「WARM AUDIO Bus-Comp」製品レビュー:伝説的なVCAバス・コンプを再現しつつ独自の機能を加えた一台

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 往年の名機をベースにした質の高い製品をリーズナブルな価格で発表し、注目を集めているWARM AUDIOより、ステレオVCAバス・コンプレッサーのBus-Compが発売されました。出力段のアンプが2種類搭載されており、フロントのスイッチでICベースのものとCINEMAG製トランスを使ったディスクリートOPアンプを切り替えて使用可能。幅広い場面での活躍が期待できそうです。

コンプ感が強めながらクリーンな音質
トランスを使用するとやや低重心に

 WARM AUDIOは2011年に設立された米国の音響機器メーカーで、マイクからアウトボードまでさまざまな製品を手掛けています。筆者は同社のWA73-EQというNEVE 1073系のマイクプリ/EQを本誌2019年12月号でレビューし、そのコスト・パフォーマンスの高さに驚きました。

 

 さて、今回のBus-Compは操作子やリダクション・メーターから判断するに、SSLコンソールのマスター・バス・コンプをイメージしているようです。スレッショルドやアタック・タイム、リリース・タイムといった基本的なパラメーターのほか、本機の特徴である出力段アンプの切り替え、サイド・チェイン・フィルター、外部サイド・チェイン入力などが装備されています。中でもサイド・チェイン・フィルターは、キックの強い現代的な音楽で大きな武器となるため、この価格帯の製品に用意されているのは魅力的。また1Uでステレオ仕様という点も、持ち運びや省スペースを考えると大きなメリットです。

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基本的なパラメーター。アタック・タイムは0.1〜30ms、レシオは1.5〜10:1、リリース・タイムは100ms〜1.2sの間で設定可能だ。リリース・タイムにはオートも用意

 それでは早速、使っていきましょう。ステレオのバス・コンプと言えば、やはりマスター・バスでの使用だと思います。というわけで、まずはマスターにインサート。2ミックスを鳴らしながらアタック・タイムを3ms、リリース・タイムをオート、レシオを1.5:1に設定し、リダクション・メーターを1〜2dB振らせます。すると、想像していたよりも強くかかる印象。リリースに独特のスピード感があり、しっかりとコンプ感が出ます。とは言えVCAコンプらしいクリーンな音質で、ひずみっぽさはほぼありません。優秀なレベラーという感じですが、何せコンプ感がなかなか強く、リダクション・メーターの振れよりも実際には深くかかっている感じなので、特にマスターで使用する際はかかり過ぎに注意したいところです。

 

 ここで試しにサイド・チェイン・フィルターを使ってみたところ、これが大変優秀で、ポンピングがかなり軽減されて非常に好印象。リズムが強く出る曲で重宝すること請け合いです。そして目玉のCINEMAGトランス(ディスクリートOPアンプ)を使用してみると、一聴してやや重心が下がるように思いました。それとともに倍音が少しだけ付加されるような変化もあります。また、リリースの挙動が心持ち滑らかになり、今回のチェックに使ったソースではICアンプのときよりも雰囲気が出て好みでした。

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スイッチは、コンプの動作をオンにするCOMPRESSOR、外部サイド・チェイン・モードに切り替えるためのEXTERNAL SIDE-CHAIN、トランス仕様の出力アンプをオンにするE NGAGE TRANSFORMERSを装備

特にドラムとの相性が良好
アタックがつぶれず余韻が持ち上がる

 続いては楽器単位で使用してみます。まずはドラム・キット。レシオ4:1、リリース・タイム最速、トランス・オンでしっかりとかけてみたところ、これがかなり格好良い。ひずみの少なさとリリースのスピード感がマッチして、ソースのアタックをきちんと残しつつ、サステインやルーム・アンビエンスが気持ち良く持ち上がります。このスピーディかつクリーンなコンプレッションは、往年のDBX製VCAコンプをほうふつさせます。

 

 ドラムの次はアコースティック・ピアノ。やはりクリーンなかかり方で、ひずみなどは全く気になりません。録音時のレベル・コントロールにも安心して使用できそうです。このように色付けが少なく、どんなソースもそつなくこなしてくれるコンプは大変貴重だと思います。現代にあって、これほどクラシカルで生真面目なコンプを手掛けているところに、メーカーの強いこだわりを感じました。

 

 ベースにも使用してみましょう。割と深めにかけても音像が崩れず、ダイナミクスがうまくまとまりました。内蔵トランスも良い仕事をしてくれて、わずかに重心を調整したいときに便利。使い込むほどに“よくできているな”と感じます。どのパラメーターにも変な癖が無く、狙ったところに狙い通りに着地させられるのは実にありがたいと思いました。

 

 駆け足でチェックしていきましたが、価格からは想像もできないほど汎用性が高く、しっかりと作られたコンプです。個人的には、マスターでの使用よりも各トラックに深めにかける方が向いていると感じます。とりわけドラムの音作りのバリエーションには一役買ってくれることでしょう。クラシカルなコンプ感から現代的な使用法まで、かゆいところに手の届くまさに優等生。プラグイン全盛のこの時代に、WARM AUDIOが良質なハードウェアを手の届きやすい価格で提供することに、真摯に向き合っていると強く感じました。ステレオのアウトボード・コンプを検討している方には、候補の一つとして試してみていただきたいです。

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リア・パネルには、左から電源インレット、外部サイド・チェイン入力(XLR)、各チャンネルのオーディオ入出力(XLRとTRSフォーン)を備えている

WARM AUDIO Bus-Comp

オープン・プライス

(市場予想価格:75,800円前後)

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SPECIFICATIONS ▪チャンネル数:2(ステレオ/デュアル・モノラル) ▪動作方式:VCA(THAT 2180 VCAを使用) ▪サイド・チェイン・フィルター:ハイパス(30/60/105/125/185Hz) ▪セルフ・ノイズ:−90dBu以下 ▪ヘッドルーム:+29dBu @20Hz〜20kHz ▪ダイナミック・レンジ:120dB以上 ▪周波数特性:18Hz〜22kHz ▪全高調波ひずみ率:0.05%以下 @20Hz〜20kHz、+20dBuインプット ▪入力インピーダンス:10kΩ ▪出力インピーダンス:50Ω

 

www.snrec.jp

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