDIマッピングを変更して使用。ライブ用のバージョン違いも含め1つのファイルに集約されている

②テンポ・マップ
それぞれの楽曲のテンポは、オートメーションで描き込んで管理されている。オートメーションの基準は60BPMに設定されていて、各曲とも再生が終わると60BPMに戻るようになっている

 

 ライブで使うエフェクトについて「安定性を求めてLive付属のエフェクトばかり使ってきましたが、どれもすごく良い。むしろ曲作りやミックスでもLive付属エフェクトが中心になってきています」と語る草間。多用するデバイスについてこう続ける。

 「Echo、EQ Eight、Compressorは定番だし、Hybrid Reverbも実際に部屋で録音したようなすごくナチュラルなアンビエンスになるので、とても重宝しています。あと、オーディオ・エフェクト・ラックにリアルタイムでよく使うエフェクトをまとめて入れているんです。このエフェクト・ラックは5年以上前からアップデートしつつ使っていて、いまや自分専用のプラグイン・エフェクトみたいになっています」

 そのほか必要を感じたものはM4Lデバイスを自作する。

 「配線確認用にサイン波を出せるものや、クオンタイズ・グリッド(1Bar/Off)を一発で切り替えるボタンなどを作りました。中でも、日本有数のM4Lプログラマーsuzuki kentaro君と作ったLOOP-SETは、複数のループ範囲を設定しておき、MIDI信号で特定のループをオンにできる便利なものです。あったら良いなと思ったら本当に作れていいですよね」

 Liveで同期音源を作る際のアドバイスについて尋ねると、「あまりコンプをかけたりEQでシャキシャキにしたりし過ぎない方が良いですね」と話す草間。

 「ライブの生演奏の音はEQやコンプ処理をする前の音なので、妙に浮いちゃうんです。僕も最初は生じゃ絶対出せない帯域を出した方が補完し合えるんじゃないかと思っていましたけど、今はゴロッとしたミックス前のトラックみたいな音をそのまま出しちゃいますね。そういう細かい処理は、PA側で生音とブレンドするときに考えてもらう方が良いと思います」

 最後に草間は、バンドにLiveを取り入れることによって、「ジャンルにこだわらない音作りができる」と語ってくれた。

 「Liveはクラブ/ダンス・ミュージックを作るのが得意なソフトと言われますが、実際そうです。そして操作にスピード感もある。だからバンドのライブでそういうエッセンスを入れたいときにすごく良いですよね。生演奏だけだとやりようが無いこともLiveがあれば取り入れられますよ」

 

 PICK UP! 
パラメーターを連携させるマクロコントロール

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 草間はライブ中にリアルタイムで使う5種類のエフェクト(Beat Repeat 、Auto Filter、Delay+Satulator、Ascent(Grain Delay)、Reverb)をエフェクト・ラックに集約している。ラック内では、複数のパラメーターをまとめて操作可能なマクロコントロールを設定することが可能。草間は、DelayとSatulatorを同時にオンにして、ディレイによって小さくなったフィードバックの音をサチュレーションで持ち上げるなどして活用する。

 

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草間 敬

【Profile】25年以上にわたり、作編曲やエンジニアとして数多くのアルバム制作に参加。金子ノブアキがプロデュースを手掛けるRED ORCAでは、ライブ・マニピュレート/キーボーディストとして活動している。そのほか、AA=やSEKAI NO OWARIなどのライブ・マニピュレートも手掛ける。2019年からは今井慎太郎とのユニット=mode-rateとしても活動中。

 Recent Work 

『Crow from the sun』
RED ORCA
(PARADOX)

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