SYNCLIVE Studio M 〜360 Reality Audio対応スタジオをレポート

SYNCLIVE Studio M 〜360 Reality Audio対応スタジオをレポート

数多くのアニメ・ソングを手掛ける音楽プロデューサー/エンジニアの佐藤純之介氏。彼が代表を務めるPrecious toneとSYNCLIVEが共同運営するのが、目黒区にある360 Reality Audio対応スタジオ、SYNCLIVE Studio Mだ。このスタジオがどのような理念の下に設計されたのか、佐藤氏に話を聞いてみよう。

Text:Susumu Nakagawa Photo:Takashi Yashima(except*)

モニター・スピーカーの決め手はGLM補正

 目黒区にある地下2階層で構成された音楽制作スタジオ、SYNCLIVE Studio M。壁や床には赤いベロア生地を使用し、吹き抜けの天井には豪華なシャンデリアがつり下がる。地下1階には360 Reality Audio対応のコントロール・ルーム、地下2階にはミーティング・スペースとバー・カウンター、そして広々としたメイン・ブースと隠し扉で仕切られたボーカル・ブースを備えている。一見、音楽制作スタジオとは思えないラグジュアリー感あふれるスペースだ。このスタジオを共同運営するPrecious tone代表の佐藤純之介氏に、スタジオ設立の経緯を伺った。

佐藤純之介氏。バンダイナムコアーツのチーフ・プロデューサーを経て2020年にPrecious toneを設立。多くのアニメ・ソングの制作に携わり、自身でエンジニアリングをすることも多いという

佐藤純之介氏。バンダイナムコアーツのチーフ・プロデューサーを経て2020年にPrecious toneを設立。多くのアニメ・ソングの制作に携わり、自身でエンジニアリングをすることも多いという

 「このスペースができたのは3年くらい前なのですが、実際にスタジオとして稼働し始めたのは約1年前。SYNCLIVEというライブ・コンサートのマニピュレートに注力した会社がここを制作スタジオとして使っていましたが、途中から自分が運営を任されたんです。そして昨年3月に改装を行い、現在は360 Reality Audio対応のスタジオとして機能しています。アーティストやクリエイター、そしてマネージャーやプロデューサーなど、スタジオに来る関係者すべての人たちがリラックスし、そしてクリエイティブな気持ちになれる居心地の良い空間を目指しました」

SYNCLIVE Studio Mの地下2階にあるメイン・ブース

地下2階にあるメイン・ブース。奥の壁に設置された巨大な鏡はマジック・ミラーとなっており、5台のディスプレイを映し出すことができる。また、天井裏にはGENELECのモニター・スピーカーを4台配置し、柱の中にはサブウーファーが内蔵されているため、この部屋では映画なども楽しめるそうだ

SYNCLIVE Studio Mのメイン・ブースにあるカスタム・デスク

メイン・ブースにあるカスタム・デスク。コンセント類のほか、アナログ2イン/2アウトのオーディオI/O、DIGIGRID DigiGrid Mが埋め込まれている

 この物件にはもともとバーが入居しており、地下1階のコントロール・ルームには以前、VIPルームがあったという。

 「改装の際、地下1階と地下2階をつなぐらせん階段と躯体だけはそのままにして、あとはすべてリフォームしているんです。壁や床をベロア生地にしたり、カーペットやカーテンを使ったりして吸音しているのですが、それでもまだ反射が気になるので、後々音響工事を入れようと思っています」

 コントロール・ルームについて、佐藤氏はこう話を続ける。

 「歌モノを録ったり、ステレオ・ミックスの作業もできるようにしてあるので大きいデスクを置いているのですが、360 Reality Audioの作業をするときはボトム・スピーカーが隠れてしまうので、小さいデスクに変更しています」

