最大7.1.2chに対応するイマーシブIRリバーブ〜NUGEN AUDIO Paragon

最大7.1.2chに対応するイマーシブIRリバーブ〜NUGEN AUDIO Paragon

 Reviewed by 
佐藤純之介
【Profile】エンジニアリングも手掛けるプロデューサー。ランティス/バンダイナムコアーツを経て、2020年にPrecious toneを設立。ハイレゾにもいち早く着手し、現在は360 Reality Audioに対応したSYNCLIVE Studio Mを拠点とする。

吸音されたブースで録った音へ、一流スタジオのように上品な空気感をプラス

 NUGEN AUDIOと言えば、早い段階からMaster Check Proをはじめ、MAだけでなく音楽制作にもターゲットを絞ったラウドネス・メーターやトゥルー・ピーク・リミッターなどを発表しており、高性能なアナライズを行うメーターやマスタリング・ツールをリリースしている会社という印象でした。ですので、大変失礼ながらParagonのようなプラグイン・リバーブを作っていることを知らずにいました。きっと高音質が特徴の一つなのでしょうが、現在ミックス中の楽曲で使ってみましたので、レポートいたします。

 

 Paragonは“新たな高みを目指したリバーブ・プロセッサー”を謳い、7.1.2chまでのサラウンドに対応したコンボリューション、いわゆるIRを用いたサンプリング・リバーブです。つまり、演出的で派手な効果を狙ったリバーブではなく、リアルな空間表現を重視したものと言えます。その音色を確認するため、まずは女性ボーカルのソースを用いて2chでサウンドをチェックいたしました。

 

 ボーカル・トラックからセンドで−10dB送り込み、実音+リバーブでの音色をチェックしました。CPU負荷はAPPPLE MacBook Pro(2020)16インチ、最高スペックにて、32ビット/96kHzで7〜8%程。インサートで立ち上げてもさほど負担にはならないかと思います。

 

 サウンド・チェック一回目、立ち上げた際のデフォルトのプリセット“add Presence”に驚きました。比較しないと気付かないくらいの地味な変化で、非常にニッチな表現ですが、吸音しすぎのデッドなボーカル・ブースで収録した音が、Bunkamuraスタジオ……そのままだと広く響くのでボーカリストの周りについたてを立てて、さらに毛布を掛けて程良い反射を拾ったような上品なプレゼンスと響きが足され、詰まった空気感が和らぎました。ユーザー・インターフェースもよくできており、残響がオレンジの波動として表現され、視覚的にも距離感/タイム感を知るのに非常に便利。この楽曲のミックスにおいて、Paragonでのリバーブは本採用となりました。

リバーブ・タイムを伸ばしても音色が劣化しない、Test Soundsでリバーブ音も簡単プレビュー

 コンボリューション・リバーブというとプリセットの選択がメインで、音作りの幅が狭い印象なのですが、Paragonでは、EQは当然としてリバーブの入出力でハイパス&ローパス・フィルターが設定可能!(画面①)。これは音作りに非常に重要なのですが、意外と設定できるプラグインが少ないんですよね。あと、リバーブ・タイムを伸ばしても音色が劣化することなく、ナチュラルな状態を保ち変化したことに大変驚きました。

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画面① ハイパス&ローパス・フィルター(HPF/LPF)はメイン画面左上のスライダーでも全体の調整ができるが、I/O画面では入出力単位で設定が行える。プリディレイやディケイ、クロストーク量も入出力単位で細かな設定が可能

 さらに超便利!と感動したのが“Test Sounds”というプレビュー機能(画面②)。楽器かフォーリー・サウンドのサンプルを選択し再生することで、リバーブ音が確認できるというもので、映像音楽の音効スタッフにとっては目からウロコだと思います。

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画面② IR画面。上にスペクトラム、下にEQ、右のTest Soundsでは楽器やSEを鳴らしてリバーブをプレビューできる。Pragonは最先端の技術を用いて3Dインパルス応答を分析/分解/再合成しているため、IRの圧縮/伸長による不自然な音質変化が起こらないとのこと

 Paragonは最大7.1.2chやDolby Atmosに対応ということで、それであれば360 Reality Audioにも対応できないかと実験してみました。360 Reality Audioは360 Reality Audio Creative Suiteというプラグインを用いて、オブジェクト単位でのミックスになるので、LFEを除く5ch分のオブジェクトを球体に配置し、Paragonからの出力をバスで各オブジェクトに分配。こうすることで前後左右の平面分の音像を作ることができました。さらにこの5chのオブジェクトを平面のまま傾けることで残響に角度をつけるという表現もできました。

 

 最後に、音楽制作においては重要ながらも地味な立ち位置になりがちなコンボリューション・リバーブですが、Paragonを使ってみてその印象は払拭されました。大きな目立つ効果ではなく、音をなじませる/なじみやすく処理する、よりリッチにする、悪い環境で収録した音のレストレーションなど、下地作りに無くてはならない存在です。細部にこだわる人にほどお薦めできるプラグインかと思いました。上下表現を含む、より多チャンネルへの対応やプリセットの増加など、さらなる発展が楽しみです。

 

NUGEN AUDIO Paragon【イマーシブ/VR】

78,100円

 Requirements 
■Mac:OS X 10.9以降(INTEL Macのみ)
■Windows:Windows Vista以降
■AAX/AU/VST2&3(64ビットのみ)

 

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