「NUGEN AUDIO Paragon」製品レビュー:Dolby Atmosからサラウンドまで対応可能なIRリバーブ・プラグイン

NUGEN AUDIOのコンボリューション・リバーブ・プラグイン「Paragon」

 NUGEN AUDIOはマスタリング・エンジニアのジョン・スコラと、音響やプログラミングに精通したポール・タッパーによって設立された英国のソフトウェア・ブランド。今回紹介するのは、同社のコンボリューション・リバーブ・プラグイン、Paragonだ。IRの再合成技術を応用して、設定が難しい3D空間のリバーブを直感的かつ緻密(ちみつ)に処理することができる。

クロストークやハイパス/ローパス・フィルターは
チャンネルごとに設定可能

 ParagonはMac/Windowsに対応し、AAX/AU/VST2.4/VST3プラグインとしてDAW内で動作。モノラルから最大7.1.2ch、そしてDolby Atmosに対応している。画面最下段にはドライ/ウェット量をコントロールする“Mix”スライダーと、入力レベルを調節する“Trim”スライダー、レベル・メーターを搭載。画面右下に縦一列で並ぶ4つのボタンでは、メイン・パネル、IRパネル、I/Oパネル、セッティング・パネルという計4つの画面を切り替えることができる。

 

 メイン・パネルにはハイパス/ローパス・フィルターやクロストーク、ディケイ、プリディケイ、ルーム・サイズなどの主要パラメーターを備えるほか、中央部分にはリバーブ量を平面360°で表すビジュアライザー、L/C/Rや各サラウンド・チャンネルに対応するボタンを表示。続くIRパネルでは、外部のIRデータをロードし、上段にあるスペクトラム・アナライザーで確認したり、下段にあるEQで各チャンネルのIRデータをコントロールすることができる。

IRパネル。上段にあるスペクトラム・アナライザーでIRデータを確認したり、下段にあるEQでIRデータをコントロールすることができる。画面右上には、Test Soundsセクションを装備

  I/Oパネルでは、各チャンネルにおけるイン/アウトのレベルやクロストークの割合、ハイパス/ローパス・フィルター処理などの調整が可能。そして一番最後のセッティング・パネルでは、ルーティング設定が行える。どのパネルも分かりやすいレイアウトになっているため、直感的に操作しやすい。

 

 またParagonの製品説明で“膨大なIRライブラリーの時代は終わった”と銘打つように、内蔵プリセットは全部で54種類と、IR系リバーブにしてはかなりすっきりとした印象。ルーム系やホール系などの基本的なものから、“Hotel Lobby”や“Car”といったものまでが収められている。

Crosstalkスライダーで定位感を調整
ワンクリックでリファレンス可能なTest Sound

 テストではAVID Pro Tools上のAUXトラックにParagonをインサート。モノラルやステレオ、5chの音源をソースに、ステレオと5.0chのサラウンド環境で試聴する。ステレオではヘッドフォン、5.0chではサラウンド・スピーカーを用いてParagonの機能や音質などをチェックしてみよう。

 

 Paragonはステレオ環境でのテストではルーム系が有効だと感じたが、3D空間ではさらに実力を発揮する。特に優れているのは、音源の定位に対する反射感。メイン・パネル右上のCrosstalkスライダーを0%にすると“その音源が存在する方向”にだけリバーブを響かせることが可能だ。このスライダーのパーセンテージを上げていくことで、ほかのチャンネルにどれだけ響きをクロストークさせるかを調整できる。多くのサラウンド・リバーブは音源が存在する方向に対して正確に動作するというより、部屋全体を均等に響かせてしまう傾向にあるのだが、Paragonでは音源の定位感をよりサポートするような響きを作り出せるのだ。

 

 5.0chのサラウンド環境では、ビジュアライザーを見ながら音源の鳴る位置とリバーブの響く範囲の関係をCrosstalkスライダーで自在に調整できる。そのため、ここぞというポイントにだけ反射音を付加したり、戦略的にサラウンド・サークル内をスッキリとした空間に仕上げることが可能だ。またI/Oパネルにある各パラメーターを用いれば、一つ一つのチャンネルを微調整できるため、実空間をリアルに再現したりなど、より繊細な空間演出が行える。

 

 便利だと思ったのは、IRパネルの右上にある“Test Sounds”。ギター、キック、女性ボーカルなど5種類のサンプルをワンクリックで鳴らせるため、わざわざ音源を入力しなくてもParagon単体で空間の響きを確認できる。また音源を毎回統一することによって、各響きのディテールやプリセットの違いを把握するのに非常に役立つと言えるだろう。

 

 プリセットの全体的な傾向としては、とてもクリアかつ存在感のあるものが多く、ステレオ環境でテストしたチェンバー系やホール系などは、音数が多いオケ中でも埋もれないサウンドだ。プリセットの“35 Room Ambience”では、すぐ近くに居るような空間演出ができ、モノラル音源に自然な奥行き感を与えるリフレクションとして使えるだろう。

 

 3D空間のリバーブ処理はとても難しい。なぜならステレオよりも空間がよく見える分、より繊細な処理が求められるからだ。しかし、実のところそこまで緻密(ちみつ)な音作りができる3Dリバーブ・プラグインは少ないのが現状であった。そんな中、ParagonはIRを再合成する独自技術によって、最小限のプリセットで最大限の空間をナチュラルに表現している。これがParagonの一番の魅力だと言える。

 

飛澤正人
【Profile】Dragon Ash、HYなどの作品を手掛けてきたエンジニア。3Dサウンドの制作を展開するnext Soundを設立し、2ミックスでは表現できないサウンドを追求している。

 

NUGEN AUDIO Paragon

71,900円

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REQUIREMENTS 
▪Mac:OS X 10.7〜10.14、AAX Native/AU/VST2.4または3対応のホスト・アプリケーション
▪Windows:Windows 8〜10(64ビット)、AAX Native/VST2.4または3対応のホスト・アプリケーション
▪共通項目:INTEL Core Duo 1.66GHz以上、インストーラーのダウンロードおよびライセンス登録のためのインターネット環境

 

製品情報

 

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