 設置された13台のモニター・スピーカーは、すべてGENELECを使用しているそうだ。

 「360 Reality Audio用のモニター・スピーカーは、The Onesシリーズがメインです。フロントL/Rには8341A、ボトムには8330A、それら以外には8331Aを備えています。決め手はやはりGLM補正ですね。キャリブレーションからコントロールまで一括して行うことができるので非常に便利ですし、そのサウンドには信頼を置いています。もうここ10年くらいはGLMを使っていますから。特にコントロール・ルームはよく響くので、GLMが役立っていると思います」

SYNCLIVE Studio Mのコントロール・ルーム

SYNCLIVE Studio Mのコントロール・ルーム。モニター・スピーカーはGENELEC The Onesシリーズをメインとし、ボトム・スピーカーには8330Aを使用する。奥手には、サブウーファーのGENELEC 7360Aが2台見える

 8341Aは360 Reality Audioだけではなく、ステレオ・ミックス時のリファレンス・モニターとしても、一推しだと語る佐藤氏。

 「ステレオ・ミックスの案件では、このスタジオを外貸ししたり、外部のエンジニアが来てミックスやレコーディング作業をしてもらうこともあります。そういったこ場合でも、モニターが8341Aだと安心です。誰が来ても困らない音が鳴る、というのは一番大事ですからね」

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メイン・デスクの右側にあるラックには、コンプレッサーのWESAUDIO Beta76やマイクプリのRUPERT NEVE DESIGNS Portico 511×2、プリアンプのAMEK System 9098 EQなどが格納されている

レコーディング状況をリモート確認できる

 佐藤氏は、「せっかくなので、360 Reality Audioミックスの曲を聴いてみてください」と言い、ロックとシンセ・ポップの楽曲を再生してくれた。

 「四方八方に配置したオブジェクトから同時に鳴らすことによって、音像を多面的に表現できるようにしているんです。例えばドラム・キックやベースは腰下、つまりボトム・フロントとボトム・リアの計4オブジェクトから鳴らしているんですよ。音楽ジャンル的に言うと、ロックよりシンセ・ポップの方がオートメーションでオブジェクトをよく動かしている傾向にあります。リリースの短いシンセがたくさん使われているようなテクノだと、能動的な音像を表現しやすいかもしれませんね。あと、360 Reality Audioはアンビエントやクラシックとも相性が良いと思います」

 地下2階にあるボーカル・ブースとコントロール・ルーム間でのやりとりには、APPLE iPadに搭載のカメラとマイク、そしてオンライン・ミーティング・アプリZoomを用いるそうだ。

 「直接スタジオに来られない関係者も、Zoomを使うことによってレコーディング状況をリモートで確認できるようになるんです。これが一番のメリット。今っぽいですよね(笑)」

 同フロアのミーティング・スペースについて、佐藤氏はこう説明する。

 「やっぱりスタッフや関係者との打ち合わせと、アーティストのレコーディングが同時にできるというところがポイントです。ロビー的な雰囲気にしたので、とてもリラックスして打ち合わせが行えます。また、スピーカーのADAM AUDIOS3Aを設置しているので、このスペースに居ながらコントロール・ルームの音をモニタリングできますし、大きなディスプレイにはZoom画面を映し出せるのでボーカル・ブースの状況も把握することが可能です」

SYNCLIVE Studio Mのメイン・ブースに併設されたミーティング・スペース

メイン・ブースに併設されたミーティング・スペース。天井は吹き抜けになっており、壁一面が棚となっている。この写真のどこかに、ボーカル・ブースへ通じる隠し扉があるので探してみてほしい

隠し扉の向こうに現れるボーカル・ブース

隠し扉の向こうに現れるボーカル・ブース。広さは約6畳程度ある。マイク・スタンドの隣にはAPPLE iPadがスタンバイし、Zoomでコミュニケーションを取ることが可能だ

 最後に佐藤氏は「新しい体験をしたい方は、ぜひ一度このスタジオに来てみてほしい」と話す。

 「360 Reality Audioをいろいろな方に体験してもらっています。聴くだけじゃなく、360 WalkMix CreatorTMでミックスしてみたいエンジニアの方も歓迎です。音楽制作に没頭できる環境はばっちり整っているので、皆さんとともに忘れられない時間を共有したいと思います」

 

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