Dolby Atmos制作向けの厳選プラグイン・ガイド

THE CARGO CULT Spanner 3
7.1.2chバスの各チャンネルを自由自在に動かす高機能パンナー

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オープン・プライス(市場予想価格30,000円前後)

 

 Mac用AAX DSP/Native対応のプラグイン、Spanner 3の基本機能はサラウンド・パンナーであるが、それだけにはとどまらずサラウンド/イマーシブ制作における優れたユーティリティ・ツールとしての機能も有している。

 

 まずサラウンド・パンナーとしては1画面で個々のチャンネル(モノラル〜7.1.2ch)を自由自在にパンニングできるのが出色。例えばすべてのベッド・チャンネルをセンター・スピーカーに集めたり、フロントのL/C/Rのソースを後ろに動かしたりといったことがグラフィカルに行える。L/Rをクロスさせながらリアへ送るといったことも可能だ。また、専用iPadアプリのSpancontrolを使ってマルチタッチ・コントロールが行える。


 画面右にはフェーダーを表示。音量(MAIN MIX)のほか、左右(X)、前後(Y)、上下(Z)など、下の小フェーダーの項目をセレクトして上に表示できる。細かく調整したい向きには、数値の直接入力も可能だ。


 操作性もよく考慮されており、複数チャンネルのリンクや全チャンネルの指定、回転などのコマンドが修飾キーに割り当てられている。例えばoptionを押しながらクリックで全チャンネルが操作対象になるのは、Macでは一般的なアサインである上、画面中央に薄く表示されているので、操作に迷うこともないだろう。


 ユニークな機能として挙げたいのは“Ball to Wall”。通常、グラフィカルなパンナーだと、定位を動かす際に意図しないスピーカーへ信号が流れてしまうことがあった。Ball to Wallモードでは、画面上のボールが最も近い2つのスピーカーで信号をクロスフェードする形でパンニングを行うので、こうしたリーケージの問題を回避することが可能だ。


 チャンネル定位の自由度を生かして、ダウン・ミックスもSpanner 3を通じて可能に。LFEへのセンド量もチャンネルごとにフェーダーで指定できる。さらに、ムービー・ウィンドウにパンのポジションを重ねて表示するオーバーレイ機能も備えている。

www.tacsystem.com

 

 

NUGEN AUDIO Halo Upmix
ステレオから自然にアップ・ミックスが行えるインテリジェント・ツール

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59,900円、3D Immersive Extention:24,000円、Halo Upmix with 3D Immersive extension:83,900円

 

 Mac/Windows対応のHalo UpmixはAAX NativeのほかVST3に対応するプラグイン。これまでもステレオ・ソースをサラウンドに展開する際のアップ・ミックス用として知られてきたが、3D Immersive Extentionというオプションが加わったことにより、Dolby Atmosのベッド・チャンネルに相当する7.1.2chへのアップ・ミックスが可能となった。

 

 アップ・ミックスを提供するプラグインは多数あるが、Halo Upmixのユニークなところは、オリジナルのステレオ素材をリアルタイムに解析し、定位位置の手掛かりを特定。自然なパノラマ感を失わないように、リバーブを付加しないでアップ・ミックスを行う点にある。従って、タイミングのズレに伴うダウン・ミックス時のコーラス効果やディレイは発生する心配がなく、オリジナルのステレオ・ソースを一切損なわず、アップ・ミックスが行える。イマーシブ・ミックスをしたソースが再生機器側でステレオ化されるケースはよくあるが、exactモードで処理すると、ダウン・ミックス時にアップ・ミックス前のステレオ・ソースと完全に一致させることができる。音楽、ドキュメンタリー、シネマなど、アップ・ミックスのプリセットがあらかじめ豊富に用意されているため、フロント・スピーカー中心の定位から、音場に溶け込むような広がりのあるサラウンドのアップ・ミックスまで、サラウンドの広がり感も自在にコントロール可能となっている。


 定位の広がりもグラフィカルに調整可能。アップ・ミックスされた空間中のエネルギーの分布を視覚的に表示することもできる。ファントム・センター/ハード・センターの度合いを視覚的に表示する際にも重宝するだろう。


 そのほか、ポストプロダクション向けの機能として、ダイアログの要素を抽出し、センター・チャンネルへのアサインを細かく調整する機能もある。使い方によっては音楽制作でも活用できそうだ。さらに、3D Immersive Extention使用時には、1次〜3次Ambisonicsでの書き出しにも対応しており、VRなどへのソースの応用も可能となっている。

www.minet.jp

 

 


EXPONENTIAL AUDIO Stratus 3D
デジタル・リバーブを知り尽くした技術者による24ch対応プラグイン

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オープン・プライス(市場予想価格52,400円前後)

 

 LEXICONで960LやPCM96の開発に携わったマイケル・カーンズ氏が創業したEXPONENTIAL AUDIO。現在はIZOTOPEのブランドとして、数々の優れたリバーブ&エフェクト・プラグインをリリースしている。

 

 EXPONENTIAL AUDIO製品は、クリアなリアリスティック・リバーブと、色付けを狙ったキャラクタリスティック・リバーブに大別されるが、前者を目指して生み出された7.1ch対応リバーブ、Stratusの上位版に位置付けられるのがStratus 3D。7.1.2chのほかAuro 3Dや22.2chを含む最大24chをサポート。Mac/Windowsに対応し、AAXのほかAU/VSTにも準拠している。


 Stratus 3Dは、同ブランドのプラグインらしく、シンプルな操作性で優れたリバーブ・サウンドを得られる点がその特徴と言えるだろう。画面左にはインプット・フィルター、アーリー・リフレクションのレベルとフィルター、リバーブ・テールのレベルとフィルターという、一般的なデジタル・リバーブでおなじみのパラメーターが並ぶ。画面中央のDRY/WET MIXやプリディレイ・タイム、リバーブ・タイム、トリム(音量)も、デジタル・リバーブとしてよくある形で、チャンネル数を意識せずに使える設定がうれしい。


 一方、画面右には細かなパラメーターがページ切り替えで用意されており、設定を追い込むことが可能。アーリー・リフレクションのエンベロープを調整したり、リバーブ・テールの広さをコントロールしたりといったことが行える上、フロント、センター、サイド、リア、トップなど、スピーカー単位ごとにアーリー・リフレクションとリバーブ・テールのレベル、チャンネル・ディレイが設けられている。


 さらに、Warpセクションにはリミッターとドライブ・エフェクトも用意しており、クリア基調であるStratus 3Dではあるものの、リバーブ音の強調も可能。1,700種のプリセットをキーワード検索できるので、必要なリバーブ・サウンドに短時間でたどり着けるのも魅力だ。

www.izotope.jp

 

 

FLUX:: IRCAM Verb V3
フランスの音響研究が生み出した強力なリバーブ・エンジン

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92,000円

 

 ピエール・ブーレーズが設立に携わったことで知られるフランスの音響&音楽研究機関IRCAM。その音響/認知空間研究から生み出された、アルゴリズム・ルーム・アコースティック&リバーブ・プロセッサーがIRCAM Verbだ。再帰形フィルターによるリバーブ・エンジンを中心に、ルーム・アコースティックの特性と、響きを同時にコントロール可能としているのが特徴だ。バージョン3で待望のAAX Native対応を実現。Mac/Windows対応で、AU/VSTにも準拠している。最大10イン/10アウトにまで対応するため、7.1.2chのベッド・バス用として使用可能だ。

 

 特徴的なのは、アーリー・リフレクションとリバーブ・テールをつなぐ、クラスターという二次反射セクションを備えている点。これがIRCAM Verbの滑らかなサウンドを生み出す大きなファクターとなっている。

 

 そう聞くと複雑そうな印象を抱くが、実際の操作は一般的なデジタル・リバーブとそう大きく変わらない。操作の基本は、任意のプリセットを選び、左上のDecay Timeを調整。さらに、中央上部のグラフィックの下にあるRoom Sizeを調整した後に、右上のEQでRoomのサウンド・キャラクターをコントロールすればよい。

 

 さらに細かな調整も可能で、特にイマーシブで有効なのはOption部。Panningでリバーブ成分を実音から回転した位相に出力したり、Diffusenessで各チャンネルの相関による広がりを生み出したりといったことが行える。さらに、アーリー・リフレクションやクラスターの粗密/ばらつきなどを調整することで、エフェクティブな響きを生み出すことも可能だ。


 なお、7.1.2chを含むサラウンド・バスのルーティングは、右下段部中央にあるSetupボタンを押すとマトリクスが表示されて、確認/設定できる。通常は設定変更の必要は無いが、極端な設定としては、例えばすべてトップ側にマッピングして響きをハイト・スピーカーのみから出力するといったことも可能となる。

www.minet.jp

 

 

DSPATIAL Reverb
モデリングIRで40ch完全独立のエンジンを備えたリバーブ

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オープン・プライス(市場予想価格:77,000円前後)

 

 サラウンド音場と定位の相関を生み出すプラグイン、Realityで知られるスペインのDSPATIALが、その空間再現エンジンを抽出したリバーブとして生み出したのが、その名もReverb。最大48ch出力のモデリングIRリバーブだ。Mac用AAX Nativeプラグインとしてリリースされている。


 IR(インパルス・レスポンス)を用いたリバーブは、実空間の響きを再現する上で、通常のデジタル・リバーブよりも有効な方法であることに異論は無いだろう。しかし、実際に採取したIRを元にしているため、リバーブ・タイムの調整(特に伸張)にはどうしても不自然さがあるなどの弱点もあった。また、IRの読み込みに時間がかかるため、プリセット変更のタイムラグがあるのも事実だ。チャンネルが増えるということはIRが増えるので、収録時のノイズの影響も積算されてしまう。


 それを解消するためにDSPATIALが生み出したのは、シミュレートした空間のIRを生成するという方式。大幅にリバーブ・タイム(0.1〜10秒)を調整しても空間は崩れず、自然な響きとキャラクターが保たれているという。こうした空間モデルは400種以上も収録されている。


 さらにReverbのユニークな点は、最大48chのリバーブ個々に相関関係が無く、完全1に独立していること。一般的なデジタル・リバーブのようにたくさんのディレイの相関によって構成されているわけではないため、より自然で複雑な、没入感の高い響きを生み出せるという。


 最大48chではあるが、マルチチャンネル・バスとしてはPro ToolsのDolby Atmosベッド・バス(7.1.2ch)に対応。チャンネル・アサインもDolby Atmosに準拠している(それ以上のチャンネル数の場合は特殊なマルチモノ・プラグインとして動作)。


 なお、このReverbを7.1.2chまでに限定し、より一般的なリバーブのユーザー・インターフェースに近付けたX-verb(オープン・プライス:市場予想価格64,000円前後)もリリースされている。

www.formula-audio.co.jp

 

 

www.snrec.jp

